第12話
拝啓、絵夢先生。
今まで僕を育ててくださり、有難うございました。先生のもとで絵をかけたこと、それは僕のこの上ない幸福でした。
そんな先生に伝えたいことがございます。本当は、誰にも知られず墓まで持っていこうと思っていたのですが、僕の苦悩が誰にも知られずに泡となるのは惜しい気がしたので、先生にだけ告白させて頂きます。僕の両親にも秘密にして頂きたいです。あくまでも、先生にだけ知ってほしいのです。
僕が絵画教室の体験講座に来たとき、あなたは僕を『世界を虜にできるような画家になれる』と評しました。その後も世間から『天才少年』とか『神童』とか、認められ、崇められたりしました。僕自身も、自分には非凡の才能があると胸を張って言うことができます。自信過剰かもしれませんが、僕は、選ばれた人間なんです。
しかし、僕はそれを使いこなすことができませんでした。宝の持ち腐れ、というのでしょうか。物凄い才能はあるのに、それを開花させる才能は持ち合わせていなかったのです。
そのため、ある一定の実力で僕は立ち止まりました。他よりもスタートの位置が違う故、しばらくはそれでも一番でした。僕は止まっていることに気づきませんでした。
そのうち、努力の凡人の足音が聞こえ、それでも立ち止まっていることに気が付かないまま、追い越されてしまいました。
やっと気づいた僕は、急いで走りました。まるで、なんかの童話の馬鹿な兎のように。
しばらく走って、転びました。うずくまっているうちに、どんどん追い越されていきます。足は出血が酷く、痛みで歩くことすらできません。
仕方ないので、ほふく前進で進んでいきました。もちろん、追いつくどころか、僕の横をすり抜ける人が増えるばかりです。
もう、僕は進むことができません。たくさんの人に追い抜かされて、今は独りぼっちです。独りで泣いています。
また背後から足音が聞こえてきます。
僕は、僕の名誉を守るため、リタイアしたいと思います。進むことを止めれば、もう抜かれる心配はありません。
あなたなら、まだ君なら走れると言うでしょう。
しかし、僕の身体は思った以上にボロボロです。
もう、無理なんです。
結局は、この世界が耐えられないだけなのです。
逃げ出したいんです。
惨めなのは分かっています。
今までありがとうございました。
あなたのご恩は、一生忘れません。
彩木絵翔
少年の絵 いぶき @ho-shi-yu-ki
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