第24話 救出(後編)

「ん……あそこ!」


 アルが指さす先、岩山の中腹にぽっかりと開いた大穴が見える。


 まだ遠くてよく分からないが、あそこにフェリシアがいるのは間違いなさそうだ。

 周囲は草原から荒涼とした乾燥地帯に変わり、徘徊するモンスターも王都周辺に比べ強くなっている。


「戦術リンク:エネルギーシールド!」


「アル、飛ぶぞ!」


「うんっ!」


 いつものシールドスキルで防御を固め、全力の力を込めて大地を蹴る。


 ドンッ!!


 反動で地面がえぐれるが、その甲斐あって空高く舞い上がる俺たち。


 ちらりと向こうに巨大なカエルを引き摺っている馬車が見えたが、気にしている場合ではない。


「アル、戦闘準備!」


「らじゃー!」


 俺の腕の中で、トンファーを構えるアル。

 風切音と共に、大穴がどんどん近くなる。



 ***  ***


「ゴブゴブ! オンナガイルゾ!」


 デモンズホールから湧き出てきたゴブリンたちは、岩に刺さった鉄棒を引き抜き、縛られたままのフェリシアごと地面に横たえる。

 穴に転落する危機は去ったものの、状況は好転していない。


「エルフダ! エルフダ!」


 普段ならどうってことのない低級モンスター。

 だが手足に枷を嵌められ、魔法の発動体も奪われた状況ではどうしようもない。


「セカガーサマ! コイツ、パンツ ハイテナイデスゼ!」

「ムネハナイケド アナハアルナ」


 ゴブリンたちに纏わりつかれ、身体じゅうをまさぐられる。

 服をめくられ、下着をつけていない事もバレてしまった。


 ゴブリンたちは下品な陰茎をおったてている。


「やめなさい!」


 どがっ!


「コ、コノッ!」


 隙をついて蹴りで1匹を吹き飛ばしたものの、すぐに他のゴブリンたちに抑えつけられてしまう。


「ああっ!?」


「まったく……ゴブリン共は馬鹿でいかんな」


 ズズン


 ゴブリンたちを蹴散らすように出てきたのは、体高5メートルほどの赤銅色のオーガー。

 ジュンヤたちが倒したというジャイアントオーガーよりは小さいものの、より引き締まった筋肉と、簡単な魔法を使う知能を持つ。


「ん~? ワンズを知ってるのか?。

 アイツは我らの中でも最弱、突っ込むしか能のない馬鹿だからな!」


「吾輩は、濡らしてから突っ込むぞ!」


「う……!」


 グランオーガ―の太い指が、むき出しのフェリシアの下腹部を撫でる。


「「ギャハハハハハハッ」」


 何がおかしいのか、馬鹿笑いするゴブリンたち。


「エルフの女は名器だからな。

 それに、処女血を啜ると魔力が上がると言われている」


「セカガーサマ、ワレラニモ ワケマエヲ!」


「ゴブリンのお前たちが魔力を上げてどうする?

 心配せずとも、吾輩の後に突っ込ませてやる……吾輩の術で膜を再生してな。

 使い放題だぞ!!」


「「オオオオオオオオオッ!!」」


 いけない、このままでは。

 わたくしはグランオーガ―の慰み者にされてしまう。


 それに、グランオーガ―のおぞましいセリフ。

 死ぬことも許されず、ゴブリンたちに犯され続けるのか。


 いやだ。

 絶対に嫌だ!


「ジュンヤさん……!」


 フェリシアが”救世主”に祈った瞬間……!


「フェリシア!!」


「!!」


 今一番聞きたかった声が、空の上から聞こえた。



 ***  ***


 段々と地上の様子が見えてくる。

 手枷足枷をされ、鉄棒に縛り付けられているフェリシア。

 彼女にはゴブリンが群がっており、そばには巨大なオーガーまで。


 もはや一刻の猶予もない。

 あのままではフェリシアはモンスター共に犯されてしまうだろう。


 させないっ!


 俺はロングソードを抜くと、剣技スキルを展開する。


 ======

 ☆戦闘スキル熟練度:8

 ---> 天空斬り…… 使用回数20

 ---> 回転斬り…… 使用回数15

 ---> 魔法剣…… 使用回数10

 ---> オーガキラー…… 使用回数5

 ======


 フェリシアに酷いことをしたのだ。

 最大攻撃で葬ってやる!!


「戦闘スキル:オーガキラー!」

「戦闘スキル:魔法剣(ホノオ)!」


 ロングソードの刀身がオレンジ色に輝いたかと思うと、炎に包まれる。


 オーガキラー……亜人系のモンスターに属性補正50%が乗る。

 魔法剣はオマケだ。


「アルはゴブリン共を頼む!」


 リバサガの戦闘はターン制ではなく行動ポイント制だ。

 戦闘スキルを使った後はどうしても行動が遅くなる。


 ゴブリンごときからダメージを受ける俺たちではないが、隙を突いてフェリシアに悪さをするかもしれない。

 牽制役は必須と言えた。


「任せて!」


「うおおおおおおっ!」


 俺はアルから手を離すと、大上段にロングソードを振り上げる。


「くらえっ!」


 落下の勢いのまま、燃え盛る剣をグランオーガ―に向かって振り下ろした。



 ***  ***


「えっ……?」


 目の前で起きたことが信じられない。


 空から流星のように舞い降りたジュンヤ。

 炎を上げるロングソードをグランオーガ―の脳天にぶち当てる。


 ザンッ!

 ボオッ!!


 魔王配下の重鎮と思わしきグランオーガ―は、一撃で真っ二つになると炎に包まれ悲鳴を上げる間もなく灰になる。


「魔界の暴れん坊と言われるグランオーガ―が、一撃で?」


 ヤツに襲われたら、エルフの村の手練れたちが束になっても太刀打ちできないだろう。

 それほどの上位モンスターを一撃である。


「フェリシアお姉ちゃん! 助けに来たよ!」


 ふわり


 真っ白なワンピースが、フェリシアの肩に掛けられる。


「え、アルちゃんまで!?」


 グレーの防刃服を着こみ、茶色のチェックスカートでびしりと決めたアル。

 不思議な形の武器を両腕に持っている。


「アアッ、セカガーサマガッ!?」

「カマワネー、アタラシクフエタ オンナモヤッテ ヒトジチニスルゾ!」


「ああっ!?」


 ゴブリンたちの中には知能の高いホブゴブリンも混じっていたようだ。

 アルは魔法使いだし、あれだけの数のゴブリンが相手では……ジュンヤもグランオーガ―を倒したばかりで動きが鈍い。


「任せて」


 アルはにこりと笑うと、不思議な武器を逆手に持ち替え眼前のホブゴブリンに叩きつける。


 ブンッ……バキッ


「グハッ!?」


 なすすべなく吹き飛ばされ、絶命するホブゴブリン。


「まだまだ行くよ」


 バギッ、ドガッ!


 彼女が振るう棒状の武器がゴブリンの身体を砕き、ローファーの踵が顔面にめり込んだゴブリンは吹き飛ばされ、穴の奥に落ちていく。


「そうか……!」


 アルは獣人族。

 身体能力が高い彼女は、本来前衛の方があっていた。


「えっと、ホノオ!」


 ブオッ!


「ナ、ナンダコノガキ!?」


「強い……!」


 瞬く間に10体以上のゴブリンを倒すアル。


 舞うようなその動きに見惚れていると、グランオーガ―の絶命を確認したジュンヤがフェリシアのもとにやってくる。


「アルも大張り切りだな。

 遅れてごめん、フェリシア」


「助けに来たよ」


「っっ!!」


 分厚い雲が割れ、日の光がフェリシアとジュンヤを照らす。


「ううっ、ジュンヤさあああんっ!!」


 あまりに眩しいその笑顔に、感極まったフェリシアはジュンヤに抱きつき子供のように泣きじゃくる。


「頑張ったね」


「はいっ」


 ぽんと頭に置かれた掌の暖かさ……その感触を自分は一生忘れないだろう。


「……ということで。

 フェリシアお姉ちゃんもやっちゃう?」


 いつの間にか、いたずらっぽい笑みを浮かべたアルが隣にいた。


「これ、魔法の発動体」


 彼女が使っていた武器の1つを手渡される。

 棒の半ばに宝玉が埋め込まれており、彼女の言う通り魔法の発動体として使えそうだ。


「……そうね。

 誇り高きエルフの民……村で随一の魔法の使い手と呼ばれたわたくしが。

 ここまでされて、黙っているわけにはまいりませんね」


 身体の奥底から、信じられないくらいの力が湧き出てくる。


「覚悟してくださいっ!」


 フェリシアはアルから受け取った武器の先端をゴブリンたちに向けると、全ての力を解放した。


「”メガホノオ”!!」


 ゴオオオオオオッ!


 炎の旋風はゴブリンたちを飲み込み、灰も残さず焼き尽くしたのだった。

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