黄金の天馬
第1話 遥か遠くの異星人
<設定期間経過の為、時空停滞空間、解除します>
警告音と無機質な音声が真っ暗な空間に響く。
続いて人が横たわれる程の大きさの透明なカプセルが淡く光りだし、フチから白い煙が勢いよく広がった後、カプセルの半面が浮き上がった。
そこから間もなく――中にいた者が、ゆっくりと起き上がる。
(生き延びた……?)
全身に密着するサイバースーツ。肩の長さまである緩やかな金髪を後ろに縛り、黄金の眼――中性的な顔立ち。スラリとした手足。
そこだけ言えば人と変わりないが、手の平ほどの長さがある細長い耳の片方はスッポリと金色のパーツに覆われており、緩やかな髪の後頭部には2本の太いコードが腰の辺りまでさがっている。
そして黄金の眼と中央にある黒い瞳孔は角張り、筋肉の凹凸もなければ胸の膨らみもくびれもない体。
一見人と思わせながらよく見れば見るほど人と異なる形状を持つ者の名は、イデアル。
とある事情で故郷の星から逃げる事となった、言わば宇宙難民である。
(……どの位の時が過ぎた? 船は……皆は無事なのか?)
彼女はカプセルから降り立つやいなや、真っ先に周囲を確認する。
しかしカプセルが放つ淡い光だけでは部屋の細部まで確認できない。
イデアルの片方の耳を収める金色のパーツに触れると、淡く黄色がかった半透明のスクリーンが目の前に出現した。
そして後頭部から伸びたコードの先端に接続された球状の黄色のレンズが浮き上がり、周囲を眩く照らし出す。
狭く簡素な室内はイデアルが乗っている船の非常用操作盤と彼女が乗っていたカプセル以外になく、全く荒れた形跡は無い。
手を動かす事すら不要の、思念で操作できる髪に隠されたコードは非常用操作盤の穴にレンズを1つはめ込む。
途端、スクリーンの画面が目まぐるしく移り変わり――最後にスクリーンに浮かび上がったのはイデアルが乗っている宇宙船の全体図。
表示されている全体図の殆どが機能停止・確認不可の赤色で示されていた。
イデアルは思考でスクリーンを操作しながらスライド式のドアを開き、別室へと早足で移動する。
やや傾いた通路を早足で移動し、真っ先に入った船の一番大きな部屋にはイデアルが眠っていた物と同じカプセルがいくつも並んでいた。
だが――そのカプセルの中にあるのは干からびて見る影もない同胞達。
「ああ……!」
同じ研究所に居た、親、同僚――一見どれが誰かも分からない程朽ち果てた彼らの無惨な姿に彼女は人と同じように崩れ落ち、嘆いた。
しかし少し揺れただけでも形が崩れていくような遺体の危うさが、イデアルにカプセルに縋りつかせる事を許さなかった。
『強い悲哀を確認。エンドルフィンを促し、制御します』
イデアルの脳内に無機質な声が響くと、少しずつ悲しみの感情が引いていく。
(……早く扉を開けなければ、外に出る事すらできなくなる)
自分が目覚めた理由を考えれば、嘆き続ける時間もなかった。
冷静に物事を考えられる位にまで落ち着いた後、イデアルは周囲を見回す。
室内を荒らされた形跡はない。先程船の全体図を確認した際、この部屋の冷凍睡眠カプセルへのエネルギーの供給回路が完全に遮断されている事は確認できていた。
仲間達の無惨な死はエネルギーを絶たれた事が原因だ。
イデアルは別室の――冷凍睡眠とは違う、特殊なカプセルの中にいたからこそ生き延びられたのである。
イデアルは僅かな希望を求めて船内を一室一室確認しながら、遥か昔の事を昨日の事のように思い出す。
実質イデアルが冷凍睡眠する直前の記憶なので、事実とどれだけの時が流れていようと彼女にとっては本当に昨日に近い記憶である。
彼女の脳裏に浮かぶ、大きな羽を持つ数人の男女――彼らは何の前触れもなく突如空から舞い降りた。
彼らは自らを神の使い――<天使>と名乗った後、「この星は神の怒りに触れた」と罪もない民達を、都市を、数日とかからぬうちに滅していった。
イデアルがいた星の民は星間移動や冷凍睡眠など、現在の地球に比べずっと高度な文明を築いていたが、天使達の攻撃に成す術がなかった。
その為、宇宙船で別の星へと避難しようとする民が続出した。
しかし、我先にと個々の判断で打ち上げられた宇宙船は全てが確実に落とされていく――それを見た者達が自身の生存率を僅かにでも上げる為にタイミングを図り、一度に千を超える宇宙船が天使達の飛び交う空に放たれた。
イデアルがいる小型の宇宙船も、その千を超える宇宙船の中の1つである。
尋常じゃない力を持つ天使とて、一度に大小様々な多くの船を放たれればいくつかは取りこぼすだろう――という賭けに、イデアルは勝ったのである。
非常灯すら灯らない真っ暗な通路を照らしながらイデアルは力の無い目で宇宙船の窓を見る。
窓の向こうは岩らしきもので塞がれているが、イデアルの目には同胞達の宇宙船が天使達に攻撃され、いくつも爆発する幻が過ぎる。
(……天使とやらは、容赦も慈悲もなかった)
イデアルのいた星にも神という概念と宗教はあった。イデアル自身は信心深くなかったが、物語上の神も天使も慈悲深い存在だった記憶がある。
だが実際の天使は預言も警告もなく突然現れ、瞬く間に星を滅ぼしていった。
本当に彼らは天使だったのか――所長が言った通り、どこぞの研究所が作り出した
そして、最後の一室――非常時の食料等を収めた備蓄庫を確認する。
そこには大量の干からびた虫の死骸が残るだけで、イデアルの望む物は何一つ無かった。
元々イデアルが勤めていた研究所の緊急避難用の、定員8名の小型の宇宙船で、大きい船ではない。
その中で突きつけられた親と同僚達の死――感情を制御してもなお襲い来る悲しみにイデアルは表情を陰らせながら、これからどうすべきかを考える。
船にエネルギーは残されておらず、この船内に食料はない。分かっている事は天使達の襲撃から千年経過している事だけ。
ここが本当に目的としていた星なのか、周りはどうなっているのか、全く分からない。
(……今優先すべきは現状の把握と食料の確保)
イデアルは再び自分が眠っていた部屋に戻り、先程と同じように操作盤を操作した後、宇宙船の出入り口を開放する。
途端、ガタガタと激しい音が響き渡る。どうやら船は岩石の中に埋もれていたらしく、出入り口の方に向かうと大小様々な石が道を塞いでいた。
(これは……レーザーや遠距離操作ではキリが無いな)
外への道が完全に塞がれている事に微塵の恐怖も感じる事無く、イデアルは再び耳を覆う金色のパーツに手を触れる。
『
突如イデアルの目の前に出現した黄色の大剣のように見えるそれを彼女が掴んた瞬間、大剣は淡い黄色の光を全体から放つ。
イデアルはそのまま、大剣を先端を岩石の壁に突きつけた。
「
イデアルの呼びかけに応えるように、剣先から一筋の眩い黃色の光が放たれた。
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