新カルミル村編 第三十三話 救援
「今日はなんの依頼があるかなー。まぁお金も溜まってきたし、昨日は戦闘でちょー疲れたし、ってことで今日ぐらいはのんびりしたやつにしない?」
俺とミシア、そしてアイラの三人は依頼を受けることができる酒場にて掲示板に向かっていた。
「俺もそれがいいなー。昨日のでもう三日は暮らせるぜ?」
「二人とも!だめですよ。私たちはEランクに達していますから、初心者向けの依頼は初心者に回すべきです。ね?」
「むー、それはそうだけどさー。戦うの怖いじゃ……ん……ね、ねぇ、これってさ」
そうしてミシアが震える腕を伸ばして指をさした依頼書には
『カルミル族の村に盗賊の襲撃有り。生存者をレーフェまで避難させよ。盗賊を無力化、もしくは殺害した者はさらなる報酬を与える』
と書いてある。
その下には簡易的なレーフェからの行き方を記した地図があり、そこが指し示す場所は俺がこの世界で唯一知る村だった。
「おい……これ、やばいんじゃねぇの……?生存者はって……死んでるやつもいるみてぇな……」
「今すぐこれを受けよう。私もすぐに追いつくから今すぐに出発の準備をして。馬車でもなんでも最速の手段を手配して」
「あ、あぁ!アイラ、行くぞ」
「うん……」
俺とアイラはすぐに酒場を出て、最寄りの馬車乗り場まで向かった。
「ね、ねぇコウシ。あの依頼にあった村はなんなの?」
「あぁ、そっか。アイラは知らないんだもんな。実はカルミルの村ってのはミシアの故郷なんだよ」
「え……」
「だけど……」
俺が今考えてること……いや、俺とミシアが考えてることは一つ。カルミル族がそんな簡単に負けるわけがない、ということ一点。それぞれが神器と呼ばれる強力な武具を持っていながらなぜたかが盗賊に負けたのか。
「すいません!今からカルミルの村まで行ける馬車ありませんか!!金はめっちゃあります!証拠にEランク冒険者の証書だってあります!!!!だから……」
俺が大声で証書を掲げながら叫んでいるのを見かねたのか、一番手前に位置している馬主の男性が近づいてくる。
「おい坊主!何をそんな焦ってる。誰も行かないなんて言っていないぞ。俺の馬車が空いてる。定価で乗せてやる」
親指で後ろの馬車を指してニッと笑った男性に軽く愛想笑いで笑い返して
「おじさん!その、仲間がもう一人来るからそいつを待ってからで」
そう言っていると
「二人とも乗るよ!この馬車!?早く乗って!急いで!!」
後ろから精霊の風を使って飛んできたミシアに首根っこを掴まれたまま馬車に詰め込まされる。
「早く!早く馬車を出して!!」
「分かった。わぁったから!今出すよ!!」
急かされた馬車の男性が馬に指示して馬車乗り場を抜け出してレーフェを抜ける。
「あの、代金は!」
「急ぎなんだろ?それが終わってからでいいぜ。もし帰ってこなかったら酒場に請求するだけだからな。まぁ、そんなめんどくせぇ手続きはしたくないけどよ」
「必ず、帰ってきて代金を支払いますので」
「あぁ。もうレーフェを抜けるぞ。こっからは俺の馬車だとすぐだ。降りる準備をしとけよ?」
「はい!」
俺は両手に嵌ったメリケンサックを指の奥に押し込み、魔法盾を握りしめる。
「ミシア、ショックを受けてもいいけど取り乱すなよ?」
「うん……頑張る。もし、だめそうだったら……」
「冒険者さん達、俺はここまでだ。こっから先は馬が行きたがらない。すまんな」
馬車が止まったところはちょうど、俺がこの世界に降り立ったあたりだ。
「ありがとうございました。気をつけて帰ってください。ここら辺にももういるかも知りませんから」
「あぁ。分かった。そっちも気をつけろよ」
「はい。行くよ」
そうして俺たち三人はあたりを注意深く見渡しながら馬車を降りる。
ここは一本道。道の周りには林があり、林の奥は見えない。
「ミシア、変なところがあったら教えてくれ」
「うん」
「ここは駆け抜けた方がいいかもな。村の近くになったら慎重に行くぞ」
「うん。急ごう」
アイラが追いつけるほどの速度で足音を立てずに走る。
木の影には今のところ人影は見えない。
村の中から物音は聞こえない。
生存している村人はどこにいるのだろうか。
珍しく開いている門の影に隠れる。
慎重に中を覗くと村の中には誰もいない。
「誰もいない……?あ、いやでも、よかった……大丈夫そう……」
「どうした?」
「あ、いや、あの真ん中の塔があるでしょ?あそこが開けられてなさそうだったから。多分全滅してたらあそこも開けられてると思うから」
「あそこってなんだっけ?」
「あそこには神器がたくさん眠ってるの。成神するとあそこから神器を渡される。宗教とか伝統とかそういう意味で大事なのはそうだけど、何よりあそこを突破されたらもう、戦力差が……」
なるほど。確かにそれもそうか。
「とりあえず、生存者たちに合流したいけど、どこにいるか当てはある?」
「いや……ない。なんか隠れ家とかシェルターとか避難所とかそういうのは無いから……」
「そうだ。あの食べ物屋の奥の森は?隠れるにはもってこいじゃない?」
「あの森は危険な動物もいるし、隠れるにはいいかもだけどそれはあっち側にも言えることじゃない?堂々と占拠してたらあの森も隠れれるけど、今は敵の姿は見えないし、あの森に隠れている可能性もあるから……っ!村に入るよ!一瞬見えた!林の奥!相手は人間じゃない。よく見えなかったけど人型、それも二メートルぐらいの魔物!」
「おう!」
そうして村の中に入るが、魔物は襲ってこない。村の人が追い返したのだろうか。
「ちょっと静かにしててね!ふんっ!」
突然後ろから女性の麗しい声が聞こえたかと思ったら体が持ち上がる。
「メローナ!」
「静かにしててって!やっぱりミシアに……神の遣いって言われてる人?あなたは……聖なる巫女?」
「は、なんの話……」
「メローナ!よくやったぞ……!お前……コウシか……?」
「はい。久しぶりです。ウィーンさん」
俺たちはメローナと呼ばれた空を飛ぶ女性に持ち上げられ、とある民家の二階の窓からウィーンさんの力を借りて入ることに成功した。
「あ、お姉ちゃん!生きててよかった……」
ミシアはセシアの姿を見つけるやいなやすぐに抱きつきに行った。
「あの、今の状況は?」
「あぁ、生存者はこれで全てだ……」
そう言って顔を出してくれたのは、見たことある人で言うと、セシアさん、食べ物屋のウィーンさん、赤龍が来た時にみんなを守っていたレイドさん、食べ物屋に来たニータさん。他にはローリャさんと名乗った女性、本を持っているライゴさんと名乗った男性だけだった。
「随分、寂しくなってしまいましたね」
「あぁ……そうだな」
宿屋のおばさんも案内してくれたカロードさんもいない。
「敵は?」
「敵は魔物連中と魔族の教団だ」
「教団?」
「あぁ、ライゴが言うにはバサルト教団、と言うらしい」
「その、勝てないんですか?」
「厳しいな……いかんせん人数が少なすぎる。この中だとライゴとメローナ以外は戦えるが、それにしてもだ。相手はEランク相当の悪魔が複数と魔狼、教団員はそこまでランクは高くないがあくまで人間、知能を持っている。それに数も多い」
「でも、ここにいてもジリ貧っすよね」
「あぁ。だからこうして人数が増えたのはとてもありがたい」
「勝機はあるんですか?」
「さぁな。だが、あの塔に侵入されてないだけマシってことだけだ」
「ミシアもそれ言ってましたね」
「ねぇ」
「ん、アイラどうした?」
「その、塔の中の神器?をコウシとミシアが使えばいいじゃん」
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