第11話 深淵


 妙な教会に保護された3人は、教会員達の異様な信仰ぶりに、唖然とし立ち尽くす事しか出来ずにいたが、教祖のオダーが仕切り直すと謎の集会はお開きとなり、そこからも丁重に扱われた。


 「お腹が空いておられるでしょう」とオダーが言うと、教会員はすぐに豪華な食事を用意する。

 「お着物が汚れておられますからお着替えをご用意致します」とオダーが言うと、絹の様な替えの服を手にしたシスターが1人ずつに支え湯浴みを手伝う。


 湯浴みを終えた3人は、ベッドが3台並ぶ豪華なプライベートルームへ戻る。


 「本日は召喚されたばかりで、様々な疑問をお抱えの事とお察し致しますが、混乱の渦中かと存じます。この世界についてや聖人の器と言う存在についてなど、明日改めてお話させて頂きます。まずはゆっくりとお休み下さい」


 そうオダーは言うと部屋を後にした。


 3人きりになったところで聖人、虎次郎、龍己は話し始める。


 「すげぇ崇められてさ、すげぇ至れり尽くせりなんだけど......ヤバい宗教って感じじゃね?」


 「......うん。僕たちどうなっちゃうのかなあ......。でも聖ちゃんと一緒で良かったよぉ!」


 「......異世界転移」


 3人はいまいち会話が噛み合っていないが、龍己が「三人寄れば文殊の知恵......」と呟くと、これまたいまいち理解はしていない様子だが、聖人は「俺たち3人いればなんとでもなるよな」と声高らかに言い、虎次郎は「聖ちゃん最強だもんね」と囃し立てた。


 いつしか眠りに落ちた3人。


 よほど疲れたのか、成長期の彼等だからなのか、ぐっすりと眠り、気が付けば窓を覆うカーテンからは太陽の光が漏れる。

 その光は聖人の顔を照らすと、眩しさを感じた聖人は目を覚ました。

 一足先に目覚めた聖人は、まだスヤスヤと眠る虎次郎と龍己を起こすため、部屋のカーテンを一気に開けた。


 「おらあ! 起きろ起きろ! 朝だぞー!」


 すると「眩しいよ聖ちゃん」と言う虎次郎と、無言で薄目を開ける龍己を見て聖人はゲラゲラと笑った。


 部屋に備わった洗面台で顔を洗ってから談笑していると、ノック音に続き部屋の外からオダーの声が聞こえる。

 オダーは、朝食の準備ができたと伝えに来たようで「朝食を済ませた後に、この世界についてお話をしましょう」と言った。


 3人は昨晩のうちに用意されていた服に着替え部屋を出る。


 部屋の前には昨日と同じくシスターが待機しており、案内されるがままに通された食堂で朝食を摂ると、頃合いを見計ってシスターは「オダー様の元へお連れ致します」と言い、3人は再び案内されるがままについて行く。

 館内は広いお屋敷のような造りで、案内がなければ迷子になりそうである。


 案内に従い進む3人、連れられ入ったのは会議室の様な部屋だった。


 「昨晩はよく眠れましたか? 朝食はお口に合いましたでしょうか? お召し物もよくお似合いでございます」


 オダーがうすら笑みを浮かべながら言った。


 「あぁ。それはいいんだけどさぁ、説明してくれない? 召喚されたのはわかったけど俺たちどうされんの? で、帰れんの?」


 聖人はドカっと椅子に腰を下ろすと本題を急かした。


 「流石聖人様、失礼致しました。では早速お話させて頂きます。ここはこの世界の中心都市、王都ボルディアから東北に位置する聖ライガ教会です。皆様は1000年に1度起こるとされる厄災を退けるために、異界より召喚されました。厄災とは、魔物が溢れ返る深淵アビスが、各地に突如として現れる現象の事を指しております。この世界では、召喚された人々の事を聖人の器と呼んでおり、昨日の鑑定により、御三方には雷神様の加護が付与されているのを確認致しました。雷属性のあらゆる魔法が使用でき、更に初期ステータスたるや、この世界の常人の100倍となっておりました。その救世主とも言える聖人の器の御三方の力を持ってして、この世界をお救い頂きたいのです。その為に我々聖ライガ教会は存在し、お支えできる事を光栄に想い、この身を捧げる覚悟で御座います」


 「大体わかった。んで、その厄災とやらを鎮めなきゃ俺らは帰れんねぇのかよ? 帰れんなら今すぐ帰りてぇんだけど」


 「心中お察し申し上げます。しかしながら仰る通り、厄災を鎮める事により元の世界に繋がる扉(ゲート)が開かれるとされております」


 「だったら早いとこ厄災終わらせて帰ろうぜ!」


 聖人は振り返り後ろに立っていた虎次郎と龍己に言うと、2人は真剣な顔で深く頷き、オダーは話を続けた。


 「厄災の起こる日までまだ少し時間が御座います。まずは厄災の予兆とされている、厄災の芽と呼ばれる苗木を探し、その苗木の本体である種を破壊して頂きたいのです。深淵(アビス)は厄災の芽を破壊する事で、段階的に封印を施す事が可能とされております。御三方には厄災の起こる日までに7つ現れると言う厄災の芽を、1つでも多く破壊して頂きたいのです。この世界に慣れず不自由も多いとは思いますが、出来うる限り如何なるお申し付けにも応じる所存で御座います。どうか、我々にしばらくのお時間と、お力添えをお願い致します」


 そう言うとオダーは深々と頭を下げた。


 「......わかったよ、頭上げろ。虎と龍もいるんだし、ちょっとこの世界でチート無双かまして、凱旋帰還ってのも悪くねぇ! それにここは異世界なんだろ? 日本の法律も関係ねぇんだし......女とうまい飯に酒だ! オダーって言ったか? ちゃっちゃと厄災とやらは俺らが終わらせるからよぉ、それぐらいは良いだろ?」


 「せ、せ、聖ちゃん......! なんかダークヒーローっぽいよぉ......! そんな聖ちゃんもカッコいい......」


 「......」


 オダーは「お安い御用です。直ぐに手配致します」と言うと、一通りの話も終わり3人はプライベートルームへ戻った。

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