第15話 週末のこと

 週末。母がわざわざ車で会いに来た。和奏の諸々を買うためだ。

 車でに十分程度のショッピングセンター、電車で二駅程度、簡単に歩いていける距離ではあるが、荷物のことを考えると母が来てくれたのはありがたい。でもまぁ。


「結局のところ何を買うんだ」


 ショッピングセンターに来たのは良いのだが。買い物という部分しか聞いていなく、具体的な目的を知らされていなかったことを思い出した。


「えーっと、とりあえず」


 シャンプーやボディソープ等の詰め替え用。新しい戸棚やベッド、デスクを注文。他にも服屋さんにも行って。


「どう? どう? 柊、和奏ちゃん可愛くない?」

「はいはい、可愛い可愛い」

「つれない反応ねぇ……いやー選び甲斐があるわー」

「アハハ……」


 やりづらい。けれど。

 試着室の中で鏡を見て色々ポーズしている和奏は正直言って、街中ですれ違えば思わず振り返って目で追ってしまいそうな魅力があった。


「んー……買おうかなこれ」


 という呟きを母が聞き逃すはずなく。


「じゃああとはこれとこれね。店員さーん」


 レジへ突撃していく母の背中を見送り。


「まぁ、服そんなに持ってないって言ってたし丁度良い……のか?」

「うん、そうだね。今まではあんまり色々持ってても忙しくて着る機会なかったけど、これからは違うから」


 言葉とは裏腹に、和奏の笑顔はどこか晴れやかとは言い切れない雰囲気があった。


「お昼何食べようか~」


 と、財布を呑気にぶんぶん振り回す我が母が戻ってきたので店を出た。


「色々あるみたいだし、迷うわ~」


 そう言いながら後ろ向きに歩く、母だから誰かにうっかりぶつかるヘマなんてしないから良いけど。その横から不自然な角度で近づいてくる男が一人。だが何事もなくすれ違う。


「そうだねぇ。和奏ちゃんは何かリクエストは?」

「お任せします!」

「そ。……んーどうしようかなぁ」


 男がぎょっとした顔で振り返るがすぐに逃げるように早足で歩く。そりゃそうだろ。確実に財布を掴んだはずなのにその手は空を切ったのだから。


「よし! 決めた!」


 隙だらけのように見えてこの母から財布を盗めるわけがないのだ。そうでなければ僕がこの母から一本取れるようになるまで十年もかかるわけがない。




 「で、ハンバーガーか」

「そうなの。一度食べてみたかったのよね」


 ショッピングセンター内にあった、Mを掲げたハンバーガーショップ。お昼時の混む時間帯が少し過ぎた頃。母は言葉のわりに迷いのない手つきで包み紙をほどきかぶりついた。


「食べたことなかったんだ」

「えぇ。柊は結構食べてるみたいね」

「便利だから。早いし結構美味しいし」

「満喫してるわね~。和奏ちゃんもどうぞ」

「あ、どうも」


 注文するときに僕がとりあえずでおすすめしたダブルチーズバーガー三つ。そこにポテトのLサイズとコーラ。ナゲットも三人分。

 まぁこの量でも。


「あら、意外と美味しいわね」

「ダブチはやはり至高……」


 なんて良いながら二人はパクパクと食べ進める。……なんでこの中で僕が一番少食なのだろう。育ち盛りの男子高校生だぞ。

 僕がおかしいのか和奏たちがよく食べるのか。

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