大木の家で
「なんで……なんでこんなことになったのか、今でも現実を受け入れることができません。父親思いの優しい子でした。私がもっと早く気づいてあげられたら……」
「杉町の家ってお母さんいないの?」
テレビで杉町亮の父親の記者会見を見ながら、大木健司はぼそっと尾瀬彩佳に話しかけた。
「さぁ」
父親の記者会見の途中、画面が杉町亮の遺書に切り替わった。
「『同じクラスの××さん、**くん、○○くんが怖くて学校に行けません。この先のことを考えると生きていないほうがいいと思います。優しくていつも僕を支えてくれたお父さん、本当にごめんなさい』かぁ。ぼかし入ってるけど、あそこに俺たち3人の名前が入ってんだろうな。一番目、尾瀬の名前だな、きっと」
「じゃぁ2番目は俺、3番目は大木か。たぶんネットじゃ今頃俺たち特定されてるだろ。俺たち超有名人。3人グループでアイドルデビューでもするか」
田山広也は他人事のように言った。
「けどあの遺書、杉町君の字じゃない気がするよのね。あたし杉町君と同じ班だったから、彼の字時々見てたし」
「じゃぁ誰の字だよ」
「もしかしたら、お父さん?」
「なんで杉町の親父がこんな小細工すんだよ」
「杉町君のお父さんって、杉町君にすぐ暴力振るってそうだったじゃん。もしかしたら杉町君、暴力を苦に自殺したんじゃないの?」
「そういえばいつだったか、顔腫れあがらせて『親父に殴られた、警察行ってくる』って言ってなかったっけ?」
「それでどうなったわけ?」
「よく分からん。たしかそれから数日してまた殴られたっぽいこと言ってた気がする。けどやつに悪口言われたから無視した」
「もしかして杉町の親父が、自殺した責任を俺たちになすりつけようとしてんじゃねぇの?」
「たしかにあたしたち3人の名前、あのお父さん知ってるわよね。あたし名前言った記憶残ってるもん」
「このことマスコミに流したら、マスコミのやつら飛びつくんじゃね?」
「取り上げてくれるわけねぇだろ。下手すりゃ俺たちが他人のせいにして反省してねぇって余計に叩かれちまう。マスコミは杉町の親父をかわいそうな父親、俺たちを極悪非道の同級生にしたてあげて視聴率稼ごうとしてんだ」
「真実よりも金儲けか」
「いじめで金儲けってわけねぇ」
「たしか杉町って、尾瀬が田山の月謝袋を自分のバッグに入れた、尾瀬にハメられたって言ってなかったか? あんなの俺らにとっちゃ120%嘘だって分かるけど、杉町の親父がこれネタにして、マスコミの力借りて尾瀬を大悪人に仕立て上げるかもしれねぇな。こっちがいくら杉町がどうしょもないやつだっていう証拠積み上げても、マスコミは全部スルーするだろ」
大木はテレビのリモコンをもつと、涙ながらに語る杉町の父親に向かって、
「この嘘つき!」
と言い放ち、テレビを消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます