第46話 クエスト報告


 ラドンの背に乗り、水上の街フォルダンに戻ってきた一行は、街の入り口で頭を抱えていた。


 「レディオーガは大丈夫そうだけど、ラドンは......そのままの姿で街に入るのは厳しいね......」


 全はラドンの大きな体を見上げながら言う。


 「しかし......レディオーガ殿も角がありますからな......冒険者が見れば、魔物だと言う事はわかってしまいますぞ」


 ズチも危惧している様だが、武仁の考えは違った。


 「いや、いい。魔物と協力して行くんだぜ? そのままで行く。ただ......全が言うみてぇに、ラドンはデカすぎて街に入れねぇな......」


 それを聞いてズチは「また我は......! 流石は武仁殿......!」と言いながら1人騒いでいる。


 「あはは......ズチは置いておいて......うん、武仁の言う通りだね。だとすれば......ラドン、ちょっと魔法で小さくしても良いかな?」


 全ははじめからそう提案しようとしていた様だ。


 「構わぬが、その様な魔法があるのか?」


 ラドンはそれなりに楽しみの様だが、全の提案にいまいちピンと来ていない。

 反してレディオーガは、そのやり取りの合間も相変わらず難しい顔をしている。


 「妾も行かねばならぬのか? 人の群れに混ざるなど......」


 俯きながら言うレディオーガに、武仁が近づくと顔を覗き込みまじまじと見つめながら話しかける。


 「嫌なのはわかる、けどよ、お前の力は必要だ。信じろ......っつーのは無理があるかもしれねぇが、悪ぃ様にはしねぇ。俺に着いてきてくれねぇか?」


 レディオーガは武仁の言葉に、フン、と鼻で笑いながら「拒否権はあるのか?」と憎まれ口を叩いたものの、「行くなら早くしろ!」と街の入り口に向かいながら急かした。


 少し面食らった武仁だが「おう!」と返事をすると、レディオーガを追いかけ、その後ろをズチが追う。


 全は魔法創造スキルを使用し、変化(チェンジ)を生み出すとラドンに使う。

 ラドンは見た目はそのままに、みるみる小さくなっていく。


 「......これは......どう言う原理だ?」


 人の頭ほどの大きさにまで小さくなったラドンは、不思議そうにしている。


 「僕の思い描く形に変化するように魔法を作って、それをラドンに掛けたんだよ。解除しない限りそのままだけど、街の中では困らないかなって! 不便だったらもう少し大きくする? それとも人型が良かったかな?」


 「魔法を作るとは......長いこと生きているが、其方らは実に愉快だな......いや、このままで良い! 身軽だな!」


 ラドンは満足気に宙を飛び回ると「良かった。じゃあ行こうか!」と言う全に着いていきフォルダンの門を潜ると、冒険者ギルドまで真っ直ぐ足を運ぶ。


 ギルドまでの道で街人の視線を感じながらも、構うことなく堂々と歩いた。

 レディオーガは特に関心もなさそうだが、初めての人里とありラドンはキョロキョロと目配せに忙しない様子だ。


 一行は無事に冒険者ギルドに到着すると、ギルド内にいる冒険者達はレディオーガとラドンの姿を見て騒ついた。

 その声に気が付いたのか、同じくギルドに居合わせたアルテミスとルナが駆け寄ってくる。


 「お疲れ様です!」


 そう言うアルテミスに、「クエストの報告をするけど、同席するかい?」と全が尋ねると、「はい!」と返事をするアルテミス。

 ルナは他の冒険者の驚き騒つく声とは少し違うが、ラドンやレディオーガが街中にいる事に気が気でない様子だ。


 ギルドの窓口で受付のムムに、竜の渓谷にあるとされていた秘境について、クエストの報告をする。


 「全さん、武仁さん、おかえりなさい。そしてお疲れ様です! ......そちらは......?」


 ムムの言葉に反応したのか、ギルドマスターのサードも仕事の手を止め、ムムの横から窓口に顔を出す。

 ムムはレディオーガとラドン、そしてズチに対して恐る恐る聞いてきた。

 ギルドマスターも意外な訪問者に驚いている様に見える。


 「こんにちは、まずはクエストの報告を。僕たちは竜の渓谷を隈なく探しましたが、秘境と言われる場所はありませんでした。ただ、渓谷内は進むに連れて魔素濃度が高くなっており、依頼主は魔素に当てられて、幻覚を見た可能性があります。それから、奥地でこの古竜に遭遇し、武仁のスキルで使役しました。レディオーガも同じく。更に、渓谷の最奥にある場所には、未発見とされていた雷神の大樹を確認しました」


 全がクエストの報告と合わせて、信憑性を高めるために古竜との遭遇、そして雷神の大樹の発見についても話す。

 また、レディオーガとラドンについて、使役と言うワードを使えば、人を襲う事はない、と認識させようと考えたのだ。


 報告を受けて、サードが口を開く。


 「クエストについては、なるほど......依頼者亡き今、これ以上は探求も難しいでしょう。理屈としても納得の行くものです。それに......古竜とは......長年に渡り張り出されていたクエストですが、クリアとしましょう。お疲れ様でした。......しかし信じ難い......聖人の器とは言え、本当に規格外が過ぎて驚かされます......使役とは......それにレディオーガや古竜と言えば3強の魔物......伝記や図鑑でしかその存在を知る者はいませんよ......その上、雷神様の大樹とは......」


 サードがそう話すと、武仁が割って入る。


 「おう、だからよ、3強の魔物に頼んでよ、人と協力関係になろうって話なんだわ! 魔物のトップが言えば、それよか下の魔物は聞く耳持つだろ? 厄災前に話詰めてぇからよ、国王に話通しに行ってくる」


 「......凄い話ですね......わかりました。そう言う事でしたら早い方が良いでしょう。雷神様の大樹を発見された件も陛下に報告された方が良いかと......」


 サードは驚嘆しながらも淡々と答え、事務処理を済ませるとクエスト報酬の白金貨1枚を差し出した。


 「サードさん、ムムさん、ありがとうございます。では急ぎ王都へ向かいます!」


 全はそう言いながら頭を下げると、アルテミスとルナの方を向き声を掛けた。


 「と、言う訳で王都へ行ってくるね。バタバタとしてすまないが、まだお兄さんの件は連絡がないし、今後連絡があればアルテミスやルナにもすぐ伝達できた方が便利だと思うんだ。良ければ念話を使ってもいいかな?」


 それを聞いてアルテミスは「是非お願いします!」と答えたが、ルナは首を横に振った。


 「私は遠慮するわ。しばらくアルテミスと2人で行動しようと話をしていたの。アルテミスに連絡してくれれば私も把握できるでしょう」


 全は「わかったよ」と言うと、アルテミスに念話スキルを使った。


 アルテミスとルナに再び別れを告げると、全は転移(ワープ)を唱え、一行は王都ボルディアの謁見の間へ移動したのだった。

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