第三章 神話伝承②
そのまま、森を歩いていく。幸白は文句ひとつ言わずに、ついてくる。
ふと、紗月は足を止めて幸白を振り返った。
「どうかしたの?」
「しっ。――
紗月が言い終わらないうちに、木々の合間から男たちが走り出てきた。紗月は
野盗だ。構えも、なっていない。乱暴なだけの
「紗月、殺すな!」
幸白に警告されたため、紗月は刀の
振り向くと、幸白も男の攻撃を刀で受け止めて、流し、
もうひとりかかってきた男をいなし、
野盗は合計、五人だった。紗月が三人、幸白が二人仕留めた。
「行くぞ」
野盗たちから
「どうして、殺すなって言ったんだ?」
「君はまだ、
「……正解だが、それがどうしたんだ」
未熟な暗殺者だと見破られていたのだろうか。
「僕も誰も殺したことがないんだ。だから、こんなところで人を
「正当防衛で殺すぐらい、別にいいだろう」
紗月の答えに、幸白は苦笑していた。
「本当に、そう思う?」
「……何が、言いたい?」
「身内の話になるけど、僕の
幸白の話で、虚空が「人間は、ひとをひとり殺すと様変わりする」と言っていたことを思い出す。
さきほどはいきなり幸白に命令され、手加減できる相手だったので、そのまま昏倒させるように動いただけだが……。
(どうせ私は死ぬのだし、いっそ誰も殺さないまま死んでやるか。暗殺者になりきれなかった、「できそこない」らしいだろう。誰も殺さず幸白を守ることで、「何か」を成し
それは、なけなしの意地のようなものに裏づけされた感情。
そんなことを考えて、紗月は春の
その日は、森で野宿をした。
「私は見張りをする。あんたは
紗月が木にもたれながら
「見張り、交代制にしようか」
「いい。私は、一日ぐらい寝なくても
幸白の提案を
「……といっても、全く寝ないのは大変だろう。別に君は、僕に命を取られるわけでもなし。交代制にしようよ」
「わかった」
紗月も疲れていた。言い争う気力もなくて、小さくうなずく。
「よろしく。君が
「寝る前に、何か聞きたいことがあったら、言って。今日は、過去を語り合ったよね」
「……別に聞きたいことなんか、ないけど」
とは言ったものの、気になることが心にあぶくのように
「あんたは、いい教育を受けたんだろう。文化とか、そういうのに
「え? ああ、まあそれなりに。何を知りたいの?」
「物語……を」
紗月がためらいながらも、おずおずと口にすると、幸白はぽかんとしていた。
「――幸白?」
声をかけると、彼は我に返ったように、
「……ああ、うん。別にいいよ。でも、一体どうして?」
「いや、なんとなく」
はぐらかしたが、実は紗月には物語の
「どんな物語がいいの?」
「神話以外のが、いい」
「ふうん。じゃあ、短いお話をしてあげようか」
幸白は語った。
「……それは、面白い、のか?」
紗月が首を
「うーん。でも、有名な話だよ。聞いたことない?」
「ないな。あんたが
「わかった。でも、どうして神話は嫌なの?」
「神様なんて、信じてないから」
「
幸白の発言に、紗月は思わず
「あんたは一応、梓の神の
「そういうことになってるけど、創世神話なんてほぼ創作だと思うな。懐疑的なのは、願いを
「誰も救ってくれなかったからだ。住んでた村は
「そう。なんだか、理由が似てるような気がするね。――じゃ、おやすみ」
幸白は刀を
完全には、紗月を
(それでいい)
紗月は木の葉の合間から、星の
真夜中、紗月が
紗月は
夜明けごろに起こされ、ふたりで
***
幸白は、紗月の
(本当に、強いんだな)
野盗との
(より効率よく殺すための、
どうしてか、紗月のことが気になり始めているようだ、と自覚する。
どこか
強さと弱さを
ただ利用するだけの予定なのに。
(僕と彼女の道が交わることなんて、ないのだけど)
不毛な想いは芽生える前に、捨てるべきだろう。
幸白は心のもやもやを
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