変わらないEvery day Ⅲ
「おい蓮、ツラ貸せよ」
「……うん」
一日の授業が終わり、家に帰る用意をしていたところに灰崎君がやってきた。今度は取り巻きはいなくて、彼一人の様だ。
あれだけ授業前に蹴ったり殴ったりしたのになんで椿と仲良く話してるんだ、って話だろうな。それに関しては椿の方から話しかけてきているのだから、灰崎君も勇気を出してみればいいのにと思うけど、どうやらそうはいかないらしい。
灰崎君に言われるままについて行くと、そこは校舎の陰になっている人がこなさそうな場所だった。いつも思うけど、こんな場所をどこから見つけてくるのだろうか。現実逃避にそんなことを考えていたら、想像通り腹を蹴り上げられた。
「テメェやっぱり全く分かってねぇよな? 俺のこと馬鹿にしてんのか?」
「そ、そんなこと、ないよ」
「黙れよ! 榊原と喋るなって言ってんだろ!」
彼のしていることは醜い嫉妬なのかもしれないが、実際に灰崎君のように暴力を振るわなくても僕のことを疎ましく思っているクラスメイトは沢山いることを知っている。元々、灰崎君のように人と関わることが得意じゃない僕は、クラスの端っこで本を読んでいたいと思う性格なのに、クラスメイトの女子からモテているからと難癖をつけられたことは昔から何度もある。
「反省するまで蹴り続けてやるからな!」
「ご、ごめんなさい」
「心が籠ってねぇよ! 榊原と二度と喋らないと誓え!」
白髪という珍しい髪の毛だからモテているんだと言われて、学校に持ってきた本を勝手に燃やされたり、なんで身長が高いんだって言われて足を蹴られたり、色々な経験をしてきた。その中でも、灰崎君のように何度も殴ったり蹴ったりしてくる人は珍しい。人は怒りという感情を持ち続けることに疲れる生き物だが、彼は常に怒っている。
「うっ……ぐぎぃっ!?」
「おっと……鼻に当たっちまった。けど、お前が悪いよな!」
「は、はい……」
鼻が熱くなって液体が滴る感覚がある。鼻血が流れる感覚を味わいながら、灰崎君に何度も蹴られる。
いじめを受けていると教師に言った方がいいのかもしれないけど、対応してくれるかどうかはわからないだろう。そもそも、僕にはそんな勇気がない。悪事を暴いて灰崎君を断罪するなんて、そんなことは僕にはできない。
結局、夕方の時間まで蹴られ続けて、お昼に食べたパンまで吐いてしまったが、灰崎君が突然鳴り響いた携帯電話の着信音に反応してそのまま何処かに行ってしまったので今日の制裁は終わった。
「……馬鹿だな、僕」
椿が今の僕を見たら、本気で怒って泣いてくれるだろうなと思った。我ながら本当に女々しい考え方だと思う。やり返す方法なんていくらでもあるはずなのに、それをしようとしないのは僕が軟弱だからなのかな。
なにが正しいかなんて判断、もう僕にはできない。
ただ学校に行って、毎日灰崎君に蹴られ殴られ、血を吐きながら学校から帰る。これが僕のここ一週間ぐらいの日常になっている。灰崎君だって前はこんな暴力ばかりじゃなかったのに、いつの間にか僕が血を吐いても止めなくなってしまった。本当に、そのうち殺されてしまうかもしれない。
「……まぁ、いいか」
僕を虐待していた母はもう死んだ。
今更、僕が死んだところで世界は変わらない。
僕の日常は、変わらないんだ。
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