第5話

試験当日。

私は一緒に受験する人が、会場まで車に乗せてくれることになった。

家の近くの本屋で待ち合わせをし、三人目の受験者を道中で拾う。

「緊張しますね……」

私はつい声に出す。

「うん、でも頑張って勉強してきただろうしさ」

「気楽に行きましょ」

三人でそう声を掛け合った。


試験会場は市内屈指の大きさを誇る大学。

私たちはどこの教室で受験するのか、と会場内を歩き回った。

教室を見つけ、それぞれ席を探す。


緊張がピークなのか、胃がキリキリし始める。

私はあえて深呼吸し、試験前にお手洗いを済ませておいた。


試験は一章から五章まで、それぞれに分かれており、一つの章で問題は20問、制限時間が40分だったはずだ。

合計で4時間ほどかかった。


登録販売者の試験は、五章の合計点が合格基準を超えた状態でも各章で基準値を越えなくては合格できない。

合計点のボーダーラインが84点だったと記憶している。

また、それぞれの章で最低4割程度正答しないといけない。

つまり、点数自体が86点程度取れていたとして、二章が6問程度しか正答していないとなれば不合格になるのである。

だからこそ、私は特に自信がなかった。


しかし、偶然とはいえ奇跡的な出来事が起きた。

ポイント、と言われ、プリントに法則を書き記しておいたところが出てきたのである。

しかも、土佐弁で書いていたせいでよく覚えており、ここだけは絶対正答できたという自信ができた。


上司に言われた通り、問題もしっかりと回答を書き写して帰る。

自己採点しろ、ということらしい。

私は不合格だ、と自分で決めつけていたが。


試験が終わり、私は父とショッピングモールで待ち合わせした。

大学から近いと思ったら、一時間歩く羽目になったのはいい思い出だ。

「あの大学からこのショッピングモールなら、四キロくらいあるぞ」

父は合流した後、笑いながら言ってきた。

先に知りたかったよ……、と私は苦笑いした。


その日、ようやく試験から逃れて一安心した。

そのまま、家に着いてすぐぐっすりと眠ってしまった。


翌日、上司と共に自己採点の答え合わせをしていく。

「一章満点! やるね!」

「けど、二章、三章が自信ないんですよね……」

「過ぎたことなんだから、気に病んでも仕方ないよ」

上司はそう言って笑い飛ばした。


結果的に、私は合格見込みだった。

合計点が合格ボーダーラインジャスト!

一章で大幅に点を稼いでいた上に、自信のないと嘆いていた二章、三章は合格基準を1問程度上回る程度の正答、そして四章、五章も合格基準をクリアしていた。

もし、回答の書き写しさえ間違っていなければ、一発合格というとんでもない結果になったのである。


一か月後、私は改めて公式サイトで受験番号を確認する。

この日は休みで、出先にいたので、スマートフォンから確認した。

掲載されていれば、合格である。

「ど、どうだろ……」

私は緊張で手が震える。


あった……!

受験番号が……あった!

つまり、登録販売者の資格を取得したことになる。


私は職場へと連絡を入れた。

受験番号の記載があった、と。


同時受験した二人のうち、一人は同時に合格した。

もう一人は残念ながらだったが……、彼女も二年受験したのちに取得している。

私は登録販売者で二年働き、管理登録販売者として店頭に立つこともあった。

管理登録販売者を経験し、今はドラッグストアから離職している。

だが、登録販売者を取得したことで私は医学にも関心を持つようになった。

分からないことがまだまだ多いけれど、薬学を学んでいくのは楽しいな、と今でも思っている。


《完》

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