第6話 小さな村の救世主
『我は……ログラース……』
『恐怖せよ…………人間共』
ズゴゴゴゴゴゴゴ
村に大魔王が降臨した。
避難場所として掘削した最奥の小部屋にまでヤツの声が聞こえてくる。
「「ひいいっ!?」」
「みんな、静かに!」
魂を凍り付かせ、本能的な恐怖を搔き立てる声に、パニックになる村人たちをヒューバートさんのイケボが鎮める。
俺?
大魔王さん、誰もいない村に向かってドヤ顔でイキってんのか~とか考えると別に。
ドンッ!
「ひうっ!?」
ひときわ大きく部屋が揺れる。
恐らく魔王の最初の攻撃だ。
確かモンクエのオープニングムービーでは……。
宙に浮かぶログラースを不思議そうに見上げる犬耳少女アルフィノーラ。
だが次の瞬間、ログラースが放った衝撃波で粉々になり、血煙と化す少女。
……いやダメだろこれ。
実際の発売版では薄くモザイクが掛かっていたらしいが、どこからか流出したオリジナル版を見てしまった俺はしばらくトマトが食えなくなったほどだ。
ムービーの絵コンテを切った奴はサイコパスに違いない。
ぶるぶる
さっきの一撃で、自分が死んでたかもしれない。
俺の心を読んでしまったのだろう。
真っ青な顔で、震えるアル。
「大丈夫、俺が守る」
ぎゅっ
「うん……」
少しでも彼女の恐怖が収まるように、背中を撫でながら抱きしめる。
いざとなったらこの子の盾になろう。
そう心に決めた時。
『戦術結合(リンク)解放……結合レベル2』
「な!?」
「??」
脳内に無機質な声が響いたと思うと、なにかスキルがアンロックされた感覚。
(これは……”戦術リンク”?)
リバサガにはプレーヤーキャラ同士の相性度と言う隠しパラメーターがあり、防衛イベントやお出かけイベントをこなす事で上がっていく。
戦術リンク度が上がるたびに強力な魔法やスキルが解放されていくのだが……。
『ジュンヤさん? なんか変なスキルが解放されたよ?』
脳内に割り込んできたユーノの声。
不思議そうな表情を浮かべるアルを胸に抱いたまま、俺はステータスウィンドウを開く。
======
モベ ジュンヤ
LV1 ヒューマン
HP :230 最大値:9,999
MP :120 最大値:9,999
攻撃力 :150 最大値:9,999
防御力 :110 最大値:9,999
素早さ :80 最大値:9,999
魔力 :105 最大値:9,999
運の良さ:70 最大値:9,999
☆戦闘スキル熟練度:3
☆築城スキル熟練度:5(+2)
☆New 戦術リンク(アルフィノーラ):2
--->エネルギーシールド…… 使用回数1
--->タイダルウェイブ……… 使用回数1
E:ロングソード(攻撃力+10)
E:布の服(防御力+5)
======
「マジか……!」
新たに解放されたスキルは、リバサガでも中盤レベルのスキルである。
戦術リンクはある程度ゲームを進めないと使えない機能だったはずだが、なぜこんな序盤に?
「ふお?」
目を白黒させているアル。
もしかしたら、この子には特別な力があるのかもしれない。
そういえば、雑誌のインタビューで読んだことがある。
モンクエのプロデューサーの話では、アルフィノーラはプレーヤーキャラクターになる可能性もあったらしい。
本来ならオープニングイベントで死ぬはずだったアルが生き延びることで、何かしらの影響が世界に出ているのかもな。
「よし、何とかなりそうだ!」
なんにしろ、こちらにとっては好都合だ。
「ヒューバートさん、村人たちをなるべく部屋の奥へ」
「ジュンヤ君?
何か策があるんだね?」
「はいっ! アルは俺の後ろに」
「う、うん」
『我の前にひれ伏せ、人間共!!』
今度は、はっきりと大魔王の声が聞こえた。
「!!」
ズッ……ドオオオオオオオオンッ!!
「「うわああああああああっ!?」」
その瞬間、先ほどとは比べ物にならない衝撃が部屋どころか、祠のある山全体を揺らす。
魔王の最大攻撃で、ハジ・マリーノ村が吹き飛ばされたのだろう。
ドンッ!
ドンッ!!
ドンッ!!!
爆発の衝撃波は急ごしらえの土嚢なんかでは防げないようで、土嚢が吹き飛ばされる音がだんだん近づいてくる。
「アル、頼むぞ!」
「うんっ!」
俺の意図を正確に汲んでくれたのか、逃げずに背後から抱きついてくるアル。
「戦術リンク:エネルギーシールド!」
ヴィンッ!
部屋の入り口を覆うように、緑色の光の壁が出現する。
威力点2,000の上位魔法すら防ぐ最上位防御魔法である。
これならっ!
ズッ……ドオオオオオオンッ!
魔王が放った衝撃波は村ごと裏山を吹き飛ばすが、
エネルギーシールドのお陰で村人たちを避難させた小部屋だけは無事に残ったのだった。
*** ***
「な、なんと……これが大魔王ログラースの力なのか。
我々が生き残ったことが信じられないな……」
念のため、周囲を覆う土煙が収まるまでエネルギーシールドを展開しておく。
魔王の気配も消えたのでシールドを消し外に出たのだが、そこには驚きの光景が広がっていた。
「ハジ・マリーノ村が……」
村があった場所は巨大なクレーターと化し、ぶすぶすと煙がくずぶり続けている。
裏山はエネルギーシールドのお陰か平らになることは避けられたけど、
俺たちが隠れていた通路以外はごっそりとえぐれている。
「これから、どうすれば……」
無惨な村の跡地を見て、呆然と立ち尽くす村人たち。
それも仕方ないだろう。最低限の財産は持ち出したとはいえ、今まで暮らしていた村が無くなってしまったのだから。
「”人”が生きていれば、どうにでもなる。
ジュンヤ君のお陰で我々は生き延びることが出来たのだ」
「皆で力を合わせ、村を復興していこう!」
ヒューバートさんが村人一人一人に声を掛け、元気づけていく。
「ヒュー村長……」
「そうだ、村長の言う通りだぜ!」
村人の顔に生気が戻っていく。
さすがヒューバートさん、こういう人が上司だと最高だよな。
俺の元上司の事を考えると思わず遠い目をしてしまう。
「それよりジュンヤ、助かったぞ!」
「アンタはおれたちの救世主だ!!」
「アル坊もがんばったな!」
「なんだよあの魔法は?」
「わわっ!?」
「ふわっ!?」
気力を取り戻した村人たちにもみくちゃにされる。
正直土嚢だけでは危なかった……アルとの戦術リンクが解放されたお陰である。
「実はこの子……アルに特別な力があるんじゃないかと思いましてね。
俺のスキルと組み合わせて、特殊な防壁を展開したんですよ。
成功してよかった」
「うおおお、やっぱスゲーなアンタ!」
「ホントにありがとう、ありがとうな!!」
戦術リンクは他ゲームのスキルだからな、適当な説明に感動してくれる村人たち。
「ジュンヤ……」
眩しそうに俺を見上げるアルと目が合う。
彼女とのリンクは、しっかりと体の中に息づいている。
どこか安心する、暖かい繋がり。
「ありがと♡」
ぎゅっと抱きついてくるアルのぬくもりに、ほっと癒される俺なのだった。
「ひとまず、ここを離れた方がいいだろう。
魔王の軍勢が戻ってこないとも限らないし……」
俺はこの後のストーリー展開を良く知らないので、
ヒューバートさんの提案に賛成である。
「あ、それなら」
せっかくだから、村の復興に……築城スキルを使わせてもらおう。
*** ***
『まずはこの村からだ』
『我の前にひれ伏せ、人間共!!』
「あっ……ああああああっ!?」
オージ王国の救世主となったテンガに食事を届けた後、追い立てられるようにしてハジ・マリーノ村に向かった第三王女フェリシアが目撃したのは、信じられない光景だった。
上半身は竜、下半身はスキュラの化け物と言う醜悪な姿の大魔王ログラースが村を襲っている。
「テ、テンガ様はこれを予測して?」
さすがに救世主と言われるだけはある。
フェリシアは彼の事を見直しかけたのだが。
「ふん、話が長いわ。
さっさと攻撃しやがれ」
「!?!?」
とんでもないことを口走るテンガに、思わず詰め寄るフェリシア。
「む、村を助けないというのですか!!」
たった今、大切な臣民が暮らす村が攻撃されようとしている。
魔王の気を逸らすくらいの事は出来るでしょうに。
フェリシアは物陰を飛び出し、魔王に向かって攻撃魔法を放とうとするのだが。
「無駄な事をするな、馬鹿エルフ!
いまのオレ様たちのレベルで、敵うはずないだろう。
これは強制イベントだ、諦めろ」
「なっ……なにをっ!?」
この男は言っているのだろう、まったく理解できない。
ズッ……ドオオオオオオンッ!
だが、この問答により村を助けるチャンスを逸してしまった。
竜の口から紫のブレスが放たれ、巨大な爆発がハジ・マリーノ村をきれいさっぱり吹き飛ばす。
「な、何てこと……」
呆然と立ち尽くすフェリシアだが、テンガの口からさらに信じられない言葉が放たれる。
「ちっ……魔王の奴、張り切りすぎだろ。
なんとかっていう村長は生きてるのか?
ティムの魔石を手に入れなければいけないのだが」
「まあいい、隠し場所は把握している。
最悪、祠を漁ればいい」
「!!」
この男は、村人たちより宝物の心配をしている!
ぱんっ!
最低だ。
次の瞬間、フェリシアはテンガの頬を思いっきりはたいていた。
「……この馬鹿エルフ、覚えてろよ?」
「ぐっ……!」
冷え切った氷のような視線で射抜かれても。
この男に絶対心は許さない。
そう誓うフェリシアなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます