第107話 エウねーさんの過去 ~盗まれたパンツ

「なんだい? さっきから」


「あ、いや……別に」



 夕食時。


 ちらちらと、エウねーさんを盗み見ていたのがバレ、ねーさんから不審がられてしまった。


 見ていた理由はもちろん……

 ねーさんが使っている魔女の秘術について、もう一度聞きたいと思っているからだ。


 しかし、そのタイミングがなかなかつかめないでいる。

 疑ってるわけじゃないけど、はっきりさせておきたい気持ちは大いにある。


「……ああそうだ。


 ちょっと手伝ってほしい事があるから、後でシルヴィアはアタシの部屋に来な」


 さすがねーさん。察してくれたようだ。

 てことで早めに食事を終え、他の皆が個室へ引っ込んだタイミングでねーさんの部屋へ。



「ふう、ようやく二人だけになれた」


「ぶっ!?」


 エウねーさんが部屋で飲んでいたお茶を吹き出した。


「な、なんだい!? 


 ほ、ほんとに二人きりになる機会をうかがってたってのかい!?」


 ねーさんはそう言う事を自分からは平気で言うくせに、言われると案外うろたえるな……


「いやまあそうなんだけど。ちょっと聞きたいことがあって……」


「何をだい……現在はフリーだよ……」


 ? ねーさんが何を言ってるのか良く分からないけど。

 なにか妙にソワソワしてるな……


 ここはもう、直球で行こう。


「魔女の秘術についてだよ。それって、『時空』の秘術と同じじゃないの?」


 ねーさんは何度か瞬きをしたのち、なんだ、という顔になった。


「……ああ、確かにね。オマエも気づいたのかい」


 やっぱり!?


「自分でオーブを解析してて、驚いたよ。


 アタシが昔から使ってた魔女の秘術と、全く同じなんだからね。


 どうなってるのか、さっぱり見当もつかないね……


 オマエに言ったところでしょうがないと思ったから、言わないでおいたが。


 まあ、気づくよな普通」


「い、いや、ロレーナが最初に気づいたんだけども」


「そうなのか。じゃあオマエ案外にぶいな! だはは!」


 うるせー!


 ……しかし。

 という事は、自覚無く使ってたってことなのか?


「どういうことなんだろうね……


 『時空』のオーブだけ、妙に解析がはかどるとは思ってたんだ。


 魔女の秘術そのものなんだものな……」


 ……時空、だけ?

 俺は首を傾げた。


 ロレーナは、生命の秘術で長生きしてるのでは、とかも言ってたけど……

 また、良く分からなくなってきた。


「だからアタシはもうすぐ『時空』のオーブの解析を終了し、マスターになれると思う」

 

 なんと。

 知性のオーブマスター・ロレーナに続き、時空のオーブマスターにねーさんが!


「リリアーナが今、生命のオーブに取り掛かりきりだから……


 もしかしたら、第三のマスターはリリアーナになるかもしれないね」

 

 あれ、自分の気持ちの研究のため、知性のオーブを解析をするって言ってなかったっけ?


「秘術を使って、自分の気持ちを解明するのは『なんか違うかも』ってさ。


 自分の気持ちは自分で考える、ということらしい」


 なるほどな。

 しかし、三つのオーブのマスターが集うかもしれない、と考えるとちょっとわくわくするな。


 ……それはともかく、ねーさんについては結局謎か。



「つか、ねーさんはいつから魔女やってるの?」


「そうさねえ? 何年前からだったかはもう忘れたが……」

 

 ねーさんが遠い目になった。



 ねーさんによれば、あの森には先代魔女が住んでいたらしい。

 人間のフリをしていたその魔女の正体をうっかり見破ったことで、ねーさんは魔女に強制弟子入り。


 それからずっと、ねーさん自身も魔女になるための修行を続けていたという。



「……なんで正体を見破ったら、その人も魔女にならないといけないんだ?」


「そういう呪いなんだそうだ。


 魔女の秘術を後世に伝え、絶やさないため……だとか。


 魔女を見破れるくらい優秀な人間をとっ捕まえて、オマエも魔女にならないか、ってな。


 見破っておきながら魔女にならず逃げた場合、呪いが発動して……そいつは死ぬ」


 め、迷惑な呪いだな―!

 ほんとに強制なんだ!


「しかし、となると……その先代魔女が『時空』の秘術使いだったってことか」


「いや、お師匠さんは全く違う秘術使いだったよ。割と普通の錬金術っぽかった」


 ……ますます分からなくなってきた!


「ある時、魔女の修行中に術式が暴走でもしたのか、アタシを中心に妙な爆発が起こってね。


 それからだね。アタシの秘術、今となっては『時空』の秘術だが……


 それが使えるようになったのは」


 爆発?

 思わず、黒焦げアフロになったねーさんを想像し、変な笑いが込み上げてきた。


「なんで笑う!?


 ……ともかく、それからはもうアタシは完全に師匠超え。


 師匠の錬金術も、軽々マスターしてね……


 師匠は「思い残すことは無い」と言って隠居しちゃったよ」


 と胸を張る。 


 ちなみに例のV字水着はもう着ていない。

 俺以外からも常識を疑われて、さすがに引っ込めたようだった。



「うーん。分かったのは、ある日突然使えるようになった、ってだけか。

 

 爆発ってのが意味不明だが……」


 本人からはこれ以上、情報は聞きだせないようだ。

 ともかく、悪意だけはなさそうなのは確か。


 謎はいつか解明される事を祈って、旅を続けるだけだな。

 

「……なるほどね。オマエは、アタシをちょっと疑ったってわけなんだね。

 

 オマエをここまで支援し続けてきたアタシを。


 秘術のことを秘密にして、何か企んでるんじゃないか? と」

 

 ねーさんの目がすっ、と細くなった。


「そ、それは違……! いや、多少は、そうかも、しれないけど。


 いや、当然信じてたから! 


 ほんのちょっとだけ芽生えた疑惑を、無くせれば完璧かなって!」


「ほー。ふーん。そうなんだ。アタシ悲しいよ。仲間に疑われて」


 ねーさんがしょんぼりした様子でそんな事を言う。

 そして、どこからともなくピンクの布切れを取り出し、指に引っ掛けてくるくる回しだした。


「いや、違う……! 違わなくもないけど、わかるだろ! 


 俺の体が元に戻るかどうかの瀬戸際で、怪しい要素が少しでもあると……!」


 と、ここでねーさんが回してる布切れ、見覚えがある事に気づいた。

 あれ……まさか……


「!?」


 慌てて、スカートの上から自分の尻や前を触って確かめる。

 ……ない! 下に穿いてたものがない!


「だはは! 気づいたようだね! アタシは時空のマスター直前つったろ。


 もう、時間を止めて、その間動けるようになってるんだ。


 試しにオマエの下着を、こっそり脱がしてみたよ! 全く気付きもしないねえ!」


 やっぱりかー! 


「凄いもんだね、時空のオーブ! 


 オマエは次の瞬間、全裸になってるかもしれないんだよ!?


 だはは! これは実に良いものだ! なあ、ノーパンシルヴィア?」 


 ……ほんとにこの人を信じて大丈夫なのか!?


 とりあえず、返せ! パンツ!

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