変わらないEvery day Ⅱ

「わ、神代君」

「おっとごめんね」

「だ、大丈夫……」

「本当にごめんね」


 神代というのは僕の苗字だ。クラスメイトの女子からは殆ど「神代君」と呼ばれることが多い。

 灰崎君から蹴られた腹が痛んでいたせいであまり前を向いていなかったので、廊下で女子とぶつかってしまった。顔を赤らめているが、ぶつかった彼女は特に怪我もしていなさそうだ。僕の過失で怪我をさせたと思うと罪悪感が凄くなってしまうので、怪我がなくて本当に良かった。


「か、神代君とぶつかって喋っちゃった!?」

「は!? あんただけ狡いわよ!」

「事故だったんだからしょうがないでしょ?」

「羨ましい!?」


 全て聞こえているが、こういうのは聞こえないふりをしておくのが紳士なのだろう。

 自惚れではなく、僕は女子からの受けがいいらしい。幼馴染の少女も僕のことをイケメンであると称していたので、実際にモテているのだろう。その結果、クラスでもう一人のイケメンと呼ばれている灰崎君に蹴られたり殴られたりしている訳だけど。

 まぁ、灰崎君の暴力はそれ以上に幼馴染が原因だと思うけど。


「蓮、何処に行っていたんだい?」

「……ちょっと用事があってね」


 噂をすれば、このクラスの委員長で男子女子共に人気がある王子様系女子のご登場である。

 彼女の名前は榊原椿。僕の幼馴染で、同性にも異性にもモテる完璧な女性だ。女子高生とは思えない圧倒的な美貌とスタイルで、少し強気でありながら困っている人がいたら迷いなく助ける正義感も持つ美少女。頭もよく、身体能力がとても高い、まさに天が二物以上に与えてしまった存在だ。身長の女子の中では特に高く、この高校の生徒全てが彼女に魅了されているのではないかと思うほどファンの多い女子高生である。

 人気者の椿は、幼馴染だからなのかやたらと僕に構ってくる。それに関して鬱陶しいとかは思ったことがないけど、それが理由で灰崎君にいじめられているのは事実だ。なにせ、クラスメイトからモテモテなはずの灰崎君は椿のことが好きで仕方がないらしい。ただ、椿は基本的にそういう告白みたいなものは全て断っているので、灰崎君も上手く気持ちを伝えられずにいるらしい。


「本当かい? 私は蓮のことが本当に心配で……いや、子供じゃないんだから、こんなこと言われても困ってしまうかな」

「ううん、そんなことないよ……ありがとう椿」


 椿はなにかと僕に頼って欲しいと言うが、この暴力は灰崎君と僕の個人的な話なので椿には言いたくない。たとえ原因が榊原椿という女性なのだとしても、それに巻き込むのはあまりにも理不尽だと思う。


「……なら、いいけれど。本当になにかあったら教えてくれよ?」

「わかってるよ。幼馴染、でしょ?」

「……うん」


 椿はクラスでは常に凛とした表情をしているけど、僕と話している時だけこうやって柔らかい笑みを見せてくれる。もしかしたら、椿は僕のことが……なんて考えたこともあるけど、それが現実であったらどれだけ僕は幸運な人間なのだろうかと考えていつも止めてしまう。

 いけない。こんなことを考えていると、椿にまた自己肯定感を何とかした方がいいと言われてしまう。


 それでも、僕は今の日常がやっぱり嫌いだった。

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