第12話 新生・ハジマリーノ村
「畑の外側に砦を?」
「正確には砦と防塁を組み合わせた防御施設ですね」
村人たちの住宅を建て終え、畑の造成もあらかた終えたころ、俺はヒューバートさんらを連れて村の外に出ていた。
「それにしても、これを1週間で作っちゃうなんてね」
「凄すぎ」
マリ姉とアルの称賛に頬が熱くなる。
振り返ると、新生ハジ・マリーノ村の全貌が目に入る。
広大なため池のほとりに広がる小麦と野菜の畑。
隣には牧草地を整備し、家畜を飼う予定だ。
なだらかな丘に沿って立つのは数十軒の住宅。
新築なった煉瓦亭の姿も見える。
家々からは朝餉の煙が立ち上り、行きかう村人たちもみな笑顔だ。
「築城スキルがランクアップしたお陰かな」
ステータスウィンドウを展開する。
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モベ ジュンヤ
LV1 ヒューマン
HP :470 最大値:9,999
MP :260 最大値:9,999
攻撃力 :220 最大値:9,999
防御力 :140 最大値:9,999
素早さ :140 最大値:9,999
魔力 :175 最大値:9,999
運の良さ:110 最大値:9,999
☆戦闘スキル熟練度:5
☆築城スキル熟練度:10
---> 土嚢…… 使用回数20
---> 掘削…… 使用回数10
---> 深掘削……使用回数5
---> 整地…… 使用回数5
---> 防塁…… 使用回数20
---> 建築(木造)…… 使用回数10
---> 建築(石造)…… 使用回数5
---> 投石器(R1) …… 使用回数3
---> バリスタ(R1) …… 使用回数1
☆戦術リンク(アルフィノーラ):3
E:ロングソード(攻撃力+10)
E:布の服(防御力+5)
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新たに建物の建築スキルと、防衛に役立つ兵器の設置スキルが使えるようになった。
村を離れることもあるかもしれない(せっかくだからみんなで旅行も行きたいし)ので、ここらで防御施設を作ろうと思ったのだ。
「”ステータス”か~。 あたし出せないんだよな~」
「むむ(細目で見ている)」
そう、ほんのわずかにステータスウィンドウを知覚できるアルも驚きではあるが、
転生者であるマリ姉がステータスウィンドウを展開できないのだ。
『マリナさんは”天然もの”ですね』
ハマチみたいに言うな、とは思うが
女神ユーノの話では、ごくまれに転生女神を介さない異世界転生が発生するらしい。
「ほい、怪我しないようにこれを付けてね」
マリ姉から手渡されたのは合皮製の安全グローブと安全靴。
「いや~、ジュンちゃんが来てくれたからか、
あたしのウルトラテクがびんびんだわ!
ヒュー、今夜も試してみる?」
「めもめも」
「……マルー、アルが真似るからやめなさい」
夜のウルトラテクも少々……いやかなり気になってしまうが、女神を介さず転生したマリ姉のスキルは”創造”。
叔父さんの食堂を手伝っていただけでなく、材料系の大学に通い素材メーカーに勤めていたマリ姉は”素材”の知識が豊富だ。
この世界にある材料を元に、元の世界の製品なども作ってしまえる錬金術のようなスキルを持っていた。
リバサガの築城スキルで作れるのはガワと最低限の設備だけなので、細かな内装や道具を創造してサポートしてくれるマリ姉のスキルはとてもありがたかった。
ふかふかで快適なベッドも清潔な水洗トイレもマリ姉の手によるものである。
「ん~、前はここまでの物は創れなかったよ?
ジュンちゃんがこっちに来たから……”戦術リンク”のようなものじゃない?」
そうなのだろうか?
ユーノの話では”天然もの”が身に着けるスキルは千差万別であり、事例が少ないこともあってマリ姉のスキルはよく分からないとのことだった。
「それじゃまず……監視塔を兼ねた砦と防塁から作ろうか。
危ないから少し離れてて」
マリ姉のスキルの謎はあるけれど、快適生活を送れるのは良い事である。
俺はマリ姉たちを下がらせると築城スキルを発動させた。
「”防塁”!」
「”土嚢”!」
「「「おおっ!」」」
ドドドドッという音を立て、村と農地を囲むように堀が掘られていく。
深さは5mほどで、片側はなだらかな斜面になっているが村に近い方はオーバーハングがついた壁になっており、並のモンスターでは登ることすらできないだろう。
「これでよし、次は……」
堀は蹄鉄状になっており、村への入り口となる部分には掘らない。
そこに配置するのは……。
「”建築(石造)”!!」
ゴゴゴゴ……
「なっ!? 地中から大きな岩が?」
「浮き出て来たよ!?」
予想通り、地下水脈が縦横に走るこの一帯の地盤はとても固い。
岩盤を成す黒曜石の塊が、地面を割りながら出現する。
「とりあえず2階建てのBモデルで」
後から拡張も可能なので、手っ取り早く砦を成型する。
「「建物が……自動で?」」
1階は左右に張り出し、中央に物見やぐらを兼ねた2階を置く。
ゴゴゴゴゴ
僅か10分後には、黒光りする砦が村への入り口をふさぐように出現していた。
砦の入り口は分厚い樫の扉で閉じられており、この辺りのモンスターの攻撃力で破ることは不可能だ。
「”バリスタ”!」
「”投石器”!」
ランク1の武装なので簡易な造りだが、左右の張り出しに防衛用のバリスタと投石器を設置する。
石や矢は作る必要があるけどな。
「とりあえずこんなもんですかね。
ゆくゆくは防塁を2重にして迷路なども設置したいですけど。
この辺りのモンスターに備えるには十分かと」
「……って、ヒューバートさん?」
そういえば、途中から二人の反応が無くなっているような。
背後を振り返ると、あんぐりと大口を開け目を見開いて固まっているヒューバートさんとアルの姿が見えた。
「……ああ、砦や防塁は
すぐに作れるんですよ。
家族構成で間取りが変わる住宅なんかはこうは行きませんけどね」
「それに、さすがにドラゴンクラスのモンスターや、最新アップデートで追加された異世界侵攻部隊を退けるにはテンプレの砦ではとても……」
「ジュンちゃんジュンちゃん」
好きなゲームの話になると饒舌になってしまう。
熱く語る俺の肩をマリ姉が叩く。
「多分ヒューとアルが気になってるのはそう言う事じゃなくて。
このレベルの防御施設、王都にもないよ?」
「……マジで?」
リバサガでは初級レベルと言える構成だったのだが、この世界基準ではどうやらやりすぎてしまったらしい。
「じゃ、じゃあ……内装はマリ姉お願い」
「りょーかいっ!」
異ゲーム(?)文化交流は難しいな……。
かくして、新生ハジ・マリーノ村には周辺の村や街とは隔絶したレベルの防御施設が作られることになったのだった。
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