第5話

 息を吸うと、ついさっき落としてきたのであろう枯葉の臭いを乗せた木枯らしが、肺から順に身体を芯から冷たくさせる。続いて、息を吐くと、白く濁った息が音もなく周りの冷気に溶けていく。

 今年も終わりに差し掛かり、あと一週間も残されていない。そんなことに見向きもせず、僕は今日も絵画教室に来ていた。世間の学生たちは冬休みらしく、平日なのに教室が人やイーゼルでごった返していた。本当は、一人のほうが集中できるから毎年この時期はレッスンを受けない。でも、何としてでも次のコンクールでいい結果を出したいため、今日もここに来た。この前は全然ダメだったから次は絶対一番にならないと。僕はそんな覚悟を持っていた。

「彩木君、そこ曲がってるよ。」

「え――あっ! ほんとだ。」

 しまった。何やらかしてんだろ、僕。

 いそいそと消しゴムで証拠隠滅をしていると、周りからくすくすと声があがった。耳を澄ましていないと聞こえないぐらい小さな声。なのに、不思議とハッキリ脳内に侵入してくる。

 一体、誰だろう。

 教室内には僕を除いて十人ほど。その中の誰かが、あるいは複数人、もしや全員...。

 いや、落ち着け。大丈夫。きっと大丈夫。僕が想像していることは絶対違う、と思う。合っていても、それがどうした。僕には関係ないだろう。今は絵を描くことに集中しなければ。笑い声も、きっと気のせいだ。

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