第三章 神話伝承③
***
その夜も森のなかで野宿となり、幸白は物語を語ってくれた。今度は、月から来て月に帰る
森を
村の入り口で待っているように幸白に言いつけてから、紗月は村のなかを歩いた。
幸白は「白い子」だ。樫の国では
本来は善良な人々が、貧しさゆえに
そのため、紗月はこの村が豊かそうなことを確認して
紗月は村の入り口に戻って、
紗月と幸白は並んで歩いていく。
市女笠をかぶっている男性が珍しいからか、すれ
『
「そういえば、樫の国では双子が
幸白がため息をついたところで、紗月は「そういえば」と思い出す。自分が生まれ育った村にも、似たような札が立ててあった気がする。
村で双子が生まれた話は聞かなかったはずだが――。記憶が
「お二方、よそから来たの?」と問われて、紗月が「そうだ」と答える。
夫妻は幸白の顔をのぞき込んで容姿をまじまじと見て、「白い子だ。ありがたや」と拝んできた。
「すみません。このお
幸白は
「あのお触れが出始めたのは、十四・五年ぐらい前のことですよ。樫の国では、双子が
とうとうと、老女は語った。
「樫の国で双子が不吉とされるのは、『双子が生まれると家が滅びる』という
夫のほうが推理を
「実は、
妻のほうが、声をひそめて教えてくれた。
「とある村が落ち武者のせいで滅びたとき、樫の国の国主様が直々に
「今も――? その……陽菜姫が生まれてすぐ、あのお触れが出されたんですよね?」
「ええ、そうです。あのお触れと国主様が女の子を捜していたことを結びつけ、国民は『国主様は双子で生まれた
その話を聞き、幸白は考え込むようにうつむいていた。
彼自身が梓では凶兆とされる存在なので、双子の
「お触れが出て、何か変わったんですか?」
幸白が問うと、妻のほうは首を横に振った。
「根付いた風習は、そうそう変わりません」
「でも、国主様がお触れを出したことで、双子に生まれた子でもそのまま育てることにした貴族も現れた、とかで。全く効果がないわけではありません。このまま、迷信が
夫のほうが希望論も交えて、言い
「あの――僕らは兄弟で旅をしているのですが、用事があって弟が一人で行かないといけないところがあるんです。しばらく、僕を
「会話を聞いていて、理知的でよさそうなひとたちだと思ったからね。この規模の農村なら、
「それもそうだな」
旅籠がない村では、村で立派な家を持つ村長や長者の家が客人を泊める役割を持つ。しかし、そういうところはどうしても人の出入りが多いので、幸白のことはあっという間にうわさになってしまうだろう。幸白は死んだふりをして、身を隠しているのだ。目立つのは、できるだけ
幸白の
かくして幸白は老夫婦の家でしばらく
「……もう、見送りはいいぞ」
紗月が気まずくなって振り返ると、幸白は
「信じているけど、必ず
裏切るな、と言いたかったのだろう。紗月は歯がみした。もう、あの時点で
だが、一度殺そうとしてきた相手を全面的に信じるのは難しいのだろう。
「わかってるよ。それより、幸白。よく聞け」
「うん?」
「私が情報を持って無事に戻ってこられる確率は、正直――五分五分だ。反対に
「……
「それと、私が戻ってこなかったら――その勾玉は、大切にしてくれ。売ったりせずに。約束してくれ」
切々と
「約束するよ。でも、そんな気弱なこと言わないで。必ず、戻ってきて。君のためにも」
幸白に
「ああ。戻ってくる」
「うん。気をつけてね。さっきは、また
「いいさ。あんたの立場上、そうせざるを得ないってのは、よくわかるから」
紗月が微笑んでみせると、幸白はホッとしたように息をついていた。
「無事に戻ってこられるように、
「ああ。じゃあな」
そうして紗月は、幸白に背を向けて駆け出した。
(失敗したくないな……)
幸白には五分五分と言ったものの、実際は成功する可能性はもっと低いだろう。
虚空が遠くに仕事に出ているのが、
君を守るは月花の刃 白き花婿 青川志帆/角川ビーンズ文庫 @beans
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