第4話
上司の後押しもあり、私は再び立ち上がる決意をした。
上司はそんな私を気楽にしたいのか、頻繁にからかってくるようになった。
だが、上司にとっては私の反応は予想外だったと思う。
他の先輩がその場にいようがいまいが、冷たい目で上司を見ていたという。
というのも……。
私は親友曰く、『父譲りで頑固な一面』がある。
母曰く、『冗談は通じないし、頑固さは父譲り』である。
その父からも『お前はお父さん以上に冗談が通じない、なんでも真に受ける』と言われるほど、からかわれることが苦手である。
逆に、勉強を熱心に再開しようと思うには十分だったかもしれない。
なにせ、焚きつけられた気がして、また赤点を取るものか!
そう思うことはできていたからである。
だが、ある日の授業。
どうしても、先生の声で眠たくなってしまう。
いわゆるウォーパーボイス、眠たくなりやすい波長の声らしい。
「ここはぁー、ポイントなんですがぁ」
先生がそう強調して言う。
私はその時に閃いた。
恥ずかしながら、中学生の時私は美術部の幽霊部員であった。
イラストを描くということは苦手だが好きだった。
プリントなら、誰かに見せるわけでもない。
「~は~になり、-はーになります……」
私はそのままの言葉なら覚えられない気がした。
その為、プリントの端っこにイラストを描く。
そして、吹き出し風に書いておいたのである。
『~は~になると覚えとおせ』
『同様にーはーになる法則忘れたらあきまへんで』
なぜか方言である。
というのも、私は様々な地方を旅していた。
そのおかげか、様々な地方の方言に興味があり、いくつかの地域は話せる程度に覚えていた。
そして、この時の数日前だったか……、どうしても見たかったがチケットが取れなかった舞台の配信があった。
それが土佐をメインにした物であったので、土佐弁や京弁を選んで書いたのである。
芸は身を助く、とはよく言ったものだ。
後年だから私はそうしみじみ思う。
この日の確認テストでは、あと1問当たっていれば赤点脱出というできであった。
いわゆる及第点。
上司もこの結果を聞いた時は大層驚いていた。
成長の足跡、と喜んでいたことをよく覚えている。
この日を境に、私はポイントと言われたところを同じようにイラストと、それに関連した吹き出しを書き加えて覚えていくという独特な策を講じた。
いよいよ試験前日。
私は職場の上司が好意で休みにしてくれたのだが、日頃の疲労で半日程度寝て過ごしていた。
豪胆と言えば豪胆なのだろう。
そして、昼過ぎに飛び起き、プリント、テキストを何度も見返した。
過去問も何度か目を通す。
解いてみるのではなく、問題の傾向を覚え、テキストやプリントと照らし合わせていた。
四択問題だから、最悪の場合は勘で切り抜けるつもりだったのである。
元々一発合格なんて難しいのは分かっていた。
二回程度受けてみればいい。
私はそんな楽観的な姿勢でいた。
むしろ、そうしないとプレッシャーで押しつぶされそうだったからである。
夜も比較的早めにベッドに潜りこんだ。
しかし、なかなか眠れはしなかった。
結局、私はテキストを読むことさえ諦め、小説を読み始めた。
銀河鉄道の夜を読み終えた時に眠たくなり、ようやく眠りに就いた。
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