第1話

 真っ白なキャンバスに筆をおく。筆は薄い黄色の影を残して、キャンバスから離れた。残された薄黄色の上で、カーテンの隙間から迷い込んだ真昼の光が踊りはじめた。キャンバスの周りには、石膏像、画集、絵の具などが、規則正しく、もしくは無造作に置かれていた。

 僕は今、コンクールに出す絵を描いている。今年で14歳。学校に通っていれば中学二年生だ。絵を習い始めて、8年もの年月が流れていた。その8年間に勝ち取った栄光は数知れず。家の中には、幾多のトロフィーやら賞状やらが飾られている。日本の中では常にトップ、海外でも一桁に入ることだってあった。何度かインタビューされたこともあった。巷では、天才少年と謳われているらしい。学校にもほとんど行かず、絵だけに全てを捧げたかいがあったのだと思う。注目を浴びるというのは、自分が認められるというのは、とても気持ちがいい。


 ふぅ。できた。

 キャンバスには、中心に光とそれを掴む1つの右手が大々的に描かれている。今回のコンクールのテーマは「自分」。僕は勝利を勝ち取った姿を描いた。僕にしか描けない絵を、僕にしか出せない色で。僕にしか表せないタッチで。

 あとはこれの写真をサイトに送るだけ。投稿が完了した僕は、また違う絵を描くために筆を手に取った。

 

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