カルミル村編 第3話 集落

「なぁ、大丈夫か?」


 俺の声が聞こえたのか少し顔を上げる。


「誰」


「あー、荒神。ん、今名前が聞きたかった訳じゃないか。俺は……旅人的な?」


「そうね。結局名前を聞いてもわからないもの。旅人ね」

 

 それで会話が終わってしまう。話す気がないのか?

 目の前に腰を下ろし便所座りをして目線を合わせる。

 

「んで、大丈夫かって聞いてんの。怪我?家出?」

 

「……大丈夫よ。怪我じゃないし、家出って何歳だと思ってんのよ」

 

 何歳……。

 

「んー、二十一ぐらい?」

 

「……そんくらいよ。なんでそう思いながら家出って聞いたのよ」

 

「別に成人してても家出ぐらいするだろ。お前はあそこの街の人間なんだろ?」

 

「え……。あなた旅人なのよね?」

 

「あぁ、そうだけど?なんかあった?」

 

「いえ、なんでもないわ。あと、私はまだ成人してないわよ。二十……ぐらいって言ったじゃない……って旅人だからか」

 

 ん?成人してないのか?二十で成人じゃないのは文化が違うから当たり前か。地球でももっと速かったりする民族とかいる、と思うしな。

 

「お前の文化では何歳で成人なんだ?」


「二十五。そんなこと聞いてどうすんのよ」

 

「どうすんのってここら辺にきたばっかで全然わかんねぇから。そんだけ」

 

「あっそ。じゃあね。早くそこにいけば?」

 

「へいへい。お前も早いうちに戻れよ。俺から話しとくか?」

 

「いらないわよ。っていうか私が誰かも聞いてないじゃない」

 

「あぁ、忘れてた。じゃあな」

 

 そう言って歩き出す。名前聞くの忘れたのが気に食わないってめんどくせぇな。興味ねぇよ。

 にしてもだいぶ文化が違うな。服装もいかにも森の住民って感じだ。

 もうすぐ着くが……受け入れてもらえるかわかんねぇな。地球のアマゾンとかどっかのなんとか民族は外部からの干渉は一切受けずに近づいたら攻撃されるとか聞いたことがある。

 まぁ、こんな一本道を作ってくれてるしそこまで防衛意識はないのか?

 一応入り口には門があるが。

 

「すいませーん」

 

 門の奥に呼びかける。流石に誰かいるだろ。

 設定は旅人ってことにしとくか。さっき適当にそう言っちゃったし。

 

「どなたですか?村の者ではないですね。一応身分を教えてください」

 

 柔らかい感じの男性の声が返ってくる。身分証とかないぞ。

 

「山上荒神っていいますー。身分証とかはないんですけど、旅人って感じでーす」

 

「旅人ですか……今向かいますので」

 

 ちょっと不安そうな声が聞こえた。

 すると門が開く。出てきた人は身長は俺と同じぐらいの百七十台。色白で今気づいたがさっきの女も髪がこの人同様肌色っぽい色。おっと、最近は肌色って言葉使っちゃいけないんだっけか。めんどくさくなったよなぁ。ベージュ色っぽい感じだ。

 服もあれと同じ感じだ。眼鏡をかけてるし、そういう文明はあるのか?


「あなたがコウシさんですよね。ではお入りください」

 

「うす」

 

 先導してくれている男の後ろをついていく。

 

「俺を疑わないんすか?」

 

「疑わないことはないですがこの世界にはさまざまな人間がいます。私たちはどんな人間であれ認めることで争いをなくしてるんです」

 

「平等ってことっすか?」

 

 よく理解できなかったがそれだと殺人鬼がきた時全滅させられるんじゃないだろうか。


「まぁ平たく言ってしまうとそうなってしまいますね」

 

「それって危なくないっすか?もしここで俺が暴れてあなた含めてたくさんの人を殺してしまったら……終わりじゃないっすか」

 

「うーん、そうですね。その通りです。ですが、それを起こさせないための私です。そもそもあなたが私たちを殺すようには見えないですし、おそらく殺せないですよ」

 

 そう言って男は笑う。

 武器を持っているようには見えないがなんか魔法とかを使うのだろうか。

 実際俺は殴ったことはあるが殺したことはない。この人も殺せないか。

 

「ふーん……。あ、今からどこに向かうんすか?」

 

 宿屋とかはあるのだろうか。しばらく住みたい。


「今から宿屋に向かいます」

 

「宿屋?いやまぁ、嬉しいけど、なんでわかったんすか?」

 

「あなたが最初に旅人って言ってましたから。それとも旅人じゃないんですか?」

 

 男は少しにやつきながら俺に聞いてくる。

 なんだ?見透かされた?

 

「いや、旅人っすけど……。あと、俺金ないっすよ」

 

「知ってますよ。大丈夫です。近いうちになんか働いて返してくれれば」


 なんで知ってるんだ?こいつの能力……それこそ魔法ってやつか?

 

「あぁ了解っす。そういやお兄さんってなんて名前なんすか?」

 

「名乗ってませんでしたね。私はカロード・カルミルと申します」

 

「カルミルさんって呼べばいいっすか?」

 

「あーカルミルってのは私たちのことをまとめてカルミルと言うんです。んーと、わかりやすく言うと全員共通で持っていてこういう集団だって言うのを外部の人に伝えるための物?ですかね。すみませんね、説明なんてしたことないですから言葉がまとまらなくて」


「なるほど。大丈夫っす。大体伝わりましたから。ってことはお兄さんだけの名前はカロードってことですよね」


「はい、そうなりますね」


「あれっすよね。私はカルミル族?のカロードだってことですよね」


「あぁ、そうですね。次からそんな風に説明します」


 そんな話をしているとどうやら宿に着いたようだ。カロードが体を斜めにして入るように手で合図する。ほんと紳士だなぁ。というかこの街……いやそんな大きくないから集落とか村だな。この集落に住んでいる人みんなが紳士というか、寛容だ。

 ここにくるまでに住民何人かとすれ違ったがみんな驚いたりじーっとみたりしたあと結局歓迎しているような笑顔になる。カロードさんの信用もあるんだろうけど。

 金がない見ず知らずの自分を快く宿に泊めてくれるのはなんか疑ってしまうほど優しい。

 よくあるパターンとしては無条件で歓迎していい気分にさせて金品を集ったり生贄にしたり……みたいな。ちょっと警戒した方がいいのか?


「あらいらっしゃーい!旅人さんなんだってね!どうぞどうぞ、ささ、こちらに上がってー」


 宿屋に入ると恰幅の良い食堂のおばちゃんみたいな女性が歓迎してくれた。ここの店主だろうな。


「あぁあざっす。俺ほんとに一円も持ってないですけどいいんすか?」


 円。円じゃないだろうなぁ。あっちに聞こえる時はここの貨幣にしてくれるのか不安だ。


「カロちゃんから聞いたわよぉ。大丈夫よ。カロちゃんからも聞いたと思うけどなんか働いてくれたら問題ないからね。いろんな仕事があるけどもし良さそうなのなかったら私の手伝いしてくれる?」


「了解っす。私のってここの宿屋のってことっすよね」


「うん。そうよ」


「とりあえずいろんな仕事見ようと思ってるんでお世話になるかもっす」


「そうなのね。待ってるわ。ところで今のところは?」


「そうっすねぇ。正直、全然わかってなくて、なんの仕事があるのかとかどれくらいすればいいとか……」


「あら!そうなのぉ?カロちゃーん!聞いた?ちょっと、案内してあげて!!」


「聞いてますよ。わかりました。では、コウシさん。一旦部屋に行きます?大丈夫ですか?」


「あぁ、じゃあ一旦荷物とかあるんで置いていいっすか?」


「だそうです。先に部屋を案内してあげてください」


「わかったわ。こっちよ」


 そう言っておばちゃんは二階に上がり俺の部屋に案内してくれる。

 何部屋かあるうちの端っこ。階段から一番離れている場所。

 

「ここよ。はい、これ鍵だからね」


 と、言って早々に立ち去る。


 いい感じの木の扉を開けるといかにも宿という感じであるのはタンスとベッドと机と椅子だけ。一つだけある窓からはこの集落の大体が見える。

 眺めたいがカロードも待ってると思うし行くか。

 スマホはポケットに入れたままでポケットの菓子パンを机の上に置く。今までずっとポケットがパンパンでうざかったし。

 

 一応部屋の鍵を閉めてポケットに入れながら階段を降りると、カロードが待っていた。


「待たせました。いいっすよ」


「はい。では行きましょうか」

 

 宿屋を出てカロードはどこへ行こうか悩んでるのか足を止めて左右を見ている。


「カロードさん、あのたっかい塔はなんなんすか?」


「え、あ、あぁ。あそこはなんもないから行かなくていいですよ」


「そっすか」

 

 突然声をかけられたこともあってかなんか変だったが何もわからない。気にしなくてもいいか。

 

「じゃあ、まずはあそこに行こうか」


 そう言って指差したのは宿屋ぐらいの大きさの建物。看板には見たこともない文字で書かれているがなぜか自然と読める。


「『食べ物屋』」

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