新カルミル村編 第三十四話 神器

「勝機はあるんですか?」


「さぁな。だが、あの塔に侵入されてないだけマシってことだけだ」


「ミシアもそれ言ってましたね」


「ねぇ」


「ん、アイラどうした?」


「その、塔の中の神器?をコウシとミシアが使えばいいじゃん」


「え、俺も?」


「うん。だめ?」


 そうしてアイラは上目遣いで大きな目をくりくりしながらウィーンさんの顔を見る。


「はぁー……どうだがな。別に村の外の人間、カルミルではないものに神器を渡すのは別にいいんだがよ……コウシはまだ年齢が……」


「あの!私はわからないんですけど、コウシは受け取ってもいいと思います!」


「ミシア?」


「コウシと長くいたんですけど、コウシはクシャエラ教の教理を教わらずとも則っています。それに、少しでも戦力はあった方がいいでしょう?」


「まぁ、そうだな。分かった」


「それで塔にはどうやって行くんですか?この家から出るのも危険なんですよね?鍵は?」


「鍵はある。我々がこんなに被害を受けたのは塔の鍵をいち早く手元においておくためだった。だが、危険なのは危険だ。どうするか……」


「俺が護衛に付くぜ。俺のそばなら安全だろ。それに塔の中を知ってる人がいないと神器は取れない」


 そう名乗り出たのはレイドさん。神器は確か……大きな盾だったか。


「レイドが付くならそうだろうが……その、逆にレイドが死んだら我々には本当に勝ち目がなくなる。中ば賭けのような行動に出るのは……」


「ウィーンさん。この二人が神器を取らないと、正直勝ち目はないと思ってます。ミシアは子供の頃から修行してたし、神器とはいえないがかなり上等な武器、精霊姫だってある。だが、そこの少年、コウシ君はどうだ。勇気はあるようだが、手にはめているのだってただの鉄の塊だ。それにミシアが言うには神器を手にしてもいい資格があるらしいじゃないか。どうだ?少し賭けに出るのは」


「……そうだな。分かった。ではレイドに鍵を渡す。今は幸い村の魔物が少ない。だが、敵襲もありうる。最悪、今からの行動がカルミル族の今後を決める戦いになるかもしれない。気をつけて行ってこい」


「はい。確かに」


 そう言ってレイドさんは両手でウィーンさんから鍵を受け取る。

 

「行ってきます。コウシ、ミシア、そこの少女、アイラはどうする」


「アイラも神器いる?」


「コウシ、神器ってそういうテンションじゃないから……」


「私はいいです。まだ、体も小さいし、武器をもらっても戦えないので」


「うん。分かった」


「アイラちゃんは私と一緒にいようね」


 メローナさんはそう言ってアイラを抱き寄せる。


「アイラを頼んだよ」


「うん。行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 ミシアとメローナはそんなやりとりをして俺とレイドさんに合流する。


「じゃあ、行くぞ」


 そう言って、家の二階の窓に身を乗り出すレイドさん。


「玄関から出ないんですか?」


「玄関は向き的に奴らに見つかる可能性が高いんだ」


「なるほど」


 そうするとレイドさんは躊躇いもなく降りていく。


「ミシア、行くぞ」


「うん」


 二階の窓ということもあり、俺たちもそこまで躊躇わずに降りることができた。

 下に待ち伏せているわけでもなく、安全だった。

 本当にどこにいるのだろうか。

 

「急ぐぞ」


 レイドさんは盾を構えずに鍵をすぐ使えるように持ち替えてから塔に向かって走り出す。急いで鍵を開けて扉を開く。


「よし、開いた!入れ!!」


「はい!!」


 バタン。そうして塔の中に入ることができた。

 塔の中は太陽の光が上から差し込まれており、長い螺旋階段で上まで行けるようだ。


「レイドさん?」


 レイドさんは床に膝をついて何かしている。


「よし、開いた。行くぞ」


「え、あ、地下……」


「あぁ。もし侵入されても塔という見た目に騙されて大体は上に行くんだ。本当の宝は下だ」


 なるほど。

 中は暗いのかと思ったが、上から差し込んでくる日光が照らしているからか明るい。

 今は太陽が真上にあるわけでもないのに、まっすぐ差し込んでくるのはどういう仕組みなのだろうか。


「わぁ……こんなふうになってたんですねー」


 ミシアが感動しながら家で言うとちょうど一階分ぐらいの長さの螺旋階段ではない普通の階段を降りると、そこには空間があり、無数の棚や武器を飾るための木製の棚がある。


「えっと、どれを持っていけば……」


「あぁ、それは神が教えてくれる。見てみろ、太陽の光を」


「太陽の光……」

 

 今度こそまっすぐじゃない道を進んだのに、未だ明るい室内。

 そして、二つの神器が特に明るく、光を集めていた。


「これですか?」


「あぁ。それのようだな。ミシアのは……あぁ、それだ」


 光に照らされたそれを手にとる。


「これは……籠手?」


「私のはチョーカーか……」


「その籠手は白鉄の籠手。ミシアのは精霊のチョーカーだ」


 どういうことなんだ。ただ光に当たっているやつを取っただけなのに、ぴったりだ。やってることはそこらへんの占い以下なのに。

 とりあえず両手に肘辺りまである籠手をはめるためにメリケンサックを外してそれからつける。

 指の辺りも籠手で守られているのにとても動きやすい。硬さも非常に硬く、外からたたいても衝撃はない。


「ミシアー。どんな感じ……あ」


「え、何?」


「あーっと」


 ミシアのチョーカーは布部分が黒く、首の前には紫色の金属でハートがなぞらえている、完全に地雷系の女子がつけてるやつだ。


「いや、俺の故郷でみたことあって。そういうデザインが流行ってたんだよ」


「ふーん……たしかにかわいいもんね」


 白と緑の清楚風なイメージがあるミシアには死ぬほど似合ってない。まぁ、武器だしファッション目的じゃないからいいのか。


「さぁ、二人とも戻るぞ」


「「はい!」」


 階段を上っていてきづいたがあの太陽の光は無数の鏡によって引き起こされているようだ。それにしても占い程度には変わりないが……。


「開けるぞ」


 レイドさんが慎重に扉を開けると。


 ――そこは戦地だった。

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