第110話 到着 ~魔界の王がくる

「ついに、たどり着いた……」


 ブレシーナ王国中心。

 復活の儀式を行うのに、最適な場所とされる……


 どうやらそこはブレシーナ王国首都、王城があった場所らしかった。


「あちこちに、大理石の建物の跡があるね……!」


 レリアが周囲を見回す。

 かつては高くそびえていたと思われる城は、完全な廃墟となっていた。

 崩れた城壁、倒れて真っ二つに折れた尖塔……


 その瓦礫の山は、呪いの地にありながらも、まだ城の名残として形をとどめている。


「いちおうここも、エリクサー雨で土地自体は再生してるけど。


 瓦礫がちょい邪魔かなあ? エウねーさん?」


 ポータブル魔女の小屋を元の大きさに戻して、出てきたねーさんに意見を聞く。


「まあ、この城の跡地なら、どこでも大丈夫そうだがね。


 念のため、部屋みたいな場所だとありがたいかもだが」


 さすがにそんな形をとどめている場所はなかった。

 小屋の中じゃまずいのか?


「既に空間がおかしくなってる場所だからね。天国との接続に支障がでそうだ」


 じゃあ、この青空城跡でどうにかするしかないか……


 くいくい。

 そんな時、俺のスカートをつまんで引っ張る者がいた。


 ロレーナだ。


「わしのスキルを、また忘れとるじゃろ?」


 あ、そうか。

 【構造変化】で、ここにある瓦礫を使って部屋を作ってもらえばいいのか!


「部屋なんて、けち臭いことを言うでない。


 城そのものを、復元してやろうなのじゃ!」


 マジか。

 そういや、あのアンニザームの都市を作ったのも、ロレーナ自身だったっけ……


「それなら、お願いしようかな……!」

 

「まかせろ! あ、といってもわしはここの城を見た事がない。


 誰か設計図やら元の姿を知ってる者、おらぬかの」

 

 ファニー、どうだろう?

 ファニー、応答せよ。

 

(……え? 城の再現!? そ、そんな事が出来るのですか……!)

 

「知性の秘術で、記憶を探り、スキルで建築。簡単じゃろう」


 そんな、なんでもないような規模ではない話だが、城が復活するならしない手はないんじゃないかな。


(お、お願いします……!)


 ファニーの了解を得て、さっそくロレーナが俺の頭に手をかざし、記憶を探り始めた。


「……む? こりゃ、おぬしの裸体……?


 一面、姿見が張られておる……風呂場のようじゃ」


 そ、それはエルフの里の浴場の一件!

 俺の記憶じゃないか!


(も、もうっ! 忘れてくださいって言ったのに!)


「すごい強力な記憶じゃのう……


 記憶保管庫で【秘密】とかラベルが貼ってあったから見てみたが」


 見るなよ! プライバシー侵害だぞ!


「む、同じくらい強力な記憶として、金髪の女子の裸体が……?」


 レリアのだ……! 同じエルフの里で、星の舟の艦橋で起きた事件!


(へんたい! へんたい!)


 お、俺の記憶じゃなくて、ファニーが持つ城の記憶に行って! 

 よりにもよって、そんな秘密の画像記憶をピンポイントで探らなくても……!


「……ふむ。これか。美しい城じゃの。……よし、把握した。


 それでは、やるかの。【構造変化】……!」


 ロレーナがスキルを発動させると、周囲に散らばる瓦礫がゴリゴリ音を立てながら動きだした。

 みるみるうちに、城が組みあがっていく……!


「すごい。壮観。お城ってこんな風に出来るんだ」


 それは違うぞ、マティ。

 しかし、壮観なのは確かだな……!


「……ふう、出来たのじゃ。


 記憶があいまいなところや、石がすり減って材料も足りないとこがあったが。


 その辺は多少、アレンジさせてもらった。どうじゃ? 出来栄えは?」


 それはもう、見事という他ない、美しい城が目の前にそびえたっていた。

 大理石の白を基調とした、ところどころに赤レンガがさし色として入っている、美しい城だ。



「おおお……! こ、これこそ、ブレシーナ王城!


 私の記憶のなかの姿と、違いが分からないほどに再現されています!」


 エリーザが地面に突っ伏し、大泣きに泣いている。


(ああ……! 『ブレシーナの宝石』とうたわれた、あのかつての城が!

 

 見事に、当時の姿を取り戻して……ありがとうございます……!)


「ファニーも感涙にむせんでいるよ。すごいものだ、ロレーナのスキル」


「ふっふーん。じゃろう。


 おぬしのスキルと合わせれば、この国を復活させるなど、楽勝じゃ!


 一カ月かからず出来るじゃろう!」 


 人材以外は、確かにできそうだ。

 というか、ロレーナも手伝ってくれるのか?


「乗り掛かった舟じゃからな。


 おぬしのスキルも規格外のものじゃし、それを近場で見るのも乙ってことじゃ」

 

 ロレーナがバン、と俺の背中を叩く……

 が、背が足りなくて実際は尻を叩かれることになったが。


 ともかく、ありがたいことだ……

 そして、これで安全に儀式を行える。

 

「あとは、次の日食の日を待つだけだな」


「……だが、あまり良い話ばかりじゃないみたいだよ。


 というか、最悪なニュースが届けられた」


 と寄ってきたエウねーさんが眉間にしわを寄せている。

 最悪……?

  

「バレルビアの動向を探っていたクローンから報告だ。


 あの王が、動き出した。軍に動員がかかっている。海軍にすら、動きがあった。


 かつてない規模だ……戦争をはじめるつもりだよ」


 なんだって!?


 オーブの捜索は打ち切ったのか?

 それとも、それに代わる戦力でも確保したのだろうか。


「そのオーブの件だが……


 やつら、軍にキマイラなどのモンスターを組み込んでいるようなんだ。

 

 というか、今回の主力はどう見てもそいつららしい」


「なに? ってことは……まさか」


「やつら、オーブの秘術をある程度、また使えるようになってるってことだ。


 それはつまり……やつらもコピーを作っていた、ってことになる」


 やれやれとねーさんが首を振る。

 なるほど……ここで強気になった理由はそれか。


「そして、最悪なのが……というか、にわかには信じがたい話なんだが……


 とはいえ、クローンの放った使い魔からの情報は、確かだからね……」


 少し言いよどむエウねーさん。

 何が起こった?

 

「……バレルビアのやつら、最悪だよ。


 へたに時空のオーブを使ったもんだから、魔界に接続しちまった。


 そこから、魔界の王がやってきて、マウロ王の体を乗っ取った、らしい……」


「魔界!?」


 そんな世界が実際にあったのか……?

 天国が実在してるから、魔界もあってもおかしくはない、のか?



 伝説やら英雄譚に語られる『勇者と魔王の物語』は、魔界からやってきた魔王の話から始まるのが定番だ。

 魔王はとてつもなく恐ろしい力を持ち、人間の力は全く及ばない。

 そして、この世界が滅亡に瀕したとき……勇者が現れ、光をもって魔を滅ぼす。



「で、その本当にあった怖い魔界から魔王が現れて、キマイラを率いて戦争を始めると。


 いったい、どこの国に対して仕掛けるつもりなんだ?」


「やつらが放った斥候や、使い魔が向かった先は……ここだ」


 とねーさんは足元を指さした。


「ブレシーナ王国、かよ……!」


「魔王が陣頭指揮を執って、進軍を開始するようだ。


 目的は盗まれた三つのオーブ奪回、と喧伝してる」


 まあ、盗んだのは確かなんだけども!

 にしては大げさな陣容で取り戻しにくるもんだ。


 

 しかし、まるで魔王が俺の復活を阻止しにやって来るみたいじゃないか。

 最後の最後で、どえらい邪魔が入ってきやがった……!

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