新カルミル村編 第三十五話 大妖狐

「開けるぞ」


 レイドさんが慎重に扉を開けると。


 ――そこは戦地だった。


「大斬!大斬!!」


「セシア!大丈夫か!血の斬撃ィ!!」


「ありがとうございます!やっと出てきた!!」


 無数の羽の生えた武装済みの悪魔に囲まれているセシアさんとウィーンさんが俺たちの方を見て歓喜の声を上げる。


「今行きます!」

「精霊の風!!――うわ!速い!!」


「行かせないぞ」


 俺とミシアが二人のもとに行こうとした瞬間、塔の外壁にいたのか上から人が複数降ってき、ミシアはチョーカーによって強化されたのか抜けることができたが、俺とレイドさんは行く手を阻まれてしまった。


「ミシア!!俺たちのことはいいからその二人を助けろ!!!!」


「うん!自然の剣戟!!」


 ミシアがセシアさん達と合流し開幕の一撃を悪魔に打ち込んだところを見届けて俺はレイドさんの方を見る。


「レイドさん、やりましょう」


「あぁ。背中は任せろ」


「発痙!はぁー!星の一撃!!」


 発痙によって身体能力をそこあげし、勢いよく飛び出した俺はそのまま一番近い男の顔に右ストレートを入れると男は錐もみ回転しながら吹っ飛びまともな受け身も取れずに地面にたたきつけられる。


「コウシ!甲虫の外皮!土塊の大柱!!」


 後ろを振り向くとナイフを掲げて飛び上がった男二人がレイドさんの神器に阻まれている。


「助かります!」


「星の一撃!星の一撃!!!!」


 そして、俺がそれを狩れるようにせりあがった土の柱を出してくれたいた。


「ふぅー。しぶといっすね……」


「あぁ。攻撃の手はそこまで激しくないが……痛みを感じてないのか……?」


「そんなことあります?」


「さぁな。魔族領の人間だ。どこまで人智を外れているかわからん」


「なるほど。まぁ、とりあえず本気でぼこせばいいんですよね?」


「あぁ。そうだ。頼むぞ」


「うっす!発痙!武士道!」


 『武士道』を使うと発痙のような身軽さではなく、筋肉が盛り上がるような力が湧いてくる感じがある。


「燕返し!!」


 一度首を振り下ろすように攻撃した手刀をそのままもう一度振り上げ、喉のあたりを破壊する。

 男はのどぼとけが完全にへこんでしまい、首は円柱の形を為さなくなってしまった。


「これでやっと一人……あと六人っすね……」


 いつもはとどめはミシアが行っていたからわからなかったが俺にはとどめの手法が少なすぎる。今のように隙の大きい燕返しをクリーンヒットさせて初めて殺すことができた。


「神器の使い心地はどうだ」


「そうっすね……籠手でガードが出来るっていう選択肢が生まれたんで前よりかはアグレッシブに動けてはいますが正直それくらいっすね……」


「まぁ、神に成るとはそんなものだ。神も人間も本質は変わらない」


「はぁ」


 ん、俺、神になったのか?神器を手にしたから?

 じゃああれらが使えてもおかしくない。ためしに――


「召喚大妖狐!!」


 俺の声に呼応して金色の魔法陣が浮かび上がる。そこからほんとに魔法のように出てきたのが一匹の大きな狐。真っ白の毛並みにところどころ紫色の魔力で変色しているような毛がある。

 大妖狐なんて言うがたかが人間サイズの狐が生まれただけだ。


「コン!」


 突然、狐は一泣きした後、一度宙返りをした。

 するとそこには俺より身長の高い女性がいた。腰には刀を携えており、服装は純白の着物……詳しくは分からないが和式の結婚式に着るやつに似ていると思う。だが、ところどころに紫色の模様が入っており、ただのそういう着物ではないと思える。

 

「あなたがご主人様ですね?わたくし、あなたのために精一杯頑張りますわ。狐火!!」


 凛とした声でたくさんの愛情表現を受けていると突然辺りが暗くなる。どこからか鳴り響く鈴の音が心を安らかにさせるからかこの暗闇でも恐怖心はない。

 すると、目の前、この位置はフードの男たちがいた辺りに青い炎が小さくゆらめき。

 爆破した。


「あら、いくつかやり損ねてしまいましたか。では、顔合わせも兼ねてこちらでお相手をしてあげましょう」


 だんだんと明るくなるその中で大妖狐の声が響く。

 先に狐火によってやられた数人の男を見てから大妖狐の方を見ると刀を鞘から抜いて臨戦体勢を取っている。型とかは分からないからなんともいえないが構えはそれっぽい。昔から生きているだろうし、人に化けることもできるだろうから習ったこともあるかもしれない。


「あら、どうしてここまで弱いのでしょうか。師と呼べる相手はいないのですか?剣筋がてんで統一されてませんわよ。二流の方ならやりづらいと思われるかもしれませんがきちんと教わっている方なら剣筋がなってなければなってないほど、」


 そう言いながら刀を振り続け、最後の一人の前で刀を振り上げる。


「殺しやすいですよ。こんなふうに」


 そのまま振り下ろして肩から腰まで両断する。


「ご主人様!見てくれましたか!?」


「あ、あぁ。見た。それに俺の名前は山上荒神だ。ご主人様じゃなくてコウシって呼んでくれ」


「コウシ様ですね!見てくださりありがとうございました。コウシ様が命じてくださればこのまま一緒に居れますが、このままでは再召喚が必要になりますけどどうしますか?」


「まぁ、まだ敵いるし、このままでいいよな?」


「はい!了解しましたわ」


 そう言って刀をしまってから俺の後ろに立つ。


「見たことのないスキル……いや、魔法か?」


「あ、スキルです。正直他の人にこのスキルについて詳しくは言えなくて……すみません」


「そういうことならしょうがない。あっちもそろそろ終わりそうだな」


「ですね」


 ミシアが行った方を見るとすでに大半は片付けられており、残り二匹だけだった。

 全員が剣を持っているため戦闘としては安定しないんじゃないかとなんとなく思っていたが、昔から同じ村で育ったこともあり連携はバッチリだ。かなり歳もいってるだろうし動けないと思っていたがウィーンさんもかなり動けている。それにセシアさんが驚くほど強い。ミシアもウィーンさんもセシアさんの補助でしかない、って感じだ。

 そういえばミシアがセシアさんの神器は最強って言ってたっけ。


「麗しき剣戟!」

「自然の剣戟!!」


 ミシアとセシアさんの一撃によって最後の二匹がそれぞれ殺され、片付いたようだ。


「こっちも終わったぞ」


「コウシ……その後ろの女性は?」


「あぁ、この人はミトラさんにもらったスキルなんだ」


「へぇー……あ、よろしく?」


「はい。コウシ様の仲間でいらっしゃいますよね。よろしくおねがいいたしますわ」


「え、あ、はい、よろしくお願いいたします……」


「ふふっ、緊張なさらなくていいんですよ?」


「おい、気をつけろ。まだ本命がいる。二人も構えろ」

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