第4話 はじめての魔法


 全の呼びかけに応じ、ファンファーレのメロディとともに顕現したリンは、長く白い髪に透き通るように白い肌で、浮遊する羽衣に包まれた正に天女のような姿である。


 『お呼びでしょうか〜、全様〜♪』


 「今ズチからこの世界について......僕らが落ちた理由もなんとなく聞いたんだが......。リンやズチも元はこの世界とは別の世界から召喚されたのかい? 聖人の器として......」


 『はい〜、おっしゃる通りです〜』


 全の問いかけに対しリズミカルに返答するリンに、全は続けた。


 「勝手に召喚され、元の世界に戻れず、死してなお神の使いとされる......。君たちに憤りはないのかい!?」


 少し困ったような表情でリンが返す。


 『確かにはじめは受け入れる事にも時間が必要でした〜。しかしこの世界で過ごしこの世界で様々な人と出会い、そして創生の記憶を見た時、この運命も悪くないと感じたのです〜』


 「創生の記憶......?」


 『はい〜。創生の記憶については神の使いは口外ができないため、厄災の前兆が現れるまでに、まずはこの世界を見て回るのが良いかと〜。探されている答えに近づけるかもしれません〜♪』


 リンが話終えるや否や、黙って聞いていた武仁が勢いよく立ち上がった。


 「俺は頭が悪いからよお、難しい話はよくわからねえ! 巻き込まれたんならとことんやってやるよ! んでサッサと帰る方法まで辿り着けば良いじゃねえか!」


 まだ謎は多いが今は進む他道はなさそうだな、と全も深掘りしたい気持ちを飲み込み立ち上がった。


 「そうだな! 楽観視はできないが、武仁の意見も一理ある! このままここに居ても進まないな! まずは......やはりここから見えるあの建物に行ってみるか、この世界の情報が必要だ」


 腹を括った2人に案内役のズチとリンは、あの建物のある場所は城下町カルカーンだ、と教えた。

 人も物流も多く盛んで、情報収集やこの世界を知るには打ってつけだと言うことだ。

 全と武仁は休憩で広げた荷物をしまうと、まずは街道に出て街道沿いに城下町カルカーンへ向かう事にした。


 「なんか冒険って感じだなあ! 納得はしていないが! 憧れの異世界転移! 一度は経験してみたいと思う男のロマン! ステータスオープン!」


 全はライトノベルや異世界ものの漫画が大好きなためか、割り切って楽しみ始めた様子だ。


 「おっさん、さっきまでは不安ですお家帰りたい、って顔に書いてたくせに良く言うぜ!」


 武仁が突っ込むと全は、ステータスウィンドウをながめながら、おっさんじゃない、と主張するのであった。


 ほどなくして、城下町カルカーンに到着しようかと言うところまで来て、武仁が急に顔を顰め後方を向いた。


 「......なんかいるぞ!」


 武仁の第六感スキルが働いたのだろう、目視ではよくわからないがどうやら魔物の気配がするようだ。


 「おいおい......まじかよ......」


 武仁の第六感スキルを魔物も感知したのか、物凄い勢いでこちらに向かってくる何かに驚嘆するのも束の間、立ち塞がったのは巨大な鳥のような魔物だった。


 途端、全が叫ぶ。


 「......! ふふふ火球ファイアボール!!」


 全は眺めていたステータスウィンドウから、ちょうど目についた火属性初級魔法の火球ファイアボールを唱えると、同時に右手を魔物の方へ突き出した。


 魔物は瞬時に炎に焼かれ、断末魔をあげる間も無く灰となった。


 「......いやいや、初級の火力かな、これ」


 全は咄嗟に魔法を使用したが、見るからに強そうな魔物を、一瞬で灰にした力に驚愕した様子で少し固まっていたが、武仁はそれを見て声を上げて笑った。


 「はっはっはっ! これが異世界か! 面白くなってきたじゃねーか! 次は俺がやるからおっさんは手ぇ出すなよ!」


 そう言うと城下町カルカーンの方を向き歩き出した。


 「だ、だから! おっさんじゃなくて、全だ!」


 と言い武仁を追おうと振り返ろうとした横目に、先程焼き尽くした魔物の灰の中に、キラリとひかるガラス玉のようなものが目に止まった。


 「......なんだ、これ」


 とりあえず拾っておこうと、それを拾い上げるとズンズンと先を進む武仁を慌てて追いかける全であった。


 そして城下町カルカーンの門戸へ到着した2人。

 冒険者から行商人までズラリと並ぶ、どうやら門兵が城下町へ入る際に身元確認やどのような用向きで城下町へ入るのか、などをチェックしている様子だ。


 「おい、俺ら身分証なんか持ってねえぞ......」


 そう言う武仁に、全はニヤリと口角をあげたと思ったら門兵に向かってこう言い放った。


 「さっきそこの街道で巨大な鳥の魔物に襲われたんだ。身分証はその時に紛失してしまってね。だが僕は魔法が使える、運良く撃退する事が出来たよ。僕らがいなければあれは真っ直ぐ城下町に突っ込んでいただろうなあ......」


 全が言うや否や門兵は疑うような素振りで返す。


 「そんな嘘八百でこの城門を越えられるほど緩くないぞ。まあ、討伐証明でもあれば別だがなあ。ほら、帰った帰った! 後がつかえているんだ!」


 そう言う門兵は全く信用していない様子だが、全は先程魔物の中で拾ったガラス玉のようなものを差し出して見せた。


 「鳥の魔物を仕留めた際にこれが落ちていたんだが、討伐証明になるかい?」


 門兵は驚いたようで、ちょっと待っていろ、と言い残して城下町から門兵とは明らかに風貌も出立ちも違う青年を連れてきた。


 「......ん、これは間違いなくホークアイの討伐証明だな。しかし、にわかには信じられん。が......彼の話が本当なら、放置していればこの城下町にも被害が出ていたのは確実。なんせホークアイはBランクの魔物。普段この辺りにはEランクの魔物しか出現しないはずなんだが......。素性はともかく、救われたのは事実......か。......よし、私が後見人となる。2人を通してやってくれ」


 そう言うと門兵は二つ返事で通行許可の手続きを進めた。


 トラブルはあったが、晴れて城下町カルカーンに入る事が出来た2人、後見人を申し出てくれた青年は事の詳細を聴取し報告するべく、2人を冒険者ギルドと言う場所へ案内した。

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