第45話 雷神の大樹
ラドンの協力を得る事が叶ったところで、全はラドンに秘境について尋ねた。
「竜の渓谷に秘境と呼ばれる場所はないかい? これまであまり人の目についていない場所なんだと思うんだが......」
ラドンはしばらく考えるてから答える。
「ここは魔素濃度が高い。人が気安く足を運べる様な場所ではない。我の元まで来た人すらおらぬが......しいて言うなれば......我の後ろに渓谷はもう少し続いておる。そこの事かも知れぬな」
それを聞き全がラドンの後方にまわり込むと、確かに洞窟状に道が続いていたが、そこは到底竜が通れる様な大きさではない。
「すまないがこの先に行きたいんだ。ラドンは少しここで待っていてくれ」
全がそう言いラドンは了承すると、レディオーガも「妾もここで待っておるぞ」とその場に座り込んだ。
全と武仁とズチは3人で渓谷の奥地、洞窟状になった道に足を踏み入れた。
洞窟状だと思っていたそこは、どちらかと言えば筒状で、少し進むと光が差し込んでいるのが確認出来る。
出口を抜けると、天井には空と繋ぐかの様に穴が空いており、地面には一面に草花が生い茂る。
不思議なのは、この場所だけ魔素が薄くなっている事だ。
そして、天井に空いた穴から直に光が当たるこの場所の真ん中には、根さえ立派だが、幹の途中からは形を成してない、痛ましい大樹があった。
「......これは......」
全はそう呟くと鑑定をかけながら、武仁とズチと共にその大樹に近づいて行く。
【雷神の大樹】
鑑定の結果にさほど驚く事はなく、一目見た時から何となくそんな予感はしていた3人。
人知れず、この世界が創生されてからずっとここにあったのか......。
「ズチ、何か知っているかい?」
全が問いかける。
「いや......我も雷神の大樹の存在をはじめて知った......まさかこの様な人気のない場所に、それにお姿も痛ましい......」
ズチはなかなか言葉にならない様子だ。
全は続けてリンを顕現させると、メロディに乗ってリンが姿を現した。
「リン、雷神の大樹を見つけたんだ。しかし......生気を感じない......これが見つけられなかった原因なのかな」
『......私も......神々でさえ、その存在を知る事は出来ませんでした〜。これは......創生時の事象が影響しているのかもしれません〜......』
リンは、はじめて見るその痛ましい雷神の大樹の姿に、やはり創生に起きた何かが要因ではないか、と話すとズチに目をやる。
『全様、ズチが魔物化しております〜。不思議ですね〜』
笑いながらそう言うと、武仁がリンにも「リンも召喚してやろうか? 魔物になっちまうが」と聞いた。
リンは首を大きく横に振りながら断ったが、ある提案をする。
『神の使いの立場が1人もいなくなると、少し不便かもしれません〜。ズチは記憶を一部失ったと......確かに話す事は叶いませんが、それを知る存在である私は、いつかどこかでまだお役に立つかもしれません〜。召喚するのであれば、まだ見ぬ他の神の使いがよろしいかと〜♪』
それを聞いて全も納得した様だ、武仁に「厄災に備えて各領地に転移者を配置して置くのも、悪くないかも知れないね」と言うと、武仁も「悪くねぇな」と答えると、思い出したかの様にリンが話しはじめた。
『.......そう言えば、神々はお2人の行動に、とても興味を抱いていらっしゃるようです〜。もしかすると、更なるボーナスを授かるかもしれませんよ〜』
そう言うと、ズチにヒラヒラと手を振り、全と武仁にお辞儀をすると、リンはスゥっと姿を消した。
「よし! とりあえず渓谷はここで終わりの様だ! 今はなす術もないし......雷神の大樹が存在した事がわかり、大収穫だね。戻ろうか!」
武仁とズチが頷くと、3人はその場を後にし、ラドンとレディオーガの元へ戻った。
「しかし......依頼主はなぜ秘境だなんて......どう言う事だったのかな......大体さっきラドンの言った通り、この魔素濃度でここまで来られる?」
全はギルドへの報告を前に、改めて今回のクエストについて考えている様だ。
するとラドンが口を開く。
「魔素に当てられた人は幻覚を見る事もある。秘境と言うのはわからぬが、可能性としてはそれが1番考えられるが......そう言えば......」
ラドンが途中で口籠ったため「そう言えば?」と全は聞き返したが「いや、なんでもない」と答えた。
「んじゃあ、魔素にやられて幻覚を見たんだろう、奥地まで言ったが秘境はなかった、っつー事だな!」
武仁がそう言うと全も納得し、ズチとも会話をしている様だが、ラドンは1人言い掛けた続きを思い返していた。
はるか昔、渓谷に置いて行かれた人がいた事、魔素に当てられ幻覚を見ていたその人を、人里近くまで運んだ事。
ただの気まぐれだったが......義理深い人もいるのだな、とラドンは瑣末な思い出まで話す事はないと、これを自身の胸におさめたのだった。
「さぁ! フォルダンに戻ろうか! 折角なら......乗せて?」
全は目を輝かせながらラドンに頼むと、ラドンは嫌々ながらに全員を背に乗せた。
「振り落とされるな、人よ!」
黒く大きな両翼を開くと、空へ向かって羽ばたいた。
全と武仁は顔を見合わせながら微笑むと、まるで絶叫マシンに乗った時の様に声を高らかに上げて、はじめて空を飛ぶ感覚に興奮するのだった。
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