第9話

今日は、ついにコンテストの結果が発表される。もちろん、狙うはグランプリ。もう一度、頂点に立つのだ。ずっと、この日を待っていた。

 今日の正午に、コンテストのホームページで結果が発表される。今は午前十時前。まだ二時間以上あるのに、僕は信じられないくらい緊張していた。絵を描こうにも、頭は結果のことしか考えられなくて、全く筆が動かない。寝ようにも目はギンギンに開いている。どこかへ出かけようかとも思ったけれど、また伶桜に会うかもしれないと即座に却下した。あの出来事は三か月たった今でも、トラウマとして僕の胸を縛りつけている。おかげで、絵画教室も前より行けなくなってしまった。絵夢先生には全て話していて、なるべく僕と伶桜が会わないように手配してくれた。それでも、まだ、怖い。

 とにかく落ち着かないので、手元にあった画集の模写を始めた。自分で考えて描くには、コンテストが邪魔して描けそうにないから、せめて模写でもしようと思ったのだ。模写も、絵の勉強では結構大切なことだけど、僕は始めたての頃に死ぬほどやっただけだ。

 止まらない緊張と興奮の中、思うように動かない鉛筆を持って、ああでもない、こうでもないと描いては消してを繰り返し、ようやく一枚完成させることができた。時計の針は十二時の三分前を指していた。

 急いでスマホを起動させ、インターネットの画面からホームページへ飛ぶ。あと数分後の未来に、僕は不安と期待を両肩に乗せ、スマホの画面に目を凝らすのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る