第8話

 家に帰ってからもショックは収まらず、無気力なまま画集を眺めていた。そして、ずっと考えていた。もちろん僕が考えているのは、目の前の絵のことではなく、数刻前に伶桜に言われた言葉だ。

 伶桜は僕が自分の才能に酔って、他人を見下していると思っていたらしい。いや、今も現在進行形で思っているだろう。僕は決してそんなつもりはない。というか、いつも自分のことで精一杯で他人のことなんか気にしていられる余裕もなかった。

 目が、熱い。泣くなんて何年ぶりだろう。

 真新しい画集が涙で汚れていく。せっかく手に入れたのに、もったいない。


 ひとしきり泣いた後、僕はまた絵を描いた。

 窓枠の中に、住宅街とそこから遠く離れた場所に位置する月が描かれていた。

「なんか違う」

 頭の中のイメージとキャンバスに浮かんだ夜景はどこかが大きく違っていた。全体の形のバランスは整っている。でも、夜空の鮮やかさや月の煌めき、街の影の漆黒さが何だか物足りない。どうしてそう思うか分からないけれど。

 画材のせいではないと思う。絵の具も、筆も、キャンバスも全ていつもと同じシリーズの物を使っているから、急に変わることはない。品質も絵夢先生のお墨付きだ。

 なのに、いつも通りに描けない。

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