『掃除の神アボッ・トロイと勇者大谷麻アイギス』



「すぅ、はぁ……よし!神様、どうか勇者様をお遣わし下さいませ!!」


【そなたの願い、この掃除の神『アボッ=トロイ』が叶えよう。とっとと出てけ!! クソみてぇな勇者『大谷麻アイギス』!!】


「言われなくてもこんなとこ出てってやるよヒゲ面クソ老害!!」


「もう開幕から不安しかないんですけども!?」


【よく聞け巫女よ。コイツとは掃除の方向性の違いで喧嘩しとるんじゃ】


「いや、掃除の方向性の違いって何ですかっ!?箒か水拭きかとかそういう違いですかっ!?」


「あー……すみませんうちの老害が。あたしは『隅々まで完璧に掃除』こそ至上だと信じてるんですが、そこの老害が『四角い部屋のまぁるい掃除』こそ究極の掃除だとか妄言吐いてて。巫女さんからも何か言ってやってくださいよ」


「そんな事よりもうちの世界を救う方法とか議論しません?」


「いやいやいやいやいや掃除論より重要な議題なんてないでしょ! なーにが『四角い部屋のまぁるい掃除』だよ隅っこに塵とか溜まるだろうがよ!」


【なわけねぇだろ!? 目に見える居住スペースさえ綺麗なら、大体が綺麗に見えるんだよ!! 隅っこまでやってたら時間も労力もかかりすぎる。無駄でしかねぇじゃろがい!!】


「貴方らのその議論の方が無駄だよ!掃除は掃除でも、こっちが頼みたいのは魔族の掃除なんだよ!!」


【安心しなされ。勇者には素晴らしい能力と素晴らしい神の呪いを授けたから、魔族などすぐに掃除出来るじゃろう】


「呪い!?」


「呪いはさておき、私の固有能力は『吸引』! 怪物だろうが決戦兵器だろうが杉の木だろうが黒光りするアイツだろうが、私が手をかざして呪文唱えればブラックホール的なナニカが開いて全部吸収しちゃうんです! この力にかかれば世界のゴミは跡形もなく消え去りますよ。これぞ完璧な掃除!」


「すごぉい!!……って、威力調整とか対象指定とかもちろんできますよね?ね?」


「できますよ! 関係ない一般人まで吸い込むわけにはいきませんからね、ゴミじゃないものが詰まったら自動で排出される仕様になってます」


「一安心」


【基本的には全ての勇者にこの様な便利能力を授けておる。だが、コイツとは反りが合わなかったんでな。『ペーパーフィルター』という呪いをかけたんじゃ。これは、『吸引』の初期ステータスにマイナスバフが掛かり、更にこの能力をを使うごとに段々と吸収・分解能力に掛かるマイナスバフが強くなるのじゃ。それに分解しきれなかったカスも残る】


「前言撤回!安心できない!?」


【ただ、それだけだと勇者として送り出すのには迷惑極まりないだろうから、カスを排除する方法もある】


「こう、吸引する手と反対の手をかざすとカスを狙った場所にぶち込めるんです。例えば魔族の腹の中とか、魔族の胃の中とか、あと魔族の消化器の中とか」


「ダストシュート!?」


「その通り! 魔族の腹なんてゴミしか入ってないし多少ゴミが増えたところで大して変わんないっしょ。そしてその隙にマックスの威力で魔族を吸引ってとこです☆」


【それも実は神の気まぐれで送り先決まってたりするから、気がむくとたまに勇者の腹ん中に送り込んでおる】


「おいその仕様聞いてねえぞふざけんな!!」


「神様、勇者の事嫌いすぎません!?」


【だってこいつ何かとうるせぇんだもん!! 俺の書斎にまで文句つけてきやがる!! 今そっちとの窓開くから見てみろ。いい感じだろ!? な?】


「え……あ、はい……?」


「ほら巫女さんも困ってるじゃねーか! スト○缶くらいその辺に放っておかないでちゃんと中身洗って捨てやがれ! それになんだよその本の上にうっすら溜まってるホコリはよぉ! 掃除の神の名が泣くぞ!?」


「埃高い神様?」


【スト○は昨日ヤケ酒して二日酔いのまま放置してしまっただけだ。それに本棚なんでまともに見るやつ居ねぇだろ!! 遠目から見たらほぼ分からねぇし、そもそも読まない本はどの家庭もそうだろ!!】


「そりゃ読む本読まない本はあるけどそれはそれとして掃除くらいしろよットロイ! 前世のアタシがどんだけハウスダストアレルギーと黒光りするGに泣かされたと思ってんだ!!」


【知らんがな!! おめぇの死んだところそもそもクリーンルームだし、死因一酸化炭素中毒だろ!? 毎週のように死んだヤツ勝手に来るから、前世の話されてもこっちとら興味持つヒマすらねぇんだわ!!】


「クリーンどころかブラックな話してません!?」


「アレは殺虫剤研究所で働いてた時に新人がヘマして研究室から黒光りするG逃がしちまって、殺すために研究所全体にガス撒かれた時に逃げ遅れたんだよ!! あとてめぇが転生させたんなら前世の話くらい興味持てやごらぁ!」


【勝手に最高神が送り込んでくんだよ。テキトー言うんじゃねぇ!!】


「あれ?ブラックなのって神様の職務の方?」


「いや。あの老害の腹だね」


「いやいや、勇者様も大概なような」


【だよなぁ!! 巫女ォ!! なんか仲良くしてける気がするぜ!!】


「だからといって神様が白というわけではないですからね!?」


「そうだそうだ! 巫女さん、やめといた方がいいですよこんな老害と仲良くするの。こいつ酔ったら延々と掃除論という名の妄言ばっか語っててうるさいんですよ」


「お供え物のお神酒は脇によけときますね」


【お前だって、どこいってもホコリ1個見つけると永遠小言のクセに】


「小姑!?」


「見えるところにホコリ残してるてめーが悪いんだろ!!」


【よその神んところ行ってもそうだったろ?】


「そら魔族よりホコリの方がよっぽど害だからな。アタシは塵ひとつとして許さん」


「いや、私たちとしては魔族の方を駆逐してほしいんですが」


【文句はそこの大アイギスに言ってくれ】


「どっちも大概バカ……ごほっごほん。ナンデモナイデス」


【巫女よ。今のセリフで俺はキレたぞ。クーリングオフは無しだ!! 受け付けんぞ!!】


「体のいい厄介払いにしか聞こえませんが!?」


「こっちだってお前のとこなんか二度と行くか!! 泣きながら呼び戻されたとしてもお断りだわ!!」


【神界が綺麗になるんだから万々歳だ。誰が呼び戻すかよ、ゴミ勇者ァ!!】


「下界なら汚していいとでも!?」


【神界の存在からすれば、下界は十分肥溜めだからな】


「勇者さん!この性根の腐った生ごみを掃除してくださいな」


「はい言われなくてもそのつもりです! おいットロイ! 次会ったらテメェの腹ん中に俺が溜めに溜めたカスぶち込んで悶えさせてから塵も残さず吸引してやる!!」


【誰が授けた能力か忘れたのか? ボケ勇者ァ!! その能力消し飛ばしてお前をチリにしてやる】


「ゴミを増やすな神様!」


「そうだそうだ塵残すなクソが! ずっと言ってるけど、てめぇの掃除なにかと雑なんだよ!!」


【だったらお前のゴミだけは完璧に消してやるよ。季節外れの流星群はコイツの死体だと思え!!】


「星屑って、ゴミのうちに入るんですかね……?」


「星屑ってかスペースデブリじゃないっすか? ……いや誰がスペースデブリだ!!」


【宇宙に放り出しゃ誰もがスペースデブリだ!!】


「夜空の星々が全部光るゴミに思えてきそうなのでやめてください」


【光らないゴミが光るゴミになるんだから良いじゃろ】


「内容には光どころか闇しかないんですが」


「見ろ!星がゴミのようだ!ってか?」


【元ネタ言ったキャラがゴミやん】


「(よくわからないけど、ゴミなのは貴方達の会話内容では?)」


【おい、聴こえてるぞミ=ゴ。我らの会話をゴミとか言うでない】


「じゃあ、もっと建設的な会話をお願いしても?具体的には対魔族についてなど」


「それは吸えばなんとかなるってそこの老害が言ってたし……」


【基本方針大バカ任せだから我に言うな】


「そんな行き当たりばったりな方針で大丈夫なんですか?魔族と一口に言っても色々いますけど」


「……たとえば?」


「巨体で吸い込めるかも怪しい、ジャイアントとかギガースとか」


「それは吸い込み口を広げればなんとかなりますね」


「そもそも実体がないレイス系列とか」


「実体無くても概念ごと吸えますね」


【人相性格こそ最悪だが、それ以外の能力も我が与えた能力も一級品だ。だいたいどうにか出来る】


「……もしかして、めっちゃ期待できる……?」


【安心しろ『性格が最悪』だ。期待するだけムダだぞ】


「そんな勇者を送り込む神様も充分性格が悪いのでは……?」


【えっ、何の話? 我歳で耳が遠くて聴こえない〜】


「勇者様、ちょっとあの神様の耳垢全部吸い出してもらえます?」


「いいっすよ!! おいクソジジイ耳こっち向けろ!!」


【ぷれぜんとふぉーゆー】(自力で取り出した耳垢を巫女・勇者の上に出す)


「きたねぇぞクソ神が!!」(即座に吸引)


「ぎゃあ!神様の精神性を表すかのように汚い!?」


「そうだそうだ! 掃除の神が聞いて呆れるわ!!」


【聞くその神が我ぞ】


「呆れた目で見ればいいですか?」


【魔族ごと貴様ら大掃除するぞ】


「世界が滅ぶ!?」


「職権乱用だろうがアホ!! 最高神にチクるぞ!!」


「あ、もし裁判とかあるなら私傍聴席で参加したいです」


【出来るもんならしてみやがれ!! 転生者にそんな手段ねーだろが】


「うわ、開き直りましたよ!」


「もう汚職の神に転職しろ」


【プレミアム付き汚職事件ってね。それこそゴミじゃねーか】


「むしろプレイングミスで"プレミ"では?」


【神クラスの奴がやらかすからプレミアムで良いんじゃね?】


「なるほど、プレミアムプレミですか!」


「世界一いらんプレミアムだな。犬どころかGでも食わんぞ」


「神様は食わせ物ですけどね」


【なんじゃ? 我そんなに美味しいモンか?】


「演技なら食えない神様だなと褒めますけど、もし本気で言ってるなら……いえ、やめておきます」


【素でバカな自覚はあるが何か文句でも?】


「文句の前に、この神様チェンジで♪」


「賛成。なぁアホッ=トロイよぉ、お前本棚だけじゃなく脳みそまでホコリ被ってんのか?」


【脳に溜まってんのはホコリじゃなくてゴミだな】


「ゴミなのはお前の存在自体だろうが。なんならアタシがお前ぶっ殺して下克上して新たなる掃除の神襲名してやんよ。その方が神界もクリーンになるだろ? なぁ?」


【その邪な思考こそがゴミなんだよ!! お前今から消すわ。汝、業火に焼かれて灰塵と化せ!!】


「……?……!?えっと、何が起きたんでしょうか?」


【可燃ごみ】


「ああなるほど!……って!勇者様ぁ!?魔族を掃除する前に自分が掃除されるって何なんですかぁ!!神様も何て事してくれるんですかぁ!?」


【疲れたから帰るわ。次の神に期待しておいて。んじゃ、お疲れっしたー】


「ちょっと待ってくだ――ってもういない!?帰るの速っ!?ああもう!せめて代わりの勇者くらい用意していってくださいいいいいいいいいいいいいい!!」



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