カルミル村編 第2話 召喚
「初めまして荒神さん。具合とか悪くないですか?」
どこだ。誰だ。何も見えない。知らない女の声が聞こえる。匂いはしない。無臭すらしない。息ができない感覚がする。足には立っている感触があるが靴越しに感じる地面は土でもコンクリートでもない。初めての感触。
「具合か……頭とかは痛くねぇけど。目が見えない。あと、誰なんだ。ここは何だ」
矢継ぎ早に質問してしまう。
「ではなにも問題ないですね。その二つの質問に関しては答え兼ねます」
女の淡々とした感じが苦手だ。気持ち悪ぃ。俺は「あっそ。」とだけ言うと少し間が空いて、
「では本題に入りますね。あなたには地球がある世界とは別の世界に行ってもらいます」
何言ってんだ。
「別の世界?そんなんがあるのか?」
「はい。確かに存在してます」
「このだだっ広い宇宙の向こうか?違う惑星とかではないんだろ?だったら発見されてるもんな」
「宇宙の向こう……考え方としてはもう一個何もかもが違う宇宙が存在している、と考えた方が楽かもしれませんね」
「まぁ、よくわかんねぇな。すまん。話の途中だったな。脱線した」
「そうですね。続きですがただ異世界に行っても今のあなたじゃ何もできずに野垂れ死ぬのがオチです。なのであなたには何か能力を一個与えます。なんでもいいですよ」
そう言われても。
「能力か。過去の事例とかはないのか?」
「それはプライバシーですので。ただ、用意している具体例としては『億万長者になる。』『全てを斬る剣を手に入れる。』『天才的な魔法の才能。』などがありますよ」
魔法……。なんかのアニメみたいだな。ほんとに世界が違うのか。
「質問いいか?」
「はい。答えられる範囲であれば」
「その、俺が行く……異世界?って言語はどうなってんだ?日本語しかわかんねぇんだけど。通じる?」
「いい質問ですね。もちろん日本語は通じませんよ。聞き取れませんし。ついでに言うとあなたがいた世界のどの言語も通じません。英語も中国語もその他全ての言語も」
「なるほどなぁ。じゃあ『言葉がわかるようになる。』でもいいのか?」
「そうですね。あっちの世界の言語が全て理解できる、でいいですか?」
理解?
「待って。それだと俺の言葉通じないよな。通じて理解できるようにはならないか?」
「はい、そうですね。できますよ。ではそれで決定にしますか?」
「おう、それで」
「了解しました。ではなるべく何も考えないようにしてくださいね。さようなら。良い人生を」
目を開けていても何も見えなかったがなんとなく目を瞑る。何も考えないようにと言われたができそうにない。
次第に地面の感覚が足から消えていき、五感を擬似的に失った俺は初めての経験ということもあり死んだような感覚に陥る。思考が続いてる時点でそんなことはないのだろうけど。
どんな世界なのだろうか。魔法とか剣とか言ってたしドラゴンとかもいんのだろうか。
そういや、地球での俺の存在はどうなんだ。まぁ、大したことになんないだろ。今までニュースでも異世界に失踪したなんて聞いたことがない。過去の事例についてプライバシーって言ってたし何人かいるんだろ。
元々そんなにあの世界に執着はないし、記憶から消されても死んだことになってもいい。
いつの間にか、足に地面の感覚が戻っている。今度は土の感触。鼻から吸い込む空気には特にはないがちゃんと匂いもある。体にはそよ風を感じるし瞼には光が当たっていて目を閉じていても眩しいと感じる。
ついたのか。そう思って目を開けてみる。
そこには開拓だけされて地面が舗装されていない一本道があり、その両脇は詳しくないから種類とかはわからないが細長い木がたくさん生えている。まばらな感じをみると植林ではないように思える。
前には長い道があるだけで先が見えない。後ろを振り向くと同じような道が続いているがその先になんとなく明かりが見える。
こういう時ってとりあえず街とかに行くべきだよな?
俺は少し不安な気持ちを抱えながら歩く。
歩いてから少しずつ脳内が整理されていく。
今持ってるもの、着てるものはあの世界のまま。制服にスマホに食べてない昼飯の菓子パン。
金が共通なわけはないが俺は財布じゃなく電子マネー派だったせいで現金を持っていない。
風は暖かく気温も高め。日本で言うところの六月ぐらいか。
街っぽいところまであと半分ぐらいになり、建物も見えてきた。こっから見える建物は昔の建物って感じだ。中国の土を固めて作る建物の雰囲気。よくわかんないけど。
そう考えていると少し先、街の少しこちら側に人?が体育座りでうずくまっている。
家出か?迷子?迷子ではないか。目の前に街があるし。怪我か?めんどくさいけど話しかけるか。ちゃんと能力がついてるのかも気になるしな。少しでも情報を集めたい。
聞こえないぐらいで軽く発声練習をする。
「ぁ、あ、あ。う゛ん!」
少し掠れてたが治った。
近づくと少し腕の隙間から見える横顔から女の人だとわかる。少し気が楽になる。
「なぁ、大丈夫か?」
俺の声が聞こえたのか少し顔を上げる。
「誰」
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