第24話 硬い意志

 そろそろ学校では昼休みか。と思いながらスマホを開くと、スマホに大城からメッセージが届いていた。『二人そろってサボり~?』なんて書いてあったからスルーした。

 すりおろしたリンゴをもって部屋に入ると。


「何やってんだ和奏」

「あぁ、柊くん。マシになったから曲を完成させてる」

「……お前なぁ」


 和奏はベッドに半身起こしてノートパソコンに繋いだヘッドフォンを外して淡く微笑む。


「明日だよ。ぶっつけ本番なのはもう受け入れるけど、それでも曲をしっかり完成させて身体に染み込ませなきゃ。あ、リンゴ、すりおろしてくれたんだ」

「あ、あぁ」


 差し出したお椀を和奏は素直に受け取った。


「これはね、例え命を賭けてもやり遂げたいの。例え柊くんにだって、邪魔されたくない」


 硬い意思。眩しい瞳。テコでも動かせないと悟らされる。

 僕は和奏に、この和奏に。何も言えない。和奏が何よりも大事なのに。その和奏の無茶を、和奏自身も、その心も大事なんだ。だから僕は和奏を止められない。

 だって今目の前にいる和奏が何よりも大切だから。……僕が憧れた、好きな和奏だから。だから。


「わかったよ。ただし、また熱上がったら文化祭も休ませるからな」

「うん!」


 和奏には、眩しく笑っていて欲しいから。和奏に後悔して欲しくないから。そのためなら僕は。なんでも……なんだって。




 音楽が聞こえた。なんだろう知らないのに、知っている。よく知っている気がする。

 そうだ、これは、和奏の曲だ。和奏の音楽だ。心に染みてくる音色だ。

 僕の一番好きな音、

 足りないのは歌声だけ。それでも僕はこれが和奏の音楽だとわかった。それだけ僕の耳に染み込んでいる。

 曲が最初に戻ったのがわかった。そしてそこに歌声が加わった。

 感じる。空気が変わる。きらめきだす。思わず目を閉じた。頭に入ってくる情報を減らして、ひたすらに和奏の歌声に浸りたかった。

 気がつけば手を叩いていた。部屋にいる和奏に届かないだろう。


「……和奏は本当に、凄いな」


 守るんだこれを僕が。それがきっと僕のこの生涯でやるべきことなんだ。

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