変わらないEvery day Ⅳ
人目につかないように痛めつけられた身体を庇いながら路地裏を歩く。もしこんなボロボロな格好で街中を歩いていたら不審者として通報されてしまうかもしれない。だから仕方なく路地裏を歩いて家を目指す。
それにしても、灰崎君の暴力がここまで酷くなったのは今日が初めてだった。もしかしたら、椿と灰崎君の間でなにかあったのかもしれない。
椿は身体能力が高いのに部活にも入っていないので部活ではないだろうし、もしかしたら告白でもしてみたのかもしれない。それでフラれてしまったから僕を蹴ったとか。
「……理不尽だなぁ」
本当にそうだとしたら途轍もなく理不尽だと思う。蹴られたくないからいっそのこと椿が灰崎君と付き合ってくれたら楽なのにと一瞬、思ってしまったが、これは椿に対してとても失礼なことだろう。
「はぁ……」
暴力を振るわれることには慣れているはずなのに、やっぱり継続的に人の悪意と共に暴力を浴びせられるのは精神にきてしまう。本当に精神的に参っている気がする。
最近は椿との会話も素っ気なくなってきているし、本当に灰崎君の言う通り喋らない方が心も楽になってしまうかもしれない。どちらにせよ、灰崎君は僕のことを許すことはないだろうけど。
無駄なことばかり考えながら歩いていたら、僕のスマートフォンにいつの間にか椿から連絡が来ていた。中には「今、何処にいるの?」という内容が書かれていた。椿が僕の所在を気にする理由はわからないが、適当に繫華街の名前を書いてスマホをポケットにいれた。
もしかしたら、僕の自宅であるマンションの部屋に人気がないことに気が付いて連絡してくれたのかもしれない。なにせ、僕も部活には入っていないから、下校時刻からこんなに帰宅が遅れる理由がないのだ。
腹から感じる痛みが大分マシになってきたと思って、歩く速度を上げようと思ったら、今度はスマホに電話がかかってきた。僕のスマホに電話をしてくる人間はかなり限られる。僕の生活を援助してくれている叔父さんと叔母さん。そして、さっき僕に連絡してきた椿だけである。
スマホをポケットから取り出すと、そこには「榊原椿」の名前が書かれていた。やはり相手は椿らしい。一瞬出るのをやめようかと思ったが、後で面倒なことになりそうだと思って通話ボタンを押した。
「もしもし」
『っ! もしもし蓮?』
「どうしたの椿」
『よかった……まだ電話が通じるんだね!?』
「ん? 別に圏外じゃないけど」
椿が何を言っているのかわからない。突然なにを言い始めたのだろうか。もしかしたらそういう設定の遊びなのだろうか。
『いい? 今すぐ迎えに行くからそこから動いちゃダメだよ?』
「え、別に真っ直ぐ帰るだけだからいいよ」
『ダメだ! 君が巻き込まれたらどうするつもりなんだ!?』
「えー……もしかして、繫華街で事件でも起きた?」
椿の声の焦りから遊んでいる訳ではなさそうだけど、こんなに焦っている理由が思いつかない。もしかしたら爆破予告とかテロリストが出たとか、立てこもり事件とかかもしれない。
『とにかく動いちゃダメだ! 今からむか──』
「ん? もしもし?」
あれ、いつの間にか圏外になってる。
これは……椿に言われた通りじっとしておいた方がいいのだろうか。
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