新カルミル村編 第三十六話 血

「おい、気をつけろ。まだ本命がいる。二人も構えろ」


「え、二人……?」


「おいおい。黙って見てりゃ、ろくな傷も与えずに死んでったのかよ。だから俺たちだけでいいって言ったのによ。帰ったらちゃんとこのことを言って次からは無駄な死人を減らしてもらうようにしようぜ」


「あぁ。そうだなラルア。だが、そのおかげで見えるものもある。あいつらの能力、戦闘に関わる人数、誰と誰が連携するのか。その情報が何よりも大きい」


「ふーん、そうなんすかね」


「あんたはもうちょっと考えて戦いなさいよ。リーダーを見習いなさい」


「リアに言われる筋合いはねぇよ。ってか俺とお前はどっちかと言うと同類だろ。な、ザーク?」


「同じ身分とはいえ、年上なんだ。少しは敬う言葉遣いを使え。ラルアがいつか困っても知らんぞ」


「んー、でも同じ身分なんだからいいじゃん。リーダーもそう思いますよね?」


「喧嘩しないならなんでもいい。それより、ちゃちゃっとこいつらを殺すぞ」


 森の奥から談笑しながら歩いてきた四人は他の奴らよりも明らかに違うオーラを纏っている。俗に言う強者の風格ってやつなんだろう。


「ミシア、コウシ。こいつらが私たちの仲間を殺した。『敵』だ」


「敵だってよ。くくっ。俺らはテメェらの敵じゃねぇ。俺たちからすりゃただの獲物だ。お前らからすれば天敵」


「超加速!」

「発勁!!」


 俺とミシアが同時に駆けだす。せっかくだし――


「ミシア!阿吽の呼吸!!」


「わ、コウシと繋がってる気がする……!!精霊の風!」


 ミシアの感覚と俺の感覚を合わせて、あの刀の女……リアがまずいな。


「――瞬影斬!」


 リアの刀を振るスピードにギリギリ追いつける!


「星の一撃!!」


 刀に神器とスキルを合わせてようやく相殺できたかと思えば、上から声が降り注ぐ。


「お前の相手は俺だぜ?混沌の――っがぁっ!!」


「それはいけません。狐火」


 爪の生えた籠手をはめた男……ラルアがスキルを使う寸前に大妖狐が刀でそれを払ってから狐火であたりを暗くする。

 青白い炎があるのは


「んっ!!危なかったですわ」


 暗闇の中、銃の大きな発砲音が聞こえ、同時に金属と金属がぶつかる音がした。


「俺のライフルを斬るとは」


「あなたこそよく暗闇で当てれましたわね」


 狐火が晴れる。

 リーダーと呼ばれた男の後ろにいる、スナイパーライフルを構えた年を取った男性が静かにつぶやく。

 普通、スナイパーライフルはこんな距離では使わない。


「召喚火車!!」


 大妖狐のよりかは少し小さいサイズの魔法陣が生まれ、そこから四本の足に燃えている車輪をつけて宙に浮いている化け猫が出てくる。


「おいらの出番だニャ!!火炎車!」


 火車はザークと呼ばれたスナイパーライフルの男のほうに向かった。


「村の外の人間がこんな頑張ってんだ!俺たちもやるぞ!!!!」


「おうよ!悪魔の剣筋!!」


「じじぃは引っ込んでろ!悪獣の猛撃!!」


「血の斬撃!っかぁ!!ブラッド、アーツ!!」


 ウィーンさんの体の中から血が噴き出てそれが斬撃となりラルアのもとに飛んでいくがいなされる。だが、それによってまとまりを無くした血は再びウィーンさんのもとへ戻って空中に二双の槍として浮かび上がる。


「穿穴!!」

 

 ウィーンさんの飛ばした二本の槍は一本は右肩、もう一本は左胸に向かって飛んでいったが、右肩の方は正面から拳で、左胸の方は左手でつかんではるか遠くに投げた。


「お前はここで仕留めきる!!血の!斬撃ィ!!!!」


 さきほどの血の斬撃よりもはるか多くの血を吹き出しながら斬撃を作り出す。

 この世界の人の致死量も俺の世界の人の致死量も分からないが、素人目で見ると、致死量は超えていると思うほどの量。

 無数の巨大な斬撃が時間差を付けながらラルアに飛んでいく。

 自動で追従していくそれをラルアは命からがら逃げまわっている。

 よけられた血はすべて後ろの森に刺さって姿が残っているのが見えている。それをさっきのブラッドアーツで操作できれば。

 

 いや、そもそもここで仕留めきる。

 まだ斬撃の残数はある。俺が今からやるべきことはラルアに攻撃して負荷をふやしつつ俺自身が斬撃に当たらないこと。


「……武士道。発痙」


 気づかれないようにそう唱える。

 俺はあの斬撃に当たらない。ラルアを殺せる。

 弧を描くように逃げているラルアにかち当たるように走り出す。


「もうおせぇよ。混沌の波動」


 ラルアの声に呼応して空間がゆがむ。ように見えた。

 直感的に膝をこすりながら腰と背骨を反らせて高度を下げながら近づく。


「体が……!!」


 体力と血がなく、まともに動けていないウィーンさんは当たってしまったのか、体を痙攣させながら地に伏せている。

 主人を失った血の斬撃は力なく原型を崩して地面にぼたっと落ちる。


「あ゛ぁぁ!!!!星の一撃!」


 強引に体を立て直してラルアを目前にとらえる。そのまま右手で顔を殴るように見せかけて左手で腹をしたから殴る。


「燕返し!来い大妖狐!!」


 衝撃で浮かび上がったところを空ぶった右手の手刀で撃ち、後ろから高速で追いついてきた大妖狐が刀を振り上げる。

 

「ガハッ!!」


 ラルアは血をふきながら倒れていく。


「コウシ様、助太刀をお願いいたします」


 大妖狐がそう口を開く。  

 ミシアの現状は阿吽の呼吸でつながっている今、分かっている。

 火車にやられる前に死に際の一撃を放ったスナイパーライフルの弾を脇腹にもらい、セシアさんとレイドさん、それに家でアイラやメローナさんを守っていたニータが刀の女一人にてこずっていた。

 

「ふん、なかなかやるじゃないか。なぜ最初からそうしなかった?」


「不意打ちしたのはあんたらでしょ」


 リーダーと呼ばれている男の声にセシアさんが返す。


「馬鹿なしきたり守って村人死んで。つくづく馬鹿だよなぁ。これはお前らの神が引き起こした惨劇だ。恨むなよ?地獄門の開錠ヘルゲート・アンロック!!」


 リーダーの低い声が響くと森の方から金属が悲鳴を上げる音が聞こえる。地面が揺れる。空気が震える。

 

「さぁ!ここからが本番だ。一体ぐらいは倒せればいいなぁ?」

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