第6話

 ガヤガヤとしたクリスマスムードに包まれた街を、僕は独り寂しく歩いていた。次のコンクールに出す絵を描き上げたため、買い物にいったのだ。今はその帰り道。右手のレジ袋には、画集と色とりどりのチューブたちが顔を出している。左手には、母さんに頼まれた食料品が無造作に詰め込まれたエコバックがぶら下がっている。さっきからこいつらが僕の肩をバラバラに砕こうとしてくるのだ。本当は絵を描きたかったけれど、絵の具が切れてたし、母さんにお使い頼まれたし...と渋々外へ足を出向けたのだ。まあ、ずっと探し求めていた画集がたまたま見つけれたから、よかったんだけど。

 はあ。それにしても重い。後ろを振り返ると、まだショッピングモールの敷地から十メートルぐらいしか歩いていなかった。その距離は絶望としか言いようがない。そしてこの絶望は、僕の運動不足を自覚させるだけのものに思えた。

 前を向き直すと、我が家の屋根がミニチュアのように見える。結構僕の家はショッピングモールに近い方だけど、僕にとっては万里の長城よりも長く思えるのだ。

「――!?」

 僕がこれからの道のりの長さに途方に暮れていると、前方から見知った顔が目に飛び込んできた。

 伶桜だ。

 彼は二十メートルぐらい離れた先から、僕の知らない誰かと横並びで談笑しながら歩いている。

 声かけようかな。いや、でも、会話を止めちゃうのはなあ。絵画教室でたびたび会うだけの仲だし。でも、伶桜を見つけたというこの微かな喜びを共有したいとも思う。

 どうしよう、どうしようと迷う間に、僕たちの距離はぐんぐん短くなる。

 やっぱり、声かけようかな。伶桜優しいし。んー、でもやっぱり恥ずかしいな。

 僕と伶桜の距離はあと四メートル。そこで僕はようやく決めた。その答えは『伶桜から話しかけられるのを待つ』。我ながら身勝手だと思うけど、しょうがない。僕には行動を起こす勇気もないし、迷いごとをきっぱり決めることのできる決断力もない。

 もうすぐ伶桜と擦れ違う。僕は横目でちらちらと伶桜を見ながら、できるだけ自然を装う。そんな時、こんな言葉が聞こえた。

 「うぜぇんだよ、まじで。」

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