問題解決 だが誰が究明した?

 数日後、皇太子府からの発表に誰もが驚いた。


「ドラゴンニュートほか、性別に偏りの生まれている種族が生まれる原因はセントラルヒーティングによる温度上昇のためである。ドラゴンニュートなど一部の種族は卵が置かれた環境の温度によって性別が決定するため、彼ら種族が活動しやすい気温では性別が一方に偏るのである。故に卵を気温の低い環境に置けば偏りは解決する」


 ドロテアの起こした騒ぎで大きな話題になり始めたこともあったが、数年来の問題を短期間で原因を見つけ出し、解決策を提示したことに多くの人々が驚いた。

 何より、これまでのらりくらりと先送りにしてきた皇太子府とは違う迅速な対応に驚いた。


 発表の信憑性に疑問の声もあったが、提示された諸データ、出生数の変化とセントラルヒーティングの導入時期、導入前の季節毎の出生する性別の変化――寒い時期に男児が多く暑い時期に女児が多いことが示され多くの人間が納得した。


 性の決定を種族の特性とはいえ人為的に決めて良いのか、という疑問が挙がったが、具体的な施策はドラゴンニュートに任された。

 各種族の内政に関与しないのが帝国の基本方針であるためだが、微妙な問題だけに相手に押しつけたのが本当。

 尻切れトンボのような感じだったが、原因を究明した実績は皇太子府の大きな功績となり、次期皇帝、皇太子への威信と期待が高まった。




「サザーランド侯爵、このたびはなんと礼を言って良いのか。また先日、貴方へ行った罵倒と私の醜態、どうかお許し願いたい」


 発表された後、ドロテアは再び皇太子府を訪れ、サザーランド侯爵にドラゴンニュート代表として感謝の言葉を述べ、先日の非礼を詫びた。


「いやいや、ドラゴンニュートの問題が、原因が分かって良かったです」


 命の危機にさらされたサザーランド侯爵だったが、朗らかに受け入れた。

 このような性格のため温厚なのだが、付け入ろうとしないところが政治家としては今一歩に思える。

 だが、弟には良い先生であり、周囲の潤滑剤となっている。

 裏から手を回すのは自分がやれば良いと思ったヴィクトリアは肝心な事を尋ねる。


「それで、サザーランド侯爵。どうやって原因を究明したのですか?」


 短期間で原因を究明できたのは良いが、どうやって究明したのか興味があった。

 それに、これまでの実績からしてサザーランド侯爵の力で究明できたとは到底思えなかった。


「実は帝国図書館から資料請求をしたとき、このような書類が挟まれておりまして」

「書類?」


 ヴィクトリアは差し出された書類を受け取り、内容を確認する。

 そこには発表された内容と同じ事が書かれていた。


「最初は馬鹿げていましたが、説得力があり、部下に改めて調べさせた所、事実だとわかり、発表しました」

「なるほどね」


 確かに仮説だけを見れば荒唐無稽だ。

 生まれてくる赤ん坊が男か女かは、神々が決める物、コウノトリのご機嫌で決まると思い込んでいたヴィクトリアを始め多くの者が思い込んでいた。

 他の種族も同じであると思っていた。


 その思い込みに、この資料は鮮やかな一撃を食らわせた。

 否定しようにも立証するデータが、参考にした統計資料の出典と合わせて載せられた数字が書き記されていては事実であると認めざるを得ない。

 この資料を纏めた人物は、かなり優秀なようだ。


「それで、誰がこれを書いたの?」

「それが作成者の名前が書かれておりません」

「名無しの優秀な提案者ね」


 普通なら匿名の提案などゴミ箱へ捨てるだろう。

 しかし、これほど衝撃的で論理的で説得力のある書類は滅多にない。

 見る者が見れば、この書類に引き込まれ、内容に頷いてしまう。

 そして、この書類の内容は、事実だった


 同時にサザーランド侯爵の性格がお人好しである事もヴィクトリアは改めて理解した。

 匿名で実証されている書類など自分の手柄にしてしまえば良い。

 あとで名乗り出ても、証拠などないのだから。

 欲がない分、弟を預けるのに最適な人物だ。


 だが、お人好しな分、自分が裏から手を回す必要がある。

 しかし、裏から調整するだけでは、ごまかしたり、先送りしたりする程度の事しか出来ない。

 優秀な人材が。

 現実を見据え、難問の中から解決策を見つけ出せる優秀な頭脳が欲しい。

 この書類を作成した人間がヴィクトリア欲しかった。


「誰かしら」


 呟いた時、ふとあの日、自分を無視した文官を、くせっ毛で帝国図書館の紋章を付けた文官をヴィクトリアは思い出した。


「ねえ、ドロテア」

「なんだヴィクトリア」


 少し警戒するようにヴィクトリアにドロテアは尋ねる。

 ヴィクトリアは昔からの友人だが、同時に気を抜けない相手であることもドロテアは理解している。


 人当たりが良いが、いつの間にか相手の弱みを掴み、いざというときに突きつける。

 それがヴィクトリアだ。

 この前、ドロテアが思わず竜化したときも、学園時代のドロテアの黒歴史をバラすと脅され、血の気が引いて竜化が解けてしまった。


「そんなに緊張しないでよ。ただ、解決策を見つけてくれた相手に会いたくないかなと思って」

「ドラゴンニュートの救世主だ。是非ともお礼が言いたい。だが心当たりがあるのか」

「ええ、サザーランド侯爵」

「はい、姫様」

「少し手伝って貰えますか?」

「勿論です。私もこのような解決策を見つけてくれた人物にお礼が言いたい」

「じゃあ、帝国図書館に依頼をして欲しいのですけど」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る