第33話 縁


アルテミスと名乗る女に声を掛けられた武仁は厄災の種を浄化した場面を見られており2人が聖人の器であることを知ったとしてもなぜ昨晩スキルを使用してまで自分たちをつけていたのか疑問を抱いた。


「お前俺たちをつけてたろ? なんか目的でもあんのか?」


武仁がアルテミスに問うと彼女は答えた。


「私はソロで冒険者をしています。ランクはAランクです......。私と同じくAランクでソロ活動をしている冒険者仲間が昨日クエストから帰ってきたのですが......クエストは商品の輸送で行先はカルカーンでした。私はギルドで顔を合わせた際にいつものようにクエストはどうだったかって聞いたんです。すると彼女はクエストの話はそっちのけで、たった数日でAランクにスピード昇格した規格外のルーキー2人組がいるらしいと興奮しながら私に話してくれました。私はそんな人がいる訳ないよ! と笑いながら否定しましたが、その日街を歩いていたら厄災の種を浄化する2人組を目の当たりにしたんです! そこで思い出したんです......王都から各領地へ緊急の伝令があった、その内容を。それは聖人の器が召喚されたこと、彼らは男性2人組で各地に発生している厄災の芽の討伐に尽力をしているため遭遇した際には全力でサポートをすること、それから最後に彼らはAランクの冒険者であること......」


アルテミスは周知された情報から2人が規格外のルーキーであり聖人の器であることを予測するとそれを確信に変えるべくスキルを使用し尾行、観察しようとしたのだった。

しかし解せない武仁は「だったら何だ?」と短く言い放つとアルテミスは真剣な顔で武仁に迫る。


「弟子にしてください!!」


武仁は予想しない言葉に一瞬呆けると「......はあ!?」と思わず漏らしたが「私、Aランク帯でもう3年......はっきり言って頭打ちなんです! 私のスキルは隠れ蓑と言ってもうお気づきだと思いますが姿を認識させないように隠せるスキルです。隠密活動、つまり情報収集などのクエストを主に行ってきました。しかし、スキルの性質上魔物の討伐には不向きで、闇討ちのように奇襲で乗り越えてきましたが......Sランクを考えると明らかにレベル不足なんです......!」と切実な思いを吐露されると一転少し考えた後に武仁は語りかけた。


「......お前さあ、なんでSランクになりてえんだ? Aランクでも報酬は十分だろ? 実力としても冒険者界隈では申し分ねえんじゃねえのか? それにソロじゃなくてパーティを組めば済む話なんじゃねえの?」


成長に限界を感じている思いは分かったがそもそもなぜソロで活動しているのか、そしてなぜそれ以上を望むのか、武仁は本能的に相手の言動の核となる部分が気になるのだろう。

それを聞かれるとアルテミスは「それは......」と口ごもる。


そうこうとやりとりをしていると武仁の背後から「相談してみたらいいんじゃない?」と声がし、振り返ると見知らぬ女がそこに立っていた。

栗色の柔らかな髪からのぞく猫耳と背後で揺れる尻尾、どうやら獣人族のようだ。


「ごめんなさい、立ち聞きするつもりはなかったのだけど......ギルドの入り口で話をしていたものだから否が応でも耳に入ってしまって。それにあなた、大きいから避けて入ることができなかったわ」


どうやら女はアルテミスと顔見知りのようで、遠回しに武仁に邪魔だと、アルテミスにはこんな場所で話し込むなと言っているのだろう。


「私はフォルダンに拠点を置くソロのAランク冒険者、ルナよ。場所を変えない? 近くに紅茶の美味しい個室のお店があるのよ。ご馳走するからもう少しだけ彼女の話を聞いてもらえないかしら、規格外のルーキー」


ルナと名乗る彼女がアルテミスの言っていた冒険者仲間なのだろう、武仁は全も昼まで寝ると言っていたし少しならいいか、とそれを承諾すると3人は場所を移した。


「すみません、武仁さん......。聖人の器に協力しなければならない立場なのに私情を持ち掛けてしまって......」とアルテミスは表情を曇らせながら謝るとルナに促され弟子にしてほしいと言った核心を語り始めた。


「私には双子の兄がいます......。兄は15歳の年に、危険が伴うからと反対していた私と母を押し切り冒険者になりました。私の母は持病を患っており、その母の薬代を稼ぎ亡き父に代わり家計を支えるんだと......頼りになるとても優しい兄でした。しかし兄が冒険者になり数年経過し実力としてもギルド内でも噂されはじめた頃、母の持病を治せるかもしれない、と言う男が兄に言い寄ってきました。はじめこそ兄も胡散臭いと嫌煙していましたが、次第にあの人は本物だ、すごい人だぞ、俺が力を貸せば問題は解決するんだ! などと言うようになり、日々家事と母の看病をしていた私はそんな兄を突っぱねてしまったんです......。それから兄は家に戻らなくなり、しばらくは頭を冷やせばいいんだと放っておいたんです。しかし兄は数か月経っても戻りませんでした。私は兄の稼いだお金で母の看病を依頼すると冒険者になり、このスキルを活かし情報収集をはじめました。冒険者になり2年経つ頃ようやく、どうやら兄はとある宗教に加入したようだと言う情報をつかみました。その名は聖ライガ協会......しかしそこの信者は信仰が厚くその上ほとんどが兄のような冒険者の中でも腕の立つような人物で構成されていたんです。私は兄を目覚めさせて連れ戻したい......しかし、私では実力不足。パーティを組んで万が一仲間を危険に晒すようなことになってもいけないと、それから更に4年真剣にやってきましたが......」


話を聞く最中、武仁はアルテミスが最後まで話終える前に目に涙をためながら「もう言うな」と遮った。

武仁は兄弟愛が強く優しい男である、それに巡り合わせかのようにアルテミスの口から出た聖ライガ協会と言う名、武仁の答えは既に決まっている。


「事情はわかった! 頑張ったな......わかった、俺に任せろ。聖ライガ協会ってのには俺らもちょっと縁があんだ。早速動きてえ、と言いたいところだが......まずは俺の相棒にも話しておかねえとな!」


武仁はそう言うと2人を宿屋まで連れて行った。

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