第19話 目当ての物を求めて


話もひと段落したところでクリスティナは「頃合いとしても今日明日には王都より返事も届くだろう。カルカーンで待機しておいてくれ」と2人に告げた。


「ワンド、ケイン。2人のことは国王への謁見まで他言無用。......まぁここ数日での活躍で嫌でも他の冒険者の目に留まる事は安易に想定できる。そこはワンド、ギルドマスターである君の手腕で取り纏めてくれ」


ワンドは「任せてくれ」と返すと続けて「私はギルドに戻るが2人はどうする?」と全と武仁に問いかける。

2人は討伐証明の買取査定も途中だった事を思い出し「ギルドに寄ったら今日はカルカーンをゆっくり見て回るよ」と全が返した。

クリスティナとケインと別れワンドとともにギルドへ戻ると「私もギルドマスターとしてやるべき事をやらないとな!」と言うや受付のマムに何やら耳打ちしたあとギルドの2階へ上がっていった。


「全さん、武仁さん、おかえりなさい。買取が完了しています。こちらがバイオレットベアの毛皮32枚、そしてこちらがブルータルベアの毛皮11枚の買取金額となります。それからお2人はCランククエストを3回成功させた上にBランクの魔物はホークアイを含めると12体を討伐されており、領主クリスティナ様の鑑定によりAランク相当の実力も認められました。通常はCランクへの昇格となりますが、特例によりAランクへの昇格となります! 異例中の異例のスピード出世ですよ! おめでとうございます!」


ギルド内が騒ついているのを感じつつ、ワンドの耳打ちはこれだな......、と2人はため息を吐きながらも差し出された白金貨4枚と金貨26枚を受け取り2人で折半する。

マムが何やら水晶のように透き通る材質の石板をカウンターに出すと「こちらに冒険者証を置いて下さい」と言った。

2人は言われた通りそこへ冒険者証を置くとたちまち木で出来た冒険者証は金色に変わりDとあったランクがAと変わる。

全は「凄い......どう言う原理?」と呟くと、その声を拾ったマムが答えた。


「鍛冶屋さんなどが持つ錬成系スキルと秘書や私たち事務方が持つ記憶系スキルを複合しています。この石板は魔素を含む材質ですから、スキルをかけておけば石板が破損しない限り永久に動作します。人の目とスキルで二重チェック! 事務の基本です」


そう誇らしげに言いながらマムは微笑んだ。

全はその話を聞いて複合魔法と言うやつか、と思うと同時にデスクワークを思い出し嫌と言うほどやっていたのになぜだか少し元の世界が恋しくなった。


「面白い話でもう少し聞きたいが、騒ついているし今日はもう帰るよ」と全はマムに伝えギルドを出るとマムは「あっ!」と言い2人を追いかけたが既に辺りには見当たらなかった。


ギルドを出てカルカーン内をゆっくり見て回る2人はマグマ山へ出発する前に寄った道具屋の他にも鍛冶屋や仕立て屋が看板を連ねる商店街の方へ足を運ぶ。

商店街には露天商も数人おり、様々なアイテムやアクセサリーを売り買いしてる人で賑わっている。

マグマ山へ行く前は野営を見越して最低限テントの類を買うためだけに尋ねたがだいぶんお金も貯まり色々な店で各々興味の向く物を品定めするが、どうやら趣向は正反対のようで「別行動をしよう」と全が提案すると武仁は「じゃあ買い物終わったら宿屋集合な!」と一目散に鍛冶屋へ向かった。


そんな武仁の背中を見送ると全は鑑定を使いながら露天に並べられている商品を丁寧に一つずつ見ていく。

錬成のできるようになった全はポーション類の価値がどの程度で流通量がどのくらいなのかなどを把握したいようだ。

一通り見て複数の露店で手持ちにない素材を数種類購入し最後の露店で「あ!」と声をあげた。

そこで露天を開いていたのはマグマ山への道中、盗賊に襲われていたあの親子だった。


深々と頭を下げられ「命の恩人です、心ばかりのお礼ですがどうかお好きな商品がありましたらお持ちください」と言われ厚意を有り難く受け取ろうと並べられた商品に目をやると、その商人は他の露店と毛色が違い食材や調味料を取り扱っていた。

小麦や胡椒などが並ぶ隅に思いがけない物を見つけ全は商人に尋ねる。


「こんな事を聞くのはルール違反かもしれませんが......この商品はどこで仕入れたのですか......?」


そう全が話すと「命の恩人です......特別にお教えしましょう」と小声で教えてくれた。


「私は小さな里の出身なのですが、その里で育てている作物です。この国では珍しいと言いますか......言い方を変えれば売れないような珍品なのですが。どうにかどこかで売れないかと行商の傍ら露店に並べているのです。」


それを聞いた全はもちろん里の名前を聞いたが「それは里の規則で教えられないのです」と返された。

少し違和感を抱きながらも、迷わず目の前にあるその商品を厚意として受け取った、そう、稲である。


考えてみれば不思議ではない。

これまでもこの世界へ召喚された聖人の器がいるのだから、稲を発見さえ出来れば育てる事もできただろう。

ただ、数千か、はたまた数百年と言う時を経て稲をどのように食すのかが伝わらなかったと言う事だろう。


これは武仁に良いお土産ができたぞ、と思いながらも世間話の延長で「あの後ギルドへ盗賊の引き渡しはできましたか」と尋ねると、「引き渡して詳細をお話したのですが、お名前を伺っていなかったのでギルドの方も困惑しておりました」と言われ、転移(ワープ)が使える冒険者はカルカーンに他にもいるのかと考えながら帰りにギルドへ寄る事にした。


行商人の親子にお礼を伝えると去り際行商人の子どもに「お兄ちゃんありがとう!」と笑顔で言われ、この笑顔を守れて良かったなぁ、としみじみ思う全であった。


それから野営に便利そうなアイテムはないかと道具屋へ入った。

道具屋は便利なアイテムから怪しげな物まで様々な商品を取り扱っているが一通り見た上で、魔法で大体解決するんだよなぁ、と何も買わずに店を出ると「ギルドにもまた寄らないいけないしなぁ......」と1人ぽつりと呟くと商店街を後にした。


一方武仁は鍛冶屋を訪れはじめこそ興奮し、鍛冶屋の職人技を見学したり並べられた武具を眺めて幼い少年のように目を輝かせたが、でも俺の剣は剣(バット)だしなぁ......、と考えると「違うな!」と声を上げて店を出ると向かいの仕立て屋に入る。

仕立て屋にはこの世界の洋服がズラリと並ぶ。

武仁は思わず「おぉ......」と声を漏らしたが女性店員達がその声に気がつくと武仁を取り囲み「いらっしゃいませ」「本日はどの様なお洋服をお求めですか」「お客様は冒険者様でしょうか?胸板が厚く逞しいですね」と次々に声を掛けてきた。

武仁は女性にあまり免疫がないのだろう、身動き出来ず耳を真っ赤にしながらされるがまま採寸され「ありがとうございました」と店を見送られる頃にはすっかり洋服を全取っ替えされていた。


「......なんか......弄ばれた気分だ......女って......怖ぇ......」


そう呟くと肩を落としながら宿屋への道をふらふらと帰っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る