レーフェ編 第二十四話 日本産

「コウシー起きてよー」


 目覚めは疲れたようなミシアの声によるものだった。

 体をぐわんぐわん揺らされ、目が覚める。


「もう図書館開いてるから」


「ごめんって。違う世界に飛ばされて二日目の俺の気持ちを少しは考えてよ」


「それもそっか。でも起こすけどね」


「まぁ、寝坊した俺が悪いか」


 服も着替えずに寝たため朝の準備はそんなになく、口と顔を洗ってメリケンサックとナイフを装備したら完璧だ。

 

 すぐに部屋を出る準備が整い、ミシアの方を見るとミシアもちょうど準備が終わったのか扉のほうに歩き出している。

 位置を合わせて歩き出し、扉を開ける。

 フロントを通って外に出る。


「図書館?の場所は知ってんの?」


「うん。昨日コウシが寝た後にちょっと調べたよ」


「準備が良くて助かるよ」


 ミシアの先導によりスムーズに図書館と呼ばれるところに着いた。そこは日本の県立図書館ぐらい大きく、入口の扉も異世界にきてから一番大きい。


「ここだよ。さ、入ろ」


 扉を開けると古本屋とか古い図書館の特有の匂いがする。

 入口のすぐ近くにカウンターがあり、そこで手続きをするみたいだ。

 ここに入って見ること自体は自由っぽい。

 

 中は大きな一つの部屋で構成されており、その部屋の中に道を作るように本棚がびっしりと敷かれている。

 中を歩いていると気づくが戦闘用のスキルとか便利系?のようなスキルなどちゃんと系統立てられて置かれている。その中でも剣のスキル、槍のスキル、魔法のスキルと色々分かれている。


「じゃあ、こっから自由行動にしよっか」


「おう」


 俺はとりあえず拳の区画に向かう。

 拳の区画につくと剣ほどの量はないが、大きな本棚が二個埋まるほどある。

 本に触れると情報だけが流れ込んでくる。

 盗難対策だろうか。

 情報にはスキル名と詳細、値段がある。

 たまたま触った一個目には『強靭な爪。魔力を拳に纏わせ、衝撃を強める。三八〇〇円』と書いてあった。多分安いしこれは弱いんだろうな。

 予算は昨日の報酬を割って一一五〇〇だ。フルで使い切るぐらいのがほしいな。


「そこの君。ちょっといいかい?」


 突然後ろから声が聞こえる。ミシアじゃないし誰だ。

 振り向くと見たことない低身長の女性がいた。


「あぁ、なんすか?」


「君は類まれなスキルを持っているね。それを私……いや、この世界のために役立たせてほしいんだ」


 スキル……星の一撃じゃないよな。俺の翻訳のことか?


「この世界?何するんすか?」


「それは歩きながら説明しよう。やってくれるか?」


 なんか役に立てるなら……嬉しい。


「まぁ、いいですよ」


「ではついてきてくれ」


 彼女は振り返り、歩き出して説明を始める。


「この図書館には多くのスキルが貯蔵されているが、この私にも未だ解読ができず倉庫に眠っているスキルがある。それは破れていたり、意味が不明だったりスキルとして成り立っているかわからないものもあるが、一部に存在しない言語で書かれており読めないものがある」


 大体わかった。


「そこで、君のスキルを用いてそれを翻訳してほしいのだ」


「はぁ、まあいいですけど。なんで俺のスキルがわかったんですか?」


「ふむ。自己紹介が遅れていたな。私の名前はミトラ。スキル『見通す目』を持っている。これは人間に限るがその人の能力・スキルが見れる。理解したか?」


「はい」


 カロードは気持ちや記憶を見て能力のことを理解していたがまた別なんだな。

 一見下位互換のように思えてしまうが神器の力によるものだったりまだ『見通す目』の力を全て理解できたわけではないからなんとも言えないか。


「ほれ、これだ」

 

 バックヤードに入るとそこに多くの本が積み重ねられていた。

 表紙が破れていたり、一部が焼けていたりしている。

 

 俺からしたら全て読めるからどれが翻訳できない本かわからない。


 ミトラは奥に進んでいき、小さい体で数冊の本を積んで持って帰ってくる。


「これ全部いけるか?」


 まぁ、読める。けど、


「いいっすけど報酬はあるんすよね?」


「そうだな。その話をし忘れていたか。報酬はこれらのスキルを全て習得していい特権と公開されているスキルをどれか一つ渡すこと。そして翻訳したスキル一つにつき三十万円を報酬としようと思う。足りないか?」


「いやいや、全然足りるんですけど……どうしてそこまでくれるんですか?」


「スキルが増えることで私の目に映る景色が綺麗になるからな。それにこれらのスキルは君がいないと存在していないことと同義になるはずのスキルだ。それを君が復活させるんだから君がそれらを使えないなんてのはおかしいだろ?それにもう私には金や財産はいらないんだ。持て余しているし本当に必要としていない」


「まぁ、そうなんすかね」


 俺の机の前に置かれたたくさんの本はどれも古めかしい。だがどれも読めてしまう。


「少し待ってくれ。君はそのスキルの詳細を読み上げてくれ。私がそれを書き取る」


「うす」



「では、始めてくれ」


「えっと……『スキル:発勁。魔力を全身に作用させ全ての組織を活性化させることで身体能力を底上げする。条件は魔力を体に循環させること。』」


「ふむ、そんなスキルがあったとは。では次のを頼む」


「値段は書いてないんですけど……」


「値段は私が決めているからな。構わん」


「わかりました。えー……『召喚:大妖狐――――――――――



――――――――――条件は神であること。』これで全部っすね」


「お疲れさま。翻訳してくれたスキルは全部で九冊だな。報酬は二七〇万だ。ちょっと待っていてくれ、すぐに持ってくる」


 改めてスキルを見てみる。

 九冊のスキル、全てが日本のものだった。それらは武道の技から神話由来のものまで多様だった。日本以外のものはなく、それが日本人によって記されたものだとわかる。今となっては勝手に翻訳されてしまうためわからないがこれも日本語で書かれているのだろう。


「ほれ、これが全てだ。確認してくれ。そして、いつでも私に言ってくれればこれらのスキルを無料で閲覧しても良い。今ここで全てを覚えることは難しいだろうからな。そして、自由にスキルを見てこい。改めていうが無条件で一つくれてやろう」


「わかりました。じゃあとりあえず全部持ってってもいいですか?」


「む、まぁ、いいか。持ってってもいいぞ」


「あざす」


 報酬を受け取りバックヤードを出る。

 

「ふぅ……自由ってことは一番高いものでもいいんだよな」


 少し伸びをしてからもう一度拳のとこに戻る。

 強いのを高くしてるんだよな?

 今のを全て習得できたらだいぶ強いけどまだいるのか?わからないな。一旦このことを知らせにミシアの元にでもいくか。


 少し歩いて予想通り剣のところにいたミシアを見つける。


「ミシア。決まった?」


「んーとね……今迷ってて、これとこれなんだけど予算的には一個しか買えないんだよね。生活費削れば買えるけど……」


「じゃあ両方買ったら?」


「え、なんで……っていうかどうしたの、それ。そんな買えないよ?多分」


「そうそうこの話をしたくて、これ貰ったんだよ。あと自由に一個もらえる権利ももらった。あとこれ」


 そう言って袋に入った金を見せる。


「え、え、え。な、何したの?まさか……恐喝?」


「してないしてない。働いたんだよ。ここの店主?のミトラってやつに翻訳を頼まれてな。それでこの翻訳したやつ全部もらって追加で報酬ももらった」


「異世界人ってバレたの?」


「いや、あいつがいうにはスキルとか能力をみるだけって言ってたけど、俺自身なんて名前のスキルかわかってないから『異世界言語翻訳』とかだったらまずいかも。あ、でも驚いたり変な対応とかはなかったぞ」


「それならいいけど……コウシがなんかスキルもらったらいいのに」


「俺、こんなもらったしって思って」


「そっか。ありがと。じゃあ二つ買っちゃおっかな」


 俺は九冊、ミシアは二冊抱えカウンターに向かう。


「これってどういうシステムなんかね」


「確かに。私は特訓して覚える方法しかやったことないからこの方法はわかんないかも」


 カウンターに着きスタッフに事情を話すとすんなりと理解してくれたのかミシアが持っている一冊の会計だけをすると、


「それではこちらにおいでください」


 スタッフが案内するように体を傾け俺たちを誘導する。

 カウンターの奥に広がる大きな部屋に通されたかと思いきや見覚えのある人がいた。


「やぁ、さっきぶりだね。君にも仲間がいたとはね。おっとまたも言わなくてもいいことを言ってしまった。すまない。ではどちらから始めようか」

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