第7話

 うぜぇんだよ、まじで。

 伶桜の言葉に心臓がどくんと跳ねる。僕に向かって言ったって決まったわけじゃないけど、変に痛い。

 僕じゃないよね?

 そう伶桜に尋ねたくて、勇気を出して振り向く。左足を後ろに下げて、身体を横に向かせて、さらにそこから首だけ左方向に捻じる。目に映ったのは、伶桜と伶桜の友人が顔だけをこちらに向けてクスクス笑っている姿。それを見た瞬間、何やってるんだろうと静かに僕を見つめる僕がいた。

 伶桜はわざと、僕に聞こえるくらいの大きさの声でこう言った。

「あーあ! ほんとむかつくわー。才能があるからってだけで、調子乗りやがって。最近は俺よりも下手なくせに、まだ見下してくるし!」

 ここで言葉を止め、大きく息を吸った音が聞こえた。

「とっとと絵描くのやめてくんないかなぁ!!」

 伶桜はすっきりしたらしく、笑いながら友達と歩いて行った。僕は茫然とそれを見ていた。

 まさか伶桜が僕に対してそんな風に思っていたなんて。調子乗ってるとか、見下すとか、僕は一切していないのに。

 足から力が抜け、僕は膝から崩れ落ちてしまう。頭が重い。心臓の音がやけに煩い。僕は今、息をしているだろうか。苦しくて、苦しくて、生きた心地がしない。『傷』という言葉の本当の意味が分かった気がした。

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