目覚めるPower Ⅱ

「どうやってマーダーを殴ったのか、聞いてもいいかい?」

「どうやって……なんか遅いなと思ったら動きが止まったからそのまま殴っただけ?」

「動きが止まった?」


 椿が凄い怪訝そうな顔をしているが、本当にそれ以外に説明する方法がない。一度吹き飛ばされた時は見ることもできなかったマーダーとやらの攻撃が見えるようになって、遅かったから避けてそのまま殴っただけだ。


「なんか、天然なのか、みたいなこと言ってたけど」

「天然? そっか……蓮は天然のホルダーだったんだね」

「ほ、ホルダー?」

「説明は後。今はマーダーを捕まえないと」


 椿は天然の意味がわかったらしいが、説明してくれるのは全てが片付いてからの様だ。今の状況を正確に把握している訳じゃない僕が口を挟む必要はないので、椿の判断に従おう。椿のことを守ってやるにもそれが最適だ。


「そいツ、キョうりョクなノウリょくシャになりソうだ……いマのうちニしまツさせテもらオウ」

「させると思うのかい?」

「へルヘいム……おマエはあトだ」


 どうやら「へるへいむ」は椿の二つ名のようなものらしい。そして、このマーダーとかいうイカレピエロは僕のことも殺すつもりらしい。まぁ、元々の目的らしい椿の抹殺を邪魔して殴られたんだから殺したくもなるのかもしれない。普通の人間は簡単に人を殺したいとか思わないが、マーダーなんて名前を付けられている気狂いピエロは思っていそうだ。


「蓮、十分に気を付けてくれ。マーダーのギフトは巨大な手を出現させるもの……不用意に近づくと殴られるよ」

「わ、わかった」


 そのギフトというのが、僕が考えている椿とマーダーの持っている超能力のようだ。ただ、さっき僕がマーダーを殴った時は遅すぎて話にならなかったのでそこまで脅威になるのだろうか。


「シネ」

「させない!」


 さっきまでは確かにゆっくりに見えたはずのマーダーの巨大な拳が、今は目にも止まらない速さに見える。殴り飛ばされると思った寸前、椿が手を伸ばして巨大な拳を止めたらしい。どうやっているのかは不明だが、どうやらこれが椿のギフト、らしい。


「ヤっかイな」

「蓮には傷一つつけさせない!」

「もウつけテイるけどネ」

「黙れ!」

「お、落ち着け椿!」


 幼いころから、挑発させるとすぐに乗っかってしまうのは椿の悪い癖だ。今も明らかに挑発だとわかるのに、マーダーに乗せられてすぐに距離を詰めようとしている。

 なんとか腕を引いて椿を止めた僕は、そのままマーダーの様子を観察する。


「おもッタよリレイせいダな」


 マーダーの言葉を無視して、椿とマーダーの能力を考察していく。

 マーダーの能力は、椿の言葉を信じるならば巨大な手を出現させて自由に動かす能力。手を出現させて攻撃している最中に、マーダー本人の腕が動いていないことから見て、恐らく出現している手はマーダーの腕とは無関係。

 椿の能力は、恐らく壁を作るものではなく手を伸ばしたものになんらかの力を働かせるもの。射程がどれくらいかわからないけど、僕に迫っている拳を受け止められるくらいの力がある。


「ここは、ゆっくりと攻めていこう。近づき過ぎたら向こうの有利なポジションだ」

「わ、わかった。蓮の言うことなら信じるよ」


 今はその盲目的な部分がすごい助かる。

 椿は直情的な性格をしているから、誰かが手綱を握ってやらないといけない。今回の場合は、やはり僕になるのだろう。


 マーダーは危険人物だが、やり方は幾らでもある。

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