第104話 女王来訪 ~ティエルナの新メンバー

「ロレーナ女王!?」


 声の主に心当たりがあると思ったら、まさかの竜人都市女王。

 てことは、もう一人というのは……


「わたしからも、お願いしますう! ご主人さまあ!」


 ……誰?


 いや、声自体は知っている。

 俺たちでカスタマイズした、メイドゴーレムのアデリーナだ。


 俺たちと別れた後は、女王専属のメイドとなったはずだが……

 

「な、なんかロレーナ女王とアデリーナちゃんが!


 あ、遊びに来たみたいなんだけどー!?」


 とたとたと、レリアが嬉しそうに俺の部屋まで走ってきた。

 二人の声が聞こえたみたいだ。


「久々。何カ月ぶり?」


「早く、入り口を開けてあげましょう!」


 マティとエリーザも自室から出て来て、集まってくる。


「なんだい、皆の知り合いかい。


 クローンからの報告によれば、確かに竜人らしいね……」

 

 とエウねーさんが頭をかいた。


「外は寒いのじゃー! 早く開けぬと、火炎のブレス、吐きまくるぞ!


 その名もドラゴニックフレイム! あたり一面、火の海じゃ!」


 外の女王が物騒な事を言いだした。そういや、地上の気候は竜人向きじゃないんだった。

 さっさと入り口を開けるよう、エウねーさんにうながす。


「わかったよ、とりあえず敵じゃなさそうだしね。


 あまり騒がれると、ここの場所もバレルビア関係者にバレそうだし」


「……それはシャレなの?」


 思わずねーさんに突っ込んでしまう。


「あ? ……違うわ!」


 思わぬシャレになってしまっていたのを自覚し、ねーさんはやや顔を赤らめた。




「なっはっは! 久々じゃのう、シルヴィア! とその仲間たち!」


 小屋に入ってきたのは、確かに本物のロレーナだった。

 銀色で毛量たっぷりツインテールの、角と尻尾を生やした竜人の幼女(見た目)。


 そして、


「お久しぶりですうー! ご主人さまあ!」


 と妙に甘ったるい声と共に、俺にタックルをかけてきたのはメイドゴーレム・アデリーナ。

 強化魔法をとっさにかけなかったら、ファニーの体は吹き飛ばされるところだった。


「……なんか、芸風? 変わってない!?」


 仕草も表情も実に人間らしく、話し方も以前の固いところが全くない。


「なっはっは! わしの教育のたまものじゃ! 


 アデリーナに似合うメイドさんキャラなら、これが最適解ぞ! 髪の色的に!」


 アデリーナはさらさら桃色ロングヘア―だが、そういうものなのか?

 前より人間らしくなっているのは、確かだけど。


「それとも、以前のような、振る舞いが、良いでしょうか」


 突然、アデリーナが無表情になり、固い話し方に戻った。

 

「い、いや。そっちのアデリーナも懐かしいけど……


 人間らしくなったのも悪くはないかな」


「じゃ、こっちで行きますう! またよろしくです、ご主人さまあ!」


 ぱっと表情を明るくして、両手を合わせてハートマークを作るアデリーナ。

 女王はどういう教育をしたんだか……




「それで、女王は何しにここへ? 


 そもそも、私がここに居るってよく分かりましたね」


 とりあえず、全員で小屋の中の応接間に落ち着き、菓子をつまみながら話を聞くことにした。

 竜人都市に何か、トラブルでもあったのだろうか。


「ふむ。わしはこのたび、アンニザーム女王の地位から身を引いてな」


 そういえば、以前は頭に乗っけてた王冠がない。

 代わりに、丸っこい小さな帽子を乗せている。

 

「ええっ!? 女王、やめちゃったんですか?」


 ロレーナはレリアにうなずき、


「次の世代に託してきた。なので、多少身軽になってな。


 アデリーナも、前のご主人様にまた会いたい会いたい言うし……


 この際、お忍びで地上とやらを巡ってみようか、と思いついたのじゃ。


 で、お主のとこへやってきた、というわけじゃ」


 と俺に目を向けてきた。

 忍ぶなら角と尻尾はどうにかしたほうが。あと移動手段。


「『知性のオーブ』の秘術を使って、以前覚えたお主の精神パターンを探し当ててな。


 はるばるグリフォンを駆って、飛んできたのじゃ」


 グリフォンは、グロッセート平原ちかくの岩山に居たのを捕まえたらしい。

 当然、『知性のオーブ』の秘術で洗の……手懐けて、飛ぶ馬として利用したとか。


 俺の居場所も離れたところから探知できるし、恐るべし知性のオーブマスター。


「お主、冒険者とかいう職なんじゃろ。それにわしも加えい。


 そして世界を見て回るのじゃ!」


 女王がおしかけ冒険者になったと……


 しかし、今は女王と一緒に世界を巡る暇はないんだよな。

 てことで、俺はこれからの計画について、全てを女王に話したのだった。




「……なるほどなあ。


 シルヴィアには何やら魂が二つ入ってるっぽいのは感じていたが。


 そういうことじゃったか。で、元の体に戻るための秘術を、失われた国で行うと」


 ふむふむ、とうなずく女王。


「かまわんのじゃ。わしもそれについて行くだけの話じゃ。

 

 当然、アデリーナもな」


「はいですう!」


 とアデリーナが手を上げた。

 アデリーナはファニーに中に俺(シルヴァン)の魂が入っている事を知っても、特に思うところはないようだ。


「それで良いんですかね? 冒険ってわけじゃないけども」


「うむ。地上ならどこでも、わしにとっては新鮮な土地。


 ちょい寒いが、それ以外は良い所じゃな。空の蒼さと太陽には驚いたぞ!」


 なんだか、奈落から出てきたばかりのレリアみたいな反応だ。

 本人がそれでいいなら、パーティに加わってもらっても良いかな?



「話がまとまったところで、なんなんだが……」


 とエウねーさんがやや浮かない顔をしている。

 

「バレルビア関係と思われる連中が、森に入った。


 この木のあたりを目指していると、報告があった」


 ほんとにバレたのか!

 それにしても早い、この国の精鋭部隊が回されているのか。


「あや、すまんのー。たぶん、グリフォンが目立ってしまったのじゃろう。


 事情を聞くに、ここの国の連中には隠れて動きたいようじゃな。


 ……なら、責任はとろう。わしが連中をどうにかしてやるのじゃ」


 女王……いや元女王、ロレーナが席を立つ。

 そして、ねーさんの肩に手を置いた。


「なんだい……?」


「そう警戒するな。


 お主、オーブ由来の【精神接続】で分身たちにリンクしているじゃろ。


 わしもそこへ繋がる。


 そして、バレルビアとかいう連中を監視している分身の目を借りて……」


 と、ロレーナは目をつぶり、何事かむにゃむにゃ言っている。

 

「……? バレルビアの連中、突然気が変わったように、元来た道を帰り始めた」


 エウねーさんが驚いた表情で言った。


「なっはっは! 知性のオーブを極めれば、こんなことも可能なのじゃ。


 やつらを帰して、ここの森には一切の不審点なし、と報告するように仕向けた。


 わしの【精神介入】に対抗できるものなぞ、まずおらんじゃろう!」

 

 と無い胸を張った。


 エウねーさんのクローンを介して、バレルビアの連中を遠隔操作したのか。

 恐るべし……


 リリアーナが居たら「知性のオーブを極めれば、お姉さまを自由にできる!」とか言いそうだ。

 いま彼女は部屋に引っ込み、自身の気持ちの考察に浸ってるようだけど。


「どうじゃ。冒険者として、十分な戦力じゃろ?」


 十分どころか。

 この人、知性の秘術以外にも、物質を自在に変化させられる【構造変化】のスキル持ちだろ。


「はっきり言ってオーバーキル気味かと……」


 そんなロレーナと、ティエルナ全員から戦闘術を仕込まれたメイドゴーレム・アデリーナ。



 失われた国――ブレシーナ王国行きの旅に、頼もしい仲間が加わった。

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