第10話 三嶋梨律(リッくん)とバレンタイン9
「何が欲しい?」
あたし自身の真剣な眼差しを
「あなたの望むものを1つだけあげる。
今のあたしにはそれが限界。
だけど、あなたが約束を守ってくれる限り、あたしはあなたを裏切らないことを誓うわ。
今は、それだけで許してほしい」
「
「
「私も……?
あの女が先輩の唇を奪ったのが、どうして私もタダで済まないことになるんですか?」
「単純な話ではないけど、よく理解してほしいの。
でも、それを伝え切る前に、あなたにこの場から立ち去ってもらわれると……あたしはすごく困る」
「だから、先にあなたの望みを教えて欲しい。
あたしがそれに応える代わりに、あなたはあたしの話をしっかりと聞いてくれると嬉しいな」
「私の望みが何か、先輩にはわからないんですね……」
どうやら……あたしが
正直、今のあたしに
しかし、考えろ。
彼女が何を求めているのかを!
あたしに盗聴器を仕掛けて、どうしたかったのか。
そうだ。
盗聴器を仕掛けて、チョコを渡すチャンスを伺っていたのだった。
あたしが彼女のチョコを受け取ることが彼女の望み?
そうじゃ……ないと思う。
そんな簡単なことじゃ、ないと思う。
あたしにチョコを渡したかったのは何故なのか。
あたしのことをどう思っていたのか。
激昂した
今日あたしに関わった2人を目の敵にしている?
昼にお店で話していたことを
だから
「ねえ、
「どうして今、
そんなこと、私が知るわけないじゃないですか!」
「実はね、この服は
あたしも今日のお昼に知ったことだから……。
でも、
"
同僚に優しくて、面倒見も良くて、スタイルも良くて、その上、課長職で仕事もバリバリできちゃうんだから。
相当いい
「たしかに
今、
「そうなんだよね。
「大人の……関係……。
「うん。
だから、あたしも、
「
あの
「ね?
だから、彼氏持ちの友達から、たまたま服を借りることができたってだけで、ラッキーだったなあって思ったんだよね」
「……友達から……」
「友チョコももらったし、あたしも
「それ……信じていいんですね?」
「もちろん、信じてくれていいよ」
「キュレールの
一方的にキスされたのに……後悔しないって…………。
それは……先輩が
「それを気にしてたの?」
あたしは
「ひゃぁ……」
「ふふっ。
それも心配しないで。
あたしは、残念ながら、婚約が決まっている人を好きになったりできるほど、恐れ知らずでもないし、臆病者だから、これから
ただ……」
「ただ……?
ただ、なんだというのですか?」
「ただ、
本当は外部に漏らしてはいけない会社の状況も……、婚約のことも……。
あたしにだけはと、打ち明けてくれたこと……。
あたしのことを、それほどまでに想っていてくれたこと……。
それがあたしにとって、ものすごく嬉しいことだったの……。
その嬉しさが、唇を奪われたことよりも
「…………」
「……
「私も…………」
「……うん?」
「先輩のことを、ずっと……ずっとずっと慕っていました……。
私が入社して間もない頃から、先輩は女子達に囲まれてました。
いつも……そこが羨ましかった……。
私には、その輪に入るのがすごく大変なことで…………。
遠くから先輩のことを見ている事しか出来なかった……。
それでも先輩は、私が作ったブローチを嬉しそうに受け取ってくれて、そして、よく使ってくれていて……。
それなのに、盗聴器を仕込んだなんて…………。
私は本当にバカです……」
「…………
ありがとう」
「……!?」
「あたしは嬉しい。
あたしが"
「先輩を嫌いな人なんて!この世に存在しません!」
「ははは……それはちょっと、どうかな?
電車とかでおじさん達の隣りに立ったりすると、むちゃくちゃしかめっ面されたりするし、あははははは……」
「そんな人たちなんて先輩を見る目が無さすぎるんです!
なんなら私がそのおじさん達全員の瞼を縫い付けてやります!」
「あ、いや、ちょっと待ってね……。
どうどう、落ち着いて。ほら、ね?
おじさん達もそんな怖い思いとかしたくないだろうし、あたしに免じて(?)許してあげて欲しいな〜……なんて……」
「じゃあ、スネを蹴飛ばすくらいに留めておきます」
「あ、あはははは……。
危害を加えるの……禁止しちゃおうかなぁ〜……はははは……」
この子はちょっと目がマジだからやりかねないところが怖い。
現に盗聴器仕込まれたりしてるし……。
けっこう危ないのでは……?
「で、
「……ふえ?!それは……!」
急に目の色が変わったのを、至近距離のあたしが見逃すはずがない。
こうなれば、とことん押してみようと思う。
顔を近づけて、耳元で囁いてみる。
「
かわいいよ……」
「ひゃうん?!」
耳を塞げなくなった
「あたしが、
例えば…………。
その白い首筋に、キスマークを付けるとか?」
「……みゃっ?!?」
「今の声も……すごく可愛いよ……」
「ななにゃな、ふゃわう?!」
「……どうして欲しいのか……教えてくれないと…………。
…………食べちゃうよ……?」
「……はぅんんん♡」
あぁ……ちょおっっと、調子に乗ってやりすぎたかも?
なんとか腰を支えているけど、離したらすぐに床にへたりこんでしまいそう。
まるで、社交ダンスで女性(
「……ええと、とりあえず、今日のところは"キス"……」
キスと言いかけたところで、
キスがしたい……そういうことなのかもしれない…………。
あたし……1日に2回も、彼女じゃない相手とキスする羽目になるの?
「"キス"……」
ピクッと反応している。
どうしよう…………。
盗撮強すぎない!?
圧倒的に不利な戦いを強いられてる気分…………。
でも……やるしかないのか…………。
「
今から"キス"するからね……?」
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