第19話 振り返る出会い

 思い出すのは昔のこと。

 小学生の頃、和奏が転校してきて半年ほど経った頃のことだ。

 夏休みが明けても、和奏への当たりが弱まることなく、そしてそれを和奏は当然のこととしてどうでも良さそうに見ていて。そして僕は影から和奏への嫌がらせを妨害していた。


「影で私のこと見てるならさ、いっそ隣にいてよ」


 そんなある日の放課後のこと。いつものように和奏への嫌がらせを妨害していたら。


「なんで君は私を守るの?」

「そうしないといけない気がするんだよ」

「どういうこと?」

「わからない。最初は気に入らなかった。自分の手を汚さないでお前に危害を加えようとする奴が。でも、今は……」


 和奏を勝手に助けるようになって、僕の技術の上達は格段に速くなった気がする。

 人の視線を欺き、盗み、誘導し、『忍』として術を発動させる。その点において『操糸術』は都合がよかった。

 元々は『操縄術』だったらしい。時代が進み技術が進歩して秘伝の製造法が確立し、どんどん縄が細く頑丈になり、隠密性は増したがより難しい『操糸術』となった。

 普段は服の裏地に繊維の一つとして隠してある糸の先端に取り付けた針を用い、壁や木に刺すことで糸を張るのを基本とし、即席の様々な罠を咄嗟に張ることができる他、応用もかなり利く。

 あらゆる戦場を自分の領域とする。

 大人でも諦めた人も多いこの技術を身に着けられた。それは。


「お前を守ると決めたから頑張れたんだよ」

「? その糸の奴? それ結局何なの」


 何も言えずに目を逸らすと、くすっと微かな声が聞こえて。


「一緒帰ろ」


 差し出された手を僕は何も考えずにとっていた。同い年とは思えなかった。浮かべる笑みは幼いようで、でもまとっている雰囲気は大人びているようで。

 その日から和奏と一緒にいるのが当たり前の日々になった。けれど僕らの間には薄く温かで柔らかなカーテンのようなものがかかっているように思えた。それが心地よかった。

 



 「やめ、ペンを置いて。答案を後ろから集めてきて」


 テスト最終日となった。


「や、柊くん。どうだった?」

「普通。というか、人の心配の前に自分の結果を確認しろ」

「はーい」


 講師役を申し出てくれた忍野さんは思いのほか熱心に和奏の勉強を見てくれたおかげで大城は問題ないと言える程度まで教えることはできた。その彼はテストが終わったら早々にボール抱えて教室を出て行った。


「じゃあ柊くん、早速約束通り頼むよ」

「どこか行くのかい?」

「あ、忍野さん。忍野さんのおかけでいっぱい解けたよ」

「それはよかった。よかったら打ち上げ行かない? って言っても部活始まるまでのランチタイムなんだけどさ」

「お、いいねー行く行く! 柊くんも行こっ!」

「あ、あぁ。良いのか。部活のやつらは?」

「みんな練習前だから軽くおにぎりとかサンドイッチで済ませちゃうんだよ。がっつり食べるのは女子バレーだと私だけ」


 あぁ、まぁそりゃ。

 バレーはやったことはないけど、飛ぶ競技だろ。自重は最大の敵だ。がっつり食べる方が異端だろう。


「二時間あればお腹軽くなると思うんだけどなぁ。というわけでおすすめのお店あるから一緒に行こう!」

「おー!」


 と意気揚々に腕を突き上げたのは和奏だった。


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