第7話 新しい村を作ろう
「この辺りでいいかな?」
ハジ・マリーノ村があった場所から歩いて数時間ほど。
目の前にはなだらかな丘陵が見渡す限りに広がっている。
近くに森もあるし、それなりに平地もある。
”拠点”となる村を築くには、悪くない場所だ。
小さな子供もいるので、元の村から遠すぎるのは良くないだろう。
「ニ・シーノ丘陵か……広さは申し分ないが水源が無くてね。
”緑の砂漠”と呼ばれているエリアなのだが、まさかここに引っ越すのかい?」
ヒューバートさんは心配そうだ。
確かに、目の前の丘陵地帯には村や畑が見当たらない。
川や池が無いのなら、中世レベルの文明で定住は難しいだろう。
ただ、俺はあることに気が付いていた。
近くの森に生えている木はアカマツやクヌギに似ている。
元の世界と同じように、地中深くに根を張るタイプなら……。
「ちょっと試してみたいことがあるんですよ」
そう言うと俺はステータスウィンドウを開く。
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モベ ジュンヤ
LV1 ヒューマン
HP :230 最大値:9,999
MP :120 最大値:9,999
攻撃力 :150 最大値:9,999
防御力 :110 最大値:9,999
素早さ :80 最大値:9,999
魔力 :105 最大値:9,999
運の良さ:70 最大値:9,999
☆戦闘スキル熟練度:3
☆築城スキル熟練度:5
---> 土嚢…… 使用回数12
---> 掘削…… 使用回数4
---> new!深掘削……使用回数2
---> new!整地…… 使用回数2
☆戦術リンク(アルフィノーラ):2
E:ロングソード(攻撃力+10)
E:布の服(防御力+5)
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予想通り、築城スキルの熟練度が上がっている。
お、”整地”も使えるようになっているな?
コイツは建物や畑の基礎を作るときに重宝するスキルなのだ。
「んん~?」
(あれ?)
リバサガってバトルより村づくりにハマるんだよな~そう考えていると、アルが興味深そうな顔でじっとこちらを見ている。
ステータスウィンドウって俺にしか見えないはずだよな?
『そのはずですよ、転生者限定能力ですもん』
『はっっ!? アルちゃんはまさかのシックスセンス持ち!?』
「…………」
女神とか言うオカルトの集合体のクセにそういうことを言わないで欲しい。
まあ、勘の鋭い子なんだろう。
そう思いなおした俺は、さっそく新しく覚えた築城スキルを使う。
「築城スキル:深掘削!」
ドンッ!
目の前の平原に、丸い穴が開く。
「すご……底が見えないよ!」
「危ないから下がってろ?」
「うん!」
興味津々なアルを下がらせる。
何しろ深掘削は深さ100メートル以上の穴を掘れるからな。
近くにいては危険である。
「築城スキル:掘削×10!」
ドドドドドドドッ!
「なんと! 穴がどんどん拡がって!?」
「おいおい、何だこりゃあ!?」
いちど穴をあけてしまえば、通常の掘削スキルで拡げることが出来る。
僅か数分後には直径100メートル、深さ100メートルほどのすり鉢状の大穴が出来上がっていた。
「ジュンヤ、すごい!!」
「いやはや、これほどとは……それで、ここからどうするんだい?」
「ジュンヤの旦那、水を引くにしても川は遠いですぜ? これだけの人手じゃとても……」
ヒューバートさんや村人の言う通り、川から水を引くには遠すぎる。
掘削スキルで水路を作れないことは無いが、かなり時間がかかるだろう。
「穴の底を覗いてみてください。
何か見えませんか?」
心配そうな村人たちに、穴の底を指し示す。
キラリ
陽光に反射する小さな水面。
ドドドドドド
よく見ると、僅かな振動と共に大量の水が湧き出している。
「地下水脈か!!」
そう、アカマツやクヌギは地下深くに向けて根を張る。
似た植物が生えている森があるのなら、豊富な地下水があると推測したのだ。
……これはオープンワールド化されたリバサガの村づくりで必須の知識である。
水源は真っ先に必要だからね。
誰が言ったかリバサガが土木RPGと呼ばれるゆえんである。
「さすがに水が溜まるには時間がかかるな……アル!」
「なに? ジュンヤ」
「戦術リンクを使うぞ?」
「りょ!」
俺の言葉に頷くアル。
アルを優しく抱き寄せ、戦術リンクを展開する。
「戦術リンク:タイダルウェイブ!」
リンクスキルを発動させると同時に、空中から大量の水が滝のように湧き出してくる。
ドドドドドドッ
「「お、おおおおお!?」」
水属性の攻撃スキルにはこのような使い方もあるのだ。
わずか数分後には、目の前に青々と水を湛えた大きなため池が出現していた。
「……こ、これだけあれば、灌漑用水には十分だな」
「旦那とアル坊で補充できるみたいですしね……」
ヒューバートさんたちは半ば呆然とため池を見つめている。
「狩って来た魚を育ててもいいかもしれませんね。
……釣りも出来るし」
「!! ジュンヤ、それマストだよ!」
「ふっ、わははははっ!」
「やっぱジュンヤの旦那はすげえや!」
村人たちの笑い声が広がる。
こうして、ハジ・マリーノ村の復興が始まった。
*** ***
「はいこれ、ジュンヤの分」
「ありがとう」
煉瓦亭から持ち出した調理器具で作った野菜シチューを村人たちに振舞うヒューバートさん。
「一緒に食べよ?」
椅子代わりの丸太に腰掛けると、アルが隣に座ってくる。
「あったかい」
ああもう可愛いなコイツ。
愛らしい彼女の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
「ジュンヤは凄い……もっといろいろ見せてくれるの?」
「そうだな」
「やたっ!」
シチューを食べ終え、ぽふりともたれかかってくるアル。
すっかり俺に気を許してくれたらしい。
孤児と言う境遇を考えても、色々辛い目にもあって来たんだろう。
思わず自分の過去を重ね合わせた俺は、アルを可愛い妹分としてたっぷり甘やかしてやろうと心に決める。
「む~」
なぜが頬を膨らませて不満そうなアル。
思春期の娘さんは色々難しいな。
微妙にずれたことを考えるジュンヤなのだった。
*** ***
「なんとか今日中に1軒できたな」
「村の人たち、みんな働き者なんで助かります」
ヘソを曲げたアルをなだめすかしていると、シチューを配り終えたヒューバートさんがやってくる。
「いやいや、ジュンヤ君こそ大活躍だったぞ?」
水源を確保した後、整地スキルで丘の中腹に平地を作り本格的に村の復興を開始した。
最初に建てたのは集会所代わりのログハウス。
村人みんなの家が出来るまでは、あそこで雑魚寝である。
「いえ、俺は木を切ってただけですよ」
丘の中腹に建つ集会所を見上げる。
70畳ほどの広さがあり、村人全員で夜露を凌げるだろう。
「……普通は1本切り倒すのに30分は掛かるんだがな」
ステータスを生かして剣で木を切っただけなのだが、どうやら攻撃力の高さが役に立ったようで。
まあ、元の世界で勤めていた会社が不動産関係だったので、ログハウスの間取りも書かせてもらったけど。
「私たちの命を救ってくれただけでなく、村の復興まで……。
いくら感謝してもしきれないな」
(こくこく)
ヒューバートさんの言葉に顔が赤くなる。
いえ、俺はモブキャラなんで自由にプレイしているだけです。
「そうそう、もうすぐ妻が戻ってくる予定だ。
新しい村が出来たと連絡しておかないと」
ピイッ
そう言うと指笛を鳴らすヒューバートさん。
ほどなく鷹のような鳥が飛来し、脚に手紙を括りつけられた鳥は大空に飛び立つのだった。
「ヒューバートさんの奥さん……マルーさんだっけ。
どんな人なんだろう」
頭の中に引っかかるのはアルが身に着けているうさぎのアップリケ。
まさかね。
「いい人だよ?」
添い寝して欲しいと頼んできたアルのぬくもりを傍らに感じながら、
胸騒ぎで眠れない夜を過ごす俺なのだった。
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