レーフェ編 第二十五話 緋色

「それではこちらにおいでください」


 スタッフが案内するように体を傾け俺たちを誘導する。

 カウンターの奥に広がる大きな部屋に通されたかと思いきや見覚えのある人がいた。


「やぁ、さっきぶりだね。君にも仲間がいたとはね。おっとまたも言わなくてもいいことを言ってしまった。すまない。ではどちらから始めようか」


「この人がさっきの人?」


「あぁ、そうだ。そんなことはいいから順番どうする?」


「そんなことって……じゃあ私の方が少ないからすぐ終わらせてくるね」


「おう」


「ふむ、お仲間さんから、と。ではその本を私に渡してくれ」


「はい。どうぞ」


「では、この魔法陣の真ん中に立ってくれ。力を抜いて今から君に起こることをあまり拒否しようとしないでくれ。スキルの習得ができなくなる」


 部屋の真ん中にある大きな魔法陣の真ん中に立つ。


「は、はい。こんな感じですか?」


「あぁ、十分だ。ではまずは『自然の剣戟』から行くぞ」


 ミトラはその小さな体についている短い腕を精一杯広げ、大きな魔法陣が煌めく。

 スキルの本が輝き文字が宙に浮き、ミシアの体に入っていく。


「……俺の記したものを対象に授ける。今後の人生に八百万の神の福が授かることを祈る。か」


 八百万の神って翻訳したらそうなっただけ……いや、さっきの本に記されていたのもまんま日本神話の言葉でそれに由来した能力だった。じゃあ、この八百万の神というのは本当にその言葉でその意味で使ったのか。

 あとで色々聞いてみてもいいかも知れないな。


「ほれ、スキルが体に入った感じがするだろう?してなければもう一度という話なのだが」


「大丈夫です。なんとなく、そんな感じがしてます」


「ふむ、ではそんなに時間もあるまい。次行くぞ」


 

 さっきと同じようなことが起き、ミシアにスキルが加わったようだ。出てきた文字も同じ。


「では、次はコウシの番だ。こちらにきてくれ」


「おう」


「では、準備はいいか?さっきの見ていただろうから説明は不要だな?」


「いや、あぁ……聞いてもいいか?」


「なんだ。もしかしてみていなかったのか?」


「見ていたからの疑問だ。八百万の神ってなんだ?」


「八百万の神……聞いたことがない神だな。私が知らないことということは先ほどの翻訳したスキルに関係があるのか?」


「おそらく確実に関係がしてるんだと思う。でも、推測でしかない」


「その話を今すぐにでも深掘りしたいが君は九個ものスキルを習得しないといけないのだろう?」


「あ、あぁ。そうだった。俺も気になるからいつか時間があった時に」


「そうだな。では始めるぞ。まずは『発勁』からだ」


 足元の魔法陣が煌めく。さっきは紫色だったがこれは白色。なんの違いだろうか。

 一瞬だけミトラの顔を見ると目を見開いていた。特別なことなのだろう。不敵な笑みも浮かべている。

 一応確認のため浮かび上がる文字には


『これが読めている君は神になるべきだ。君が知っている宗教はとてもいいものだ。この世界の何者にも勝る。潰せとは言わない。見守っててほしい。このことは秘匿してくれ。逢魔 緋色』


 ……嘘だろ。めちゃくちゃ書いてある。どういうことだ?神になれ?規模がデカすぎて上手く思考がまとまらない。宗教?キリストとか仏教とかイスラムとか?最後のは名前だよな?

 文体的にさっきのミシアに使った時に出たやつと同一人物っぽいな。大事そうだから覚えておくけど……目的はなんだ?会ってみないとわからないな。それもまだ生きていればの話だけど。


「スキルの入ってきた感覚がわかるか?」


「まぁ、はい」


 確かに自分の限界が遠のいたような気がする。このことだろう。


「どうした?顔色が悪いが……」


「いや、なんでもないです。やっぱり確実に話し合いの時間は取ろう」


「そのつもりだったが……にしてもさっきのは一体なんだったのだろうか。白い光に見知らぬスキル……」


「そのこと含めてあとで話します。とりあえず今はスキルを覚えさせてください」


「そ、そうか。楽しみに待っているよ」


 そして、全てのスキルが覚え終わった。スキルによって光の色や文字が変わるわけでもなく、体にかかる力も変わらなかった。

 俺をこの世界に送ったあいつが言うには他にもこっちにきてる人が過去にいると言っていたが、確実にこの逢魔緋色のことだろう。日本にあった料理を広めたのは別人だろうか。


 改めて自分のスキルを確認する。

 条件的に使えないものもあるが覚えることはできるのだろう。


 ……これ、剣のスキルか。ミシアがこれを使えるとは到底思えないがタダだし今のうちにやらせるか。


「ミトラ、その中にある『天叢雲剣』をこいつにも覚えさせてくれないか?」


「まぁ、構わないが……使えないぞ?」


「タダだしいいだろ」


「そうだな。そこのお仲間もいいだろう?」


「はい、大丈夫です……」


「では、真ん中に立て」


 ミシアに対してもそのスキルは白く光り、文字も俺に向けたメッセージだった。

 

「どうだ?」


「まぁ、無事に出来ましたけど……」


「ミトラ、そのスキルは売らない方がいいかもしれない。まぁ、今のところ俺の推測でしかないからお前が売りたかったら売ってもいいが……」


「ふむ……わかった。何かわかったのだろうな。明日また会えるか?」


「ミシアはいいよな?」


「うん。余裕あるよ」


「だそうだ。開店三時間前ほどにきてくれ。私もこの仕事は離れられないからな」


「わかった」


「ひとまずはお別れだ。楽しみにしているよ」


「じゃあな」


「なかなか面白いスキルだな……興味深い」



 俺たちはそれぞれがモヤモヤしたまま解散した。外に出ると既に夕暮れだった。時間があったら依頼を受けようとも思っていたが流石に厳しいか。

 それに今日はちょっと考えをまとめたい。俺の頭じゃ無理かもしれないがミトラにスムーズに伝えられるぐらいにはしとこう。


「俺は帰りたいけどどうする?」


「うーん、ちょっと私は歩いてよっかな。先に帰っててね」


「わかった。お前なら大丈夫と思ってるけど、早めに帰って来いよ」


「うん」


 そして、俺は結果として足速に帰った。頭の中を緋色の言葉がぐるぐる回っていつの間にか宿についていた。

 そのまま部屋に帰りベッドに倒れる。


「『神になれ』?どういうことなんだ全く。俺が?神に?いやいやいやいやいや。ほんとに?パッとなれんならなるけどさぁ。そういうわけにもいかないだろ?柄にもあってない感じもするしなぁ。そんなことはもはやしょうもないか。はぁ。どうしよ」

 

 とりあえずミトラに相談してからだよな……。緋色のことを知ってたらいいが知らなかったら一応秘匿ってことだし隠さないといけない。最初かまをかけて知ってるか確認して、知らなかったら緋色のことと神のことを隠してスキルのことを話そう。

 まぁ、なんとかなるか。

 

 もらったスキルは九つの中で三つ、条件が自身が神であったり神と関わりがないと使えないものがある。

 そんなすぐ近くに神なんているわけないのに。アホかよ。まぁ、それだけ強いってことなのかな。

 普通に使えそうなのは六つだけ。『発勁』『召喚:大妖狐』『武士道』『燕返し』『火車』『阿吽の呼吸』。

 説明も書いてあるけど使ってみなきゃわかんないよな。

 今のところはいいか……もう寝よっかな。明日も早いし。

 

 俺が寝っ転がった状態からそのまま体勢を直そうとしたその時だった。


「大斬!!」

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