第8話 三嶋梨律(リッくん)とバレンタイン7
「
「ああ、
ちょうどいいところに」
キュレールの
「キュレールのお嬢様のお見送りは終わったのね。
ところで、さっきのは何?
いや、待って……あんた、どうしたのその格好!?」
「あはははは…………。
ちょっと泣かれてしまいまして……ははは……」
「あんたといい、キュレールといい……
今日はどうしてそんなに私を悩ませることばかりなのかしら……」
「
あたしの胸貸そうか?」
手を広げて歓迎の意を示す。
「嫌よ。
というか、あんたのそのグチョ濡れの胸に飛び込む奴なんているわけないでしょ!」
「あはははは……だよねぇ…………。
どうしよ、これ……着替えとか用意してないよ……。
次の会合……ほんとどうしよ……」
「それよ!
あんたがあまりにもキュレールのお嬢様にかまけてるから!
代わりに
「
でも、スケジュール埋まってたはずじゃ!?」
「アイツならできるのよ、それが……。
でも、そのせいで私との食事はキャンセルかしらね…………」
「……ごめん、
「その様子じゃ」
そして思案気に指を自身の細い顎にあてながら……。
「あんたも泣いてたんでしょ?
メイクが少し崩れてるし、目の下が腫れてるわよ。
瞳も充血してる……。
一体あのお嬢様に何を言われたの?
あんたが泣いてるところなんて見たことないわ…………。
愚痴があるならあんたも今のうちに吐き出しちゃいなさい。
今なら少しだけ、この優しいお姉さんが聞いたげる」
「いやー……それがね……」
「ん?なにかしら?」
あたしが口を開きかけた時、
「あ、あの!」
「ごめんね、宮下さん。
あとで、オフィスに戻る時なら大丈夫だから、ほんとにごめんね」
「あっ、
本当にごめん!今はちょっと……。
後でお話聞かせてね?楽しみにしてる!」
首だけを後ろに向けて、このびしょ濡れのスーツはなるべく見せないようにして、後輩の
一瞬だけ
後でフォローしてあげないと……ごめんよ、
「ちょっとここで話してるわけにも行かなそうね。
うちのビルの地下にジムができたの知ってる?
そこでシャワー浴びてらっしゃい」
「え?あたし会員じゃないし、着替えもないよ?」
控え室に入って、
「あたしの着替えを貸してあげる。
スーツじゃないけど、その格好のままよりは、きっとマシよ」
確かに下着にも染みてきてる。
「へぇー。
けっこう意外」
「
「ああ、それなら納得」
「はい、これ。
一応運動用のウェアも入ってるわ。
気分転換に少し走ってきてもいいわよ。
スーツなしじゃ……どのみち会合は無理でしょうからね」
「なにから何まで本当に感謝しかないよ、
感謝の印にまたほっぺにキスを。
「やめなさいっ」
「んぶっ」
あたしの唇は
「私はあんたと
このカードのメンバー紹介で来たって言えば、初回登録料金は割引で無料になるから使って」
こんな形でジムデビューをするとは思わなかった。
しかし、確かに気分転換もかねて走るのは良いかもしれない。
「ありがとう。
お言葉に甘えて、少しだけ走ってこようかと思う」
着替えと紹介カードを
この紹介カードで
「ええ、そうしなさい。
今日は色々あったでしょうから、その方がきっといいわ」
あたしの中で
あたしのピンチを1日に4回も救ってくれた。
エレベーターに乗り、押したことのなかった【B2F】のボタンを押す。
フロアの数字が下がって行き、地上階を通り過ぎて、B2Fに到着した。
エレベーターの扉が開いた。
B2Fにはこのジムしかない。
エレベーターのすぐ近くにジムのフロントがあった。
本当に一度も立ち入ったことが無かったのだが、清潔感があってきっちり消毒もされているようで、独特のにおいがした。
受付の人も鍛えていそうなお兄さんで、にこやかに、そしてさわやかに対応してくれた。
ハキハキとした声も好印象だ。
ジムの入会手続きはすぐに終わったが、これからトレーナーによる施設内の説明があるらしい。
入会手続きと同時に一応、Tシャツを1枚購入して、受付のお兄さんから受け取る。
少し待っていると、すぐにスタッフのお姉さんが横のスタッフオンリーの扉から出てきた。
ムキムキというか
着替える場所やトレーニングルーム、シャワー室など、一通りの案内があるんだ。
イメージ的に、勝手に
今どきのジムってすごい。
入会特典でジムのロゴ入りタオルと給水ボトル、それから動きやすい館内用のシューズをくれた。
靴をもらったシューズに履き替えてから館内を案内が始まった。
やはりトレーナーのお姉さんも声にハリがあってハキハキとしていて聞き取りやすい。
適切に筋肉を
他にも筋肉がつくと自然と自信が
あたしは
そういえば、ここに通っているという
何しろオフィス内の全員に届くのだ。
普段からジム
館内の着替え部屋は一人一人が使える個室になっていて、内側から鍵もかけられる。
シャワー室も広くて使いやすそう。
新しくできたジムだからか、あたしが想像していたよりずっと綺麗で、女性にも
トレーナーも指名制で男女共に
それぞれに得意なトレーニングメニューがあるのだとか。
会社と同じビル内にあるという
ちなみに今日案内してくれているトレーナーの
体作りのプロってすごいなぁと思って不躾にも身体中を眺めてしまった。
あたしとは生きてる次元が違うのかもしれない。
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