レーフェ編 第13話 スキル

「そ、そうなのか。じゃあ殺して良かったな。……なんかすまん」


「いいのいいの!コウシもスキル使えたんだね。意外。どこで覚えたの?異世界?」


「いやぁ、あれはハッタリっていうか……俺の方に集中してくれたらミシアがやりやすいかなって。だから使えない」


「ふーん。結構頭が回るんだね。正直助かったよ」


「ならいいけど。スキル?ってどうやって覚えるんだ?特訓みたいな?」


「特訓?覚える時はしないわよ。条件を満たして魔力を支払えば使えるはずよ?」


「条件?」


「そ、たとえば私のさっきの精霊の風は精霊と三人以上契約しているとか精霊斬は精霊と一人以上契約していて剣を持っているとか。そんな感じ」


「なるほどねぇ。星の一撃?はどんなの?」


「うーん私のスタイルと合ってないからうろ覚えなんだけど何か手に装備してるだけでできた気がするわよ。なんかある?」


「装備か……あ、これでもいいってことか?」


 そう言って俺は男の死体からメリケンサックを外して手につける。

 

「ちょ、ちょっと!遺体からって……なんか不謹慎っていうか不気味っていうか……」


「大丈夫大丈夫。俺さ、幽霊は信じてるけど怖くないんだよね。俺に対して圧倒的な優位を保ってるのに金縛りとかしかできないじゃん。そんなやつに負ける訳がない」


「そのメリケンサックからの幽霊は大丈夫だと思うけど、めちゃめちゃ強いよ……?だって魔法じゃなくて呪いを使うし倒すのには神聖な力が必要だしあいつらの攻撃も防げないしで……考えただけでも……」


「まじ?めちゃめちゃ強い?」


「うん。ある地域では寝てる間に一体の幽霊によって村の人がほとんど死んだんだとか。ある村人が早くに起きて異変に気づいたから良かったもののそのまま寝ていたら……」


「本当に強いっていうか怖えな。まじか……さっきこれからは大丈夫って言ってたけど?」


 そう言って拳にはまっているメリケンサックを指差す。


「幽霊って全然発生しないのよね。強い怨念を持ったまま死ぬとなるらしいんだけど、こいつの金を奪ってやりたいってだけじゃ幽霊にはなれないわ。過去の事例だと実話かはわかんないけど世界の完全征服を望んだ魔王とか金のためだけに家族と村人を殺された少年とか。そのレベルだからさ」


「ふーん。ならいっか。さ!スキルを覚えようぜ」


「あ、うん。そうしよっか。じゃあさっきの魔法陣に魔力を流す要領で体全体に魔力を注いでみて」


「わかった」


 もともと体の中にある魔力を外に出すのはわかるけどもともと体の中にあるものを体の中に流すって意味わかんねぇな。この世界の人はそんなめんどくさいことを考えてないんだろうけど。

 体の中の力を抜く。こういうのってイメージだよな。なんかそれっぽいイメージ……あ、レトルトのカレーか?湯煎してるお湯の中であのパウチを開ける。そしたらカレーがお湯の中に入って最終的にはまっ茶色になる。そんなイメージで……体の魔力が入ってる封を開ける……あ、きたかも。

 できるだけ体を動かさずに、できるだけ体の中の状態を変えないように、


「どうできてる?」


「んー私からはわからないけど、その状態で星の一撃って唱えてみて?」


「ふぅ。星の一撃」


 そう唱えると右手に何か負荷がかかる。じっとしてられない感覚。このままじゃダメだと思った俺はあてもなく真上にその力を放出する。

 光線のようなものが少し出て拳の感覚は治った。

 初めて魔力を具体的に使ったからか体の疲れがひどい。なんだこれ。フルマラソンを走ったとかではなく何日も寝てないような慢性的な疲れ。ただ眠気はない。


「疲れちゃった?それが魔法酔いよ。慣れてなかったり体の魔力を使いすぎたりするとそうなるわ。最初のうちはよくあるけど、魔力を使い過ぎることはほとんどないからそれっきりなんだけどね」


「ふーん。ならまぁいっか。治るっしょ。で、死体はどうする?異世界とはいえ放置はまずいんじゃねぇの?」


「そうだね……あとで見回りの騎士に教えて処分させとくね」


「あぁ、人殺しって捕まるんじゃないの?信じてもらえる?」


「多分大丈夫だね。喧嘩だし」


「喧嘩だし……」


 そう話はまとまって俺たちはその路地をそのまま抜けた。肩と背中が痛むが、連戦はさすがにないだろうし、寝れば治るから大丈夫だろう。

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