いじめられていたけど社会の裏側では最強の力を手にしてしまいました~何故か女性からのアプローチが激しくなって困っています~

斎藤 正

 

能力覚醒編

変わらないEvery day Ⅰ

「おらっ!」

「うぐっ……」


 僕は今、同級生にひたすら殴られたり蹴られたりしている。場所は高校の体育館の裏側で、僕に暴力を振るっている生徒はクラスメイトの男子数人だ。世に言ういじめなんだと思うけど、正直あまり実感がない。というのも、僕は別にお金をせびられたりとか自分の席を放り投げられたりだとかはしていなくて、ただ身長が高くて女子に受けがいい顔をしているからという理由で暴力を振るわれているだけなんだ。どっちかというと、不良に目を付けられたって言えばいいのかな。


「お前、今日は由美に色目使われて調子に乗ってたよなぁ?」

「の、乗ってないよ」

「口答えしてんじゃあねぇ!」

「ぐっ」


 僕の腹を蹴っているのは灰崎慎太というクラスメイトで、周囲で笑って見ているのは彼の取り巻きだ。

 灰崎君はいつもクラスの中心で喋っている陽キャって言えばいいのか、とにかく中心でいつも騒いでいる人の頂点にいる。サッカー部に入っているんだけど、あまり真面目に練習には出ないんだとか。それでも、持ち前の身体能力だけで弱小高校のサッカー部を県ベスト8まで持っていったんだから、きっと凄いんだろう。僕にはスポーツはよくわからないけど。

 髪を金髪に染めていて、肌も少し浅黒く焼けているオラオラ系の風貌をしている。部活の練習に出てないのに身体も筋肉質で、身長は僕がいなければクラスで一番高い178㎝らしい。それが理由でよく蹴られたりするから覚えてしまった。


「ちっ! スカした態度しやがって」

「顔でも殴って歯でも折ってやればいいじゃん灰崎君」

「んなことしたら教師共に怒られんだろうがよ。バレない様にやってりゃ教師も見逃すんだからそれでいいんだ、よっ!」


 どうやら顔を殴らずに腹ばかり蹴るのはそういう理由があるらしい。

 因みに、灰崎君にはスカした態度を取っていると言われているが、僕はただ反撃も対抗もせずに蹴られているだけだ。そうすれば人は勝手に飽きてやめてくれるから。僕の母親がそうだったから。


「そろそろ授業始まっちまうよ灰崎君」

「授業ぐらいサボればいいだろ」

「でも一年が次、体育だって」

「……くそっ! ならさっさと帰るぞ」


 やっと終わったらしい。

 今は春で僕らは進級したばかりの季節。この時期の体育は体育館の扉を半分だけ開けて行うことになってるからすぐにバレてしまうと思ったんだろう。やっぱり、なにも抵抗しなければ酷くもならないからこれでいいんだ。


「いてて……口の中、切っちゃった」


 血が制服につかなくてよかった。

 これでこの後の授業も出られそうだ。


 毎日やられていることとはいえ、当然ながら殴ったり蹴られたりするのが嬉しい訳じゃない。こうやって痛めつけられれば、僕だって憂鬱な気分になることもある。けど、僕の身長が高くて、生まれつき白髪でおかしいから仕方ないことなのだ。そうやって母親に殴られて育ってきたのだから、もうそういう人生だと諦めもついている。


「はぁ……やだなぁ……」


 不意に口から不満が漏れてしまった。もしかしたら、心のどこかでは僕もこんな日曜は嫌だと思っているのかもしれない。けれど、それをどうにかする手段なんて僕には存在しない。


 変わらない日常に対して、なにもできない僕が嫌いだ。

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