第2話

セールも落ち着き、ゆっくりと上司と話す時間ができた。

上司が言う。

「キミ、今年の登販を受験してみようか!」

「ん……? え、は、はい……」

私は思わず条件反射的に答える。


急に言われたのである。

「良かった、これでいや、やっぱりいいですとか言われてたら僕が困ってたよ」

上司が笑いながら言う。

「テキストは会社から支給になるけど、料金は給料から代金天引きになるからね」

「はい、わかりました……」

私は未だに頭に?マークを浮かべている。

つまり、状況をうまく呑み込めていないのである。


「頑張って取ろうね! 分からないことはいつでも聞きに来て。合格までサポートするから。登販取ったら頑張って二年間は働いてもらわないとね」

これも、講習を受けるようになってから意味を知ることとなった。


講習は1ヶ月に1度、合計9回である。

試験は9月の初旬だという。

初回の講習を受けに行った時、正直驚いた。

どんな形で講習になるのか、と思っていたが、淡々と薬剤師の先生がテキストを読み、プリントに書き写していくだけなのである。

てっきり、学校のように問題を当てられたりするのだろうか?

そんな風に考えていたから、面食らってしまう。


ただただ、1コマ2時間の授業を延々と聞くだけ……。

途中で10分休憩、もう1コマ授業を聞いた後のお昼は1時間休憩。

そして、また2時間授業を聞いて、確認テストの流れだ。

私は1コマ目途中から眠たくなってきた。

先生の読み上げる声が、いい塩梅に眠気を誘ってくる。

もちろん、寝ている場合ではないのだが。


授業中、水分補給だけは自由に、と言われていたのでブラックコーヒーを休憩中に購入し、口にする。

それでも、先生は淡々とテキストを読むだけ……。

周りには居眠りをしている生徒が何人か見受けられた。


私は何とか眠たい目をこする。

淡々と聞いているだけ、そして少し穴あきになっているプリントを埋めていく程度では、覚えられる気がしない。


私は、何となく嫌な予感がする。

そう、確認テストの出来である。

覚えきれていないところは、勘で挑んでいる。

「採点して、店舗に送ります」

怒られるだろうな……。

私は苦笑いをするしかなかった。


もちろん、結果は予想通り赤点。

上司も大笑いである。

「最初から良い点数狙おうって方が難しいから、今回は気にしないで良いよ」

私は恥ずかしくてうつむいた。


このままじゃいけない、と私は仕事を終えて帰宅した後、テキストをひたすら読んだ。

何度も何度も、繰り返し読むだけだったが……。

それでも、少しは打開できないか、と考えた末である。

しかし、その無理がいけなかったと気づいたのは、一週間後のこと。


仕事中、急なふらつきとめまいを感じた。

ほとんど睡眠時間を削り、テキストを読み続けたのが仇になった。

仕事中に貧血を起こしてしまい、休憩室に下がることになってしまったのである。


「無理はし過ぎないで良いよ」

女性の上司から声をかけられた。

「試験までまだ何か月もあるんだから、ゆっくり覚えていけばいいんだって」

先輩登販の女性もそう声をかけてくれる。

「とりあえず、今日は仕事の後、勉強の事を忘れてゆっくり眠ること!」

上司に強く念を押され、私は頷きざるを得なかった……。

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