国家資格を取る話

金森 怜香

第1話

数年前の11月26日。

私はあるドラッグストアの面接を受けていた。

地元で新規オープンするからである。


「医薬品登録販売者の資格、取りたいと思ったことはないですか?」

思わず面食らう。

ドラッグストアの面接でいきなり言われた言葉がこれだ。


「憧れの資格です、ぜひとも!」

実際、欲しいと思っている資格の一つだ。

私は面接担当者に笑顔で答える。

担当者は一旦、勢いのいい私の声ににこりとしていた。

すぐに担当者は履歴書にさっと目を通す。

手書きだと字が小さいから、とパソコンで作成したものだ。

資格欄には、食い入るように見ているから何を言われるかと身構える。


ちなみに、資格欄に記載した資格は、パソコン関係を3つほど、アロマ関係のもの、漢検、接遇サービスくらいと記憶している。

アロマ関係以外は準2級以上をピックアップしたものだ。

アロマ関係は成人してから趣味で取得したものだが、他は学生時代に取得したものである。


「ふむ、資格をたくさんお持ちですね。じゃあ採用で」

またまた面食らう。

即日採用かい!

脳裏ではズコーッとすっ転ぶ自分が浮かぶ。

ちなみに、人生で二度目の即日採用である。

一回目は実家から徒歩数分の地域密着を謳うスーパーである。


面接対策で色々考えてきたのは一体……?

と思いつつ、新しい職場ができて、私は内心安堵した。


まだ退職まで2日ほどあったレンタルショップでは、パートで働いていたが、パワハラを受け、有給消化も認めてもらえず、逃げるように退社を申告した為に大至急仕事が欲しかったから嬉しいのも確かだ。

担当者には、黒系の運動靴とロングパンツ、ブラウスを用意するように言われた。


同居の両親にも、採用されたことをすぐ伝えた。

採用の言葉に、両親も安堵した様子だ。


取り敢えず、あと2日ほど頑張ってレンタルショップで働き、翌月からドラッグストアが職場になる。

希望を胸に、私はレンタルショップの残りの業務や引き継ぎをし、契機を満了、清々しい気持ちで退職した。


だが、ドラッグストアで働くのが初めての私は、戸惑うことの方が多かった。

お客さんに言われるのである。


「なぜこの店は鎮痛剤のあれは置いてないんだ?」

「どこでも売っていると思ったのに」

私はとにかく謝罪するしかない。

私が勤めていたドラッグストアでは、条件的に第一類薬品を売ることができなかったのである。


そう、『薬剤師』がいない店舗だからだ。

第一類薬品は、薬剤師がいない場合は販売できないと法律で決まっている。

先輩たちの対応を見て、私も同じようにお断りと謝罪をしていくようにした。

ただ、当時の私はと言うと……。

なぜ強力な鎮痛剤を扱えないのか……。

その意味を分かっておらず、ただ『第一類薬品』だから扱えないとしか理解していなかったのである……。


そもそも、なぜそんな区分があるんだろう……。

私は気になりつつ、休憩時間に調べたがいまいちピンとこない。


医薬品登録販売者の先輩や上司に聞けたのは、バタバタしていたオープン準備や、大混雑ばかりのオープンセールが落ち着いた後だった。

「そういうところも、登録販売者の試験出るからね。一緒に覚えていこう」

先輩や上司の言葉が心強く思った。

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