第11話 アルフィノーラの奮闘(その1)


「くあぁ……うにゅ~っ」


 カーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ましたアルフィノーラは可愛いあくびを一つ、ベッドの中で大きく伸びをする。


 おふとんはふかふか。

 ファイヤキメラとフローンズンキメラの羽根をたっぷり使い、こうみつどあっしゅく(?)したマットレスの寝心地は極上で、冬はあったか、夏はすずしい。

 なんでも器用に準備してくれるマルーが作ったものだ。

 すき。


 正直いつまでも寝ていられるが、今日は朝食当番の日。

 ジュンヤを自分の料理でメロメロにするのだ。


 決死の覚悟でベッドから体を起こし、素足のままスリッパを履く。


 ペタペタと気持ち良い音が鳴る床はぴかぴか。


 ヒューとマルーのおうちでは、玄関で靴を脱ぐ。

 よく考えればレッサーウルフのう○こを踏んだかもしれない靴で家の中をずかずか歩くとかありえない。

 これもマルーが教えてくれた。

 キレイさいこう。


 カーテンを開けると、朝日に輝く新生ハジ・マリーノ村の家々が見える。

 熟練度(?)がアップしたジュンヤが建築スキルを使ってわずか数日で建ててくれたものだ。

 凄い。だいすき。


 窓にハメられたガラスはそこに何も存在しないかのように透明で。

 それでいて肌寒い朝の冷気からアルフィノーラを守ってくれる。


 王都の高級住宅街で見られる水晶ガラスなんか曇っててすぐ割れるのに。

 マルーがキラキラした石と石灰から作ってくれた。

 ……あの人なにもの?


 王都の片隅で泥水を啜り、ブロブのように地下遺跡で寝泊まりしていた昔からは想像できない豊かな生活。


 おっと、まずはおトイレだ。

 陶器で出来た真っ白なおトイレは、なんと水洗式でとっても清潔。

 もう最高。

 昔なんてその辺で……(自主規制)



「おはよう。 ヒュー、マルー」


 1階に降りて来たアルフィノーラは、愛する家族にご挨拶。


「おはよう、アル。

 寝癖付いてるぞ?」


「はうっ」


「ふふっ、準備できてるわよ?

 今日は美味くできるといいわね?」


(こくこく)


 ヒューバートに寝癖を直してもらい、マリナからうさぎさんのアップリケがついたエプロンを受け取る。


 オージ王国を深刻な飢饉が襲った数年前、行き倒れていたアルフィノーラを拾い、家族の温かさを教えてくれた大恩人。

 少しでも恩返しをしようと、二人が経営する煉瓦亭の看板娘として奮闘してきたのだ。


「よし」


 キッチンに設置された鏡を覗き込み笑みを浮かべるアルフィノーラ。

 自慢のもふもふピンク髪は料理の邪魔にならないようポニーテールに。

 エメラルドグリーンの双眸が光を反射してキラキラ輝く。


「むふ」


 それに、また少し胸が大きくなっただろうか。

 ばくにゅーどーんなマルーには当然及ばないけれど、

 同世代の女の子よりも豊かな双丘。

 これはターゲットを攻略するための大きな武器になるだろう。


 ちらり


 キッチンのカウンターの向こう、開店前の客席に座っている青年を見やる。


 マルーと同じ艶やかな黒髪。

 親愛に満ちた柔らかな笑みでこちらを見つめる優しい顔。


 どきんっ


 思わず胸が高鳴る。

 魔王の魔の手から、村の人たちを救ってくれた。

 なにより、心が読めるあたしを怖がらない。


(うぃ、頑張るぞ)


 穏やかな暮らしを手に入れたアルフィノーラ。

 彼女の次の野望は……!


(ジュンヤをアルの……カレシにする!!)


 年頃の娘さんらしい、何とも可愛い願いだった。


 だがしかし。


(ああ、今日も可愛いなぁ……。

 俺は一人っ子でマリ姉も頼れる姉さんだったから、こんな妹が欲しかったんだよな)


(はうっ!?)


 なるべく読まないようにしているけれど、無意識に発動したスキルが無慈悲にジュンヤの心の声を伝える。


「あうぅ……」


 どこまでも愛らしいアルフィノーラは、ジュンヤから妹のように思われているのであった。


 ……ちなみに彼女が挑戦した”ゲコゲコ鳥の卵焼き”は、うまく丸めることが出来ずに結局スクランブルエッグになってしまったのだが。


「うんうん、ぱりぱりで美味しいぞアル!」


「それおこげ……」


 少々焦げたスクランブルエッグをジュンヤは美味しそうに食べてくれ、頭も撫でてもらったのだけれど。


「アル、もっともっと頑張る!」


 恋する少女の奮闘は続くのであった。

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